[PH54] Gritに関する失敗観と自己意識
Keywords:Grit、失敗観、自己意識
研究の背景と目的
Gritとは,長期的な目標達成のための忍耐もしくは根気と情熱であると定義され,IQとは関連しない,成功や達成の個人的要因である(Duckworth et al.,2007)。近年では,才能や遺伝子的な優位性よりも,Gritの能力が成功の獲得に対して大きな影響力を及ぼしていることが明らかになっている。日本における学校教育では,「成功体験」を伴う活動によって自尊心を高めるような教育活動に焦点が当てられている。しかしながら,成功体験は必ずしも健全な自尊心を育むわけではない(Baumeister et al.,2004)。また,人生を生き抜くうえでは,自身の失敗経験を受け入れ,どのように乗り越えるかという問題が生じることが多い。すなわち,失敗観の持ち方はGritや失敗した自己をどのように捉えるかという自意識と関連することが考えられる。そこで本研究では,Gritと失敗観及び自意識との関連性について予備的に検討することを目的とした。
方 法
1. 調査対象者と手続き
東海圏に在籍する大学生156名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した(有効回答数:153名)。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受け実施された(倫理番号:213)。
2. 調査材料
a) 失敗観尺度(池田・三沢,2012):失敗に対する価値観を測定する尺度である。「失敗のネガティブ感情」「失敗からの学習可能性」「失敗回避欲求」「失敗の発生可能性」の4因子で構成されており,高い信頼性と妥当性が確認されている(24項目/5件法)。
b) 自意識尺度(菅原,1984):自意識の強さを測定する尺度である。「私的自意識」と「公的自意識」の2因子で構成されており、高い信頼性と妥当性が確認されている(21項目/7件法)。
c) 日本語版GRIT尺度(吉津・西川,2016):諦めない心的態度(GRIT)を測定する尺度である。「根気」「一貫性」の2因子で構成されており、高い信頼性と妥当性が確認されている(10項目/5件法)。
結 果
各尺度とその下位因子との相関係数を算出した結果,Gritは「失敗からの学習可能性」との間に有意な正の相関を示し,「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に有意な負の相関を示した(失敗からの学習可能性:r=.285,p<.001/失敗のネガティブ感情価:r=-.228,p<.01/失敗回避欲求:r=-.256,p<.001)。Gritと「私的自意識」との間には有意な正の相関が示された(r=.309,p<.01)。「公的自意識」は「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に有意な正の相関を示した(失敗のネガティブ感情価:r=.595,p<.001/失敗回避欲求:r=.275,p<.001)。「私的自意識」と「失敗からの学習可能性」との間には有意な正の相関が示された(r=.161,p<.05)。
考 察
本研究の結果を概観すると,公的自意識は「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に正の相関を示し,「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」はGritとの間で負の相関が認められた。このことから,公的自意識は失敗経験をネガティブに捉える心的要因となり,ネガティブな失敗観はGritを低減させる要因となることが示唆された。一方で,私的自意識は「失敗からの学習可能性」との間に正の相関を示し,「失敗からの学習可能性」はGritとの間に正の相関を示した。このことから,私的自意識は失敗経験をポジティブに捉える心的要因となり,失敗からの学習可能性はGritを高めることが予想される。
今後は,これらの因果関係について明らかにしつつ,Gritの作用機序について,教育実践場面において実証的に検討することが期待される。
Gritとは,長期的な目標達成のための忍耐もしくは根気と情熱であると定義され,IQとは関連しない,成功や達成の個人的要因である(Duckworth et al.,2007)。近年では,才能や遺伝子的な優位性よりも,Gritの能力が成功の獲得に対して大きな影響力を及ぼしていることが明らかになっている。日本における学校教育では,「成功体験」を伴う活動によって自尊心を高めるような教育活動に焦点が当てられている。しかしながら,成功体験は必ずしも健全な自尊心を育むわけではない(Baumeister et al.,2004)。また,人生を生き抜くうえでは,自身の失敗経験を受け入れ,どのように乗り越えるかという問題が生じることが多い。すなわち,失敗観の持ち方はGritや失敗した自己をどのように捉えるかという自意識と関連することが考えられる。そこで本研究では,Gritと失敗観及び自意識との関連性について予備的に検討することを目的とした。
方 法
1. 調査対象者と手続き
東海圏に在籍する大学生156名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した(有効回答数:153名)。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受け実施された(倫理番号:213)。
2. 調査材料
a) 失敗観尺度(池田・三沢,2012):失敗に対する価値観を測定する尺度である。「失敗のネガティブ感情」「失敗からの学習可能性」「失敗回避欲求」「失敗の発生可能性」の4因子で構成されており,高い信頼性と妥当性が確認されている(24項目/5件法)。
b) 自意識尺度(菅原,1984):自意識の強さを測定する尺度である。「私的自意識」と「公的自意識」の2因子で構成されており、高い信頼性と妥当性が確認されている(21項目/7件法)。
c) 日本語版GRIT尺度(吉津・西川,2016):諦めない心的態度(GRIT)を測定する尺度である。「根気」「一貫性」の2因子で構成されており、高い信頼性と妥当性が確認されている(10項目/5件法)。
結 果
各尺度とその下位因子との相関係数を算出した結果,Gritは「失敗からの学習可能性」との間に有意な正の相関を示し,「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に有意な負の相関を示した(失敗からの学習可能性:r=.285,p<.001/失敗のネガティブ感情価:r=-.228,p<.01/失敗回避欲求:r=-.256,p<.001)。Gritと「私的自意識」との間には有意な正の相関が示された(r=.309,p<.01)。「公的自意識」は「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に有意な正の相関を示した(失敗のネガティブ感情価:r=.595,p<.001/失敗回避欲求:r=.275,p<.001)。「私的自意識」と「失敗からの学習可能性」との間には有意な正の相関が示された(r=.161,p<.05)。
考 察
本研究の結果を概観すると,公的自意識は「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」との間に正の相関を示し,「失敗のネガティブ感情価」と「失敗回避欲求」はGritとの間で負の相関が認められた。このことから,公的自意識は失敗経験をネガティブに捉える心的要因となり,ネガティブな失敗観はGritを低減させる要因となることが示唆された。一方で,私的自意識は「失敗からの学習可能性」との間に正の相関を示し,「失敗からの学習可能性」はGritとの間に正の相関を示した。このことから,私的自意識は失敗経験をポジティブに捉える心的要因となり,失敗からの学習可能性はGritを高めることが予想される。
今後は,これらの因果関係について明らかにしつつ,Gritの作用機序について,教育実践場面において実証的に検討することが期待される。