日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH37] 虐待の連鎖

男女による比較

眞田英毅 (東北大学)

Keywords:体罰、虐待、世代間連鎖

問題と目的
 子どもの虐待は,いまなお,世間の注目を集めている。厚生労働省の調査では児童への虐待件数は右肩上がりである。多くの親は,体罰をしつけと称して行っており,それが結果的に虐待へとつながるケースが多い。このような状況を改善するため,2019年3月には親による体罰を禁止する閣議決定もなされた。親による体罰や虐待は暴力的行為を用いているという点で共通しており,かなり似通ったものである。本研究は,なぜ人々はしつけと称して暴力的行為をもって子どもをしつけるのかを世代間連鎖の観点から探索的に明らかにするものである。
先行研究
 身体的虐待(体罰)に関する先行研究は日本でも数多くの蓄積がある。例えば,吉川(2000)や新家ら(2004)によると,多くの親が「殴る・蹴る」は虐待であると認識するも「叩く」などの行為は虐待とみなさないことを指摘しており,金谷・杉浦(2006)はほとんどの母親(96.6%)はダメージの少ない身体の部位に体罰を伴うしつけを行っていることを明らかにしている。国際的にみてみると,子どもの虐待の世代間連鎖は30%程度といわれており(Kaufman and Zinger 1993),暴力経験のある人は親や教師の体罰を容認しやすく,他にも体罰容認には性別,保守的な考えなどが影響している(岩井 2003, 2010)。
 このように先行研究は示唆に富むものの,男女における暴行経験の受けやすさ(細坂・茅島 2017; Stein et al. 2013)や,世代における体罰への意識の違いを十分に考慮しているとはいえない。男性の方が虐待を受けやすいにもかかわらず,女性の方が虐待を行っているということを考慮すれば,日本において世代間連鎖が成り立っているのかに関して疑問が残る。本研究は,これらの先行研究では等閑視されてきた,性別による体罰の受けやすさの違いに着目して分析を行う。
データと手法
 データは「第7回生活と意識についての国際比較調査」(JGSS-2008)の面接票と留置B票を用いる。この調査では,2008年8月31日時点で満20歳以上89歳以下の全国の男女を対象に,層化二段無作為抽出法にて標本を抽出している。回収率は60.6%である。
 分析手法は二項ロジスティック分析を用いる。従属変数は,親による体罰の許容度である。この変数は,JGSS-2008では5件法でたずねているが,賛成の方にかなり分布が偏っている。そのため,「賛成」「どちらかといえば賛成」を1,「どちらともいえない」「どちらかといえば反対」「反対」を0にするダミー変数にした。独立変数は,岩井(2003, 2010)を参考に性別,年齢(コーホート),教育年数,大人から暴力を受けた経験,15歳時の世帯収入,親の教育年数,親のしつけの厳しさ(5。厳しい~1。やさしい),保守政党支持ダミー,子どもの教育責任,主観的幸福感,政治的考え,子どもの有無,性別を投入した。
結果と考察
 男性では大人からの暴力経験がある人は子どもへの体罰を許容しやすい。また,男子ダミーが有意な正の効果をもっており,男の子がいる人は,いない人よりも体罰を容認しにくいことがわかった。他方,女性では大人からの暴力経験は有意な効果をもっていない一方,40-60歳のコーホートは有意な負の効果をもっており,61-89歳のコーホートより体罰を許容しにくいことが明らかになった。また,女性では子どもの教育責任も有意な正の効果をもっており,学校よりも家庭に教育責任があると考える人ほど,体罰を許容しやすいといえる。
 今回の結果より,以下のことが考えられる。男性は被暴力経験が高く,その自らが受けてきた教育を学習し,子どもにもそれを適用しようとしている。しかし先行研究では実際に,女性の方が虐待している割合が高いことが明らかになっている。これは男性が育児に関わる時間が少ないことが影響しているのだろう。つまり,女性は暴力経験を受けておらずとも,育児のストレスなどで虐待を行っていると考えられる。
付  記
 日本版General Social Surveys(JGSS)は,大阪商業大学JGSS研究センター(文部科学大臣認定日本版総合的社会調査共同研究拠点)が,東京大学社会科学研究所の協力を受けて実施している研究プロジェクトである。