日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH43] 知的好奇心と仮想的有能感の関連

汀逸鶴1, 小塩真司2 (1.早稲田大学, 2.早稲田大学)

Keywords:仮想的有能感、拡散的好奇心、特殊的好奇心

問  題
 仮想的有能感は自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚(速水・木野・高木, 2004)と定義される。近年は,他者軽視傾向と自尊感情を組み合わせることで元来の定義に即したより純粋な仮想的有能感を導こうとする試みも行われている(速水ら, 2004,速水・小平, 2006など)。仮想的有能感が高い者は抑うつ感情や敵意感情といった負の感情を抱きやすく(小平・小塩・速水, 2007),このため仮想的有能感は社会的に望ましくない特徴とされている。他者軽視傾向が高く自尊感情が低い場合に仮想的有能感を持つとされているため,他者軽視を低減し自尊感情を向上させることができれば,より適応的な有能感がもたらされる可能性が示唆される。
 また,仮想的有能感を持っているとされる仮想型は学習における自律的な動機づけが低いことが指摘されている。しかし,他者軽視傾向・自尊感情ともに低い萎縮型と比較すれば全般的に動機づけが高いことも明らかになっている(速水・小平, 2006)。内的動機づけを促進する要因の1つとして着目される知的好奇心について,類型間で関連の差異がみられることが予想される。知的好奇心は方向を定めず多様な情報を求める拡散的好奇心と矛盾や不整合の解消を促す特殊的好奇心の2つのタイプを下位概念に持ち(Berlyne, 1960, 波多野・稲垣, 1971),個人の情報探索の志向性として位置づけることができる。
 知的好奇心の概念を通して情報探索の志向性が仮想的有能感とどのように関連するかを検討し,より適応的な有能感をもつための知見を得ることが本研究の目的である。
方  法
手続き 日本の大学生221名(女性112名, 不明2名,平均年齢20.1歳, SD = 2.9)を対象に,2018年12月に無記名の質問紙調査を実施した。
使用尺度 知的好奇心尺度(西川・雨宮, 2015) 12項目 5件法
Rosenbergの自尊感情尺度日本語版(桜井, 1997) 10項目 4件法
仮想的有能感尺度(version 2)(Hayamizu, Kino, Takagi&Tan, 2004) 11項目 5件法 他者軽視傾向を測定する尺度として用いた。
結  果
 仮想的有能感尺度と自尊感情尺度の得点をそれぞれ平均値で高低に分け,その組み合わせでサンプルを全能型(他者軽視傾向高×自尊感情高),自尊型(他者軽視傾向低×自尊感情高),仮想型(他者軽視傾向高×自尊感情低),萎縮型(他者軽視傾向低×自尊感情低)の4つのタイプに分類した。これら4つのタイプを独立変数,知的好奇心の下位尺度をそれぞれ従属変数とし,4タイプの平均値差について一要因分散分析を行った(拡散的好奇心:F(3, 217)=6.704, p=.000, 特殊的好奇心:F(3, 217)=2.246, p=.084)。Table 1に4つのタイプそれぞれの拡散的好奇心および特殊的好奇心の平均値を示す。知的好奇心のうち主効果が有意であった拡散的好奇心について多重比較を行った結果,全能型・自尊型どちらも仮想型に対して5%水準で、萎縮型に対して1%水準で有意に平均値が高かった。
考  察
 本研究では知的好奇心と仮想的有能感の関連について検討した。分析の結果,自尊感情が平均より低い仮想型や萎縮型は全能型や自尊型に比べて拡散的好奇心が低いことが明らかになった。このことから,拡散的好奇心は主に自尊感情と関連し,これを高める可能性があると考えられる。一方,特殊的好奇心は有意な主効果を示さなかったものの,それぞれのタイプを比較すると全能型は自尊型よりも,仮想型は萎縮型よりもそれぞれ平均値が高かった。全能型と仮想型はどちらも他者軽視傾向が平均より高いタイプに当たる。このことから,自尊感情が低い場合,特殊的好奇心は他者軽視傾向を高めることで仮想的有能感を向上させるが,それにより動機づけが最も低いとされる萎縮型を回避することができる可能性が示唆された。
 本研究では先行研究に倣い他者軽視傾向と自尊感情の得点を平均値で二分したが,この分類は妥当性が担保されていない点がしばしば議論されている。そのため今後はより妥当な分類法を含め,さらに慎重な検討を進める必要がある。