日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH55] 児童における自他への許し及び怒り対処行動と攻撃行動との関連

野呂美優1, 伊與田万実#2, 鈴木茜3, 今井正司4 (1.名古屋市立南陽小学校, 2.名古屋学芸大学, 3.名古屋学芸大学大学院, 4.名古屋学芸大学)

Keywords:自他への許し、怒り対処行動、攻撃行動

研究の背景と目的
 児童の攻撃性は,反社会行動などの社会的機能や学校適応に関する問題を引き起こしやすく,早期介入が求められている(今井,2011)。児童の攻撃性の発生持続要因の1つに「怒り(感情)」があり,有効的な対処方法としては,「問題解決」や「リラクセーション」が報告されている(藤井,2007)。
 本研究では,これらの「対処的」な観点ではなく,怒りの対象となる自他者に対して「許す」という「非対処的」な観点から,攻撃行動の緩和要因を予備的に検討することを目的とした。先行研究においては,児童の有する「自他への許し」の心的構えはストレスを低減させることが明らかにされており(今井,2017),Self-Compassionを土台にした教育の可能性が報告されている。しかしながら,自他への許しと攻撃行動や怒りへの対処的方略との関連性については詳細に検討されていない。本研究によって,これらの関連性が明らかにされることは,臨床教育学的にも意義が深い。
方  法
1. 調査対象と手続き
 東海圏の公立小学校に在学する6年生92名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した(有効回答数:79名)。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて行われた(倫理番号:214)。
2. 調査材料
a) 児童版許し尺度(腰山・今井,2017):許しを測定するために使用した。「自己への許し」と「他者への許し」により構成されている。
b) 小学生用P-R攻撃性質問紙(坂井・山崎,2004):攻撃行動を測定するために使用した。「反応的不表出性攻撃」「反応的表出性攻撃」「道具的関係性攻撃」により構成されている。
c) 児童版怒り対処尺度(藤井,2007):怒りへの対処行動を測定するために使用した。「感情爆発型対処行動」「感情抑制型対処行動」「問題解決型対処行動」「リラクセーション型対処行動」により構成されている。本研究では,怒りや攻撃行動の低減効果を有する「問題解決型対処行動」と「リラクセーション型対処行動」を用いた。
結 果
 各尺度の相関係数を算出した結果,許しは攻撃行動との間に有意な負の相関を示した(r=-.54, p<.01)。許しの下位尺度ごとに検討した結果,「自己への許し」と「他者への許し」は攻撃行動との間に有意な負の相関が示された(自己への許し:r=-.55 / 他者への許し:r=-.36,ps<.01)。怒りへの対処行動は攻撃行動との間に有意な相関を示さなかった(r=.00,n.s.)。怒りへの対処行動の下位尺度ごとに検討した結果,「問題解決型」と「リラクセーション型」は攻撃行動との間に有意な相関が示されなかった(問題解決型:r=-.027 / リラクセーション型:r=.015,n.s.)。
考  察
 本研究の結果を概観すると,自他への許しは,攻撃行動との間に有意な負の相関が示された。特に,「自己への許し」が攻撃行動との間に有意な負の相関が示されたことから,自分自身を積極的に慈しむ心的態度が攻撃行動を減弱させることが示唆された。しかしながら,怒りへの対処行動は攻撃行動との間で相関が認められなかった。これらの結果から,怒りへの対処行動は怒り感情を一次的に制御することは可能であるが,その否定的な出来事を受容するまでには至らないため,攻撃行動の減弱には関連しないことが考えられる。一方で,自分自身や他者を許すことができる者は,否定的な出来事が生じたとしても,それを受け入れ,肯定的なものへと捉え直すことができるため,自他ともに傷つけるような攻撃行動には結びつかないことが考えられる。すなわち,従来より用いられている自らの怒り感情に直接的に対応する方法よりも,自他を許すことが児童の攻撃行動の介入の焦点となりうることが示唆された。
 以上のことから,許しは「自己への慈しみ」を基盤とした概念であるため,自分自身を慈しむことに焦点をあてたアンガー・マネジメントの心理教育の有用性が示唆された。今後は学校現場に適用可能な介入方法として,許しの心的態度がどのように児童において獲得され,または阻害されるのかということについて,実証的研究により詳細に検討し,その効果を確認することが期待される。