[PH59] 学級集団アイデンティティと協力行動を高める要因の検討
「誇り」と「尊重」に着目して
Keywords:学級集団アイデンティティ、誇り、尊重
目 的
学校現場において,学級集団づくりの難しさや学級の荒れは重大な課題となっている。例えば小学校通常学級における特別支援児や周囲児の学級満足度からは,一斉指導と個別指導との両立が容易ではないことが示唆される(e.g.深沢・河村, 2017)。学級担任の児童一人ひとりに対するきめ細かい対応が必要とはいえ,学級の全児童に対して個別指導をすることは容易なことではなく,児童が学級の一員としての自覚をもち,互いに協力し合うことが重要になる。
Tyler&Blader(2001)は,集団アイデンティティを高める要因を「誇り」と「尊重」であるとして,それらと集団アイデンティティとの関連,そして「誇り」・「尊重」と協力行動との関連を明らかにした。さらに,早瀬・坂田・高口(2011)は医療現場における同僚からの「尊重」が看護師の役割外協力行動を高めることを明らかにした。本研究では,学級に対する「誇り」と学級内での「尊重」が学級という集団に基づくアイデンティティ(学級集団アイデンティティ)や児童の協力行動に関連があるかを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象者 公立小学校5,6年生各4クラス245名(男子130名,女子115名)。
調査時期 2019年2月下旬。
調査項目 学級集団アイデンティティに関する質問7項目(4件法),学級に対する「誇り」に関する質問6項目(4件法),学級内での「尊重」に関する質問6項目(4件法),協力行動に関する質問19項目(4件法)を使用した。協力行動は,役割内協力行動・役割外協力行動・規範行動の3種類で構成し,確認的因子分析の結果から採用したのは役割内協力行動5項目,役割外協力行動6項目,規範行動5項目の計16項目であった。
結果と考察
まず,分析で使用する各変数についての記述統計量,および相関分析の結果をTable 1に示した。6つの下位尺度は中程度,または高い有意な正の相関を示した。
次に,小学校において「誇り」と「尊重」から学級集団アイデンティティと協力行動に至るパスモデルを検討するため,Amos21.0を用いてパス解析を行った。そこでは,役割内協力行動と役割外協力行動と規範行動の誤差間の共分散を仮定し,さらに「誇り」・「尊重」から学級集団アイデンティティと役割内協力行動,役割外協力行動,規範行動にパスがすべてある場合のパス解析を行った。5%水準で有意であるパスを残して繰り返し分析を行ったところ,適合度指標は,χ2(5)=4.601,GFI=.994,AGFI=.967,CFI=.999,RMSEA=.025であり,十分な適合を示した。採用したモデルはFigure 1に示す。このモデルを採用した結果,学級集団アイデンティティには「誇り」が有意な高い値のパスを,「尊重」が有意な低い値のパスを示した。また,学級アイデンティティからは役割内及び役割外協力行動に,「誇り」からは全ての協力行動にパスが示される結果となった。
本研究で得られた結果から,職場集団だけではなく,学級集団においても「誇り」と「尊重」が集団アイデンティティの強化要因となることが示された。「誇り」と「尊重」の相関が強く(r =.79, p <.001),「誇り」は全ての協力行動に影響を与えた。つまり児童が学級に対して誇りをもち,さらに学級内で尊重されると感じることができれば,学級の一員としての自覚をもつことができ,協力行動を高めるものと考えられる。
引用文献
深沢和彦・河村茂雄 (2017). 小学校通常学級における特別支援対象児在籍数と周囲児の学級適応感の検討 学級経営心理学研究, 6, 1-10.
早瀬 良・坂田桐子・高口 央 (2011). 誇りと尊重が集団アイデンティティおよび協力行動に及ぼす影響―医療現場における検討― 実験社会心理学研究, 50 (2), 135-147.
Tyler, T. R., & Blader, S. L. (2001). Identity and cooperative behavior in groups. Group Process & Intergroup Relations, 4, 207-226.
学校現場において,学級集団づくりの難しさや学級の荒れは重大な課題となっている。例えば小学校通常学級における特別支援児や周囲児の学級満足度からは,一斉指導と個別指導との両立が容易ではないことが示唆される(e.g.深沢・河村, 2017)。学級担任の児童一人ひとりに対するきめ細かい対応が必要とはいえ,学級の全児童に対して個別指導をすることは容易なことではなく,児童が学級の一員としての自覚をもち,互いに協力し合うことが重要になる。
Tyler&Blader(2001)は,集団アイデンティティを高める要因を「誇り」と「尊重」であるとして,それらと集団アイデンティティとの関連,そして「誇り」・「尊重」と協力行動との関連を明らかにした。さらに,早瀬・坂田・高口(2011)は医療現場における同僚からの「尊重」が看護師の役割外協力行動を高めることを明らかにした。本研究では,学級に対する「誇り」と学級内での「尊重」が学級という集団に基づくアイデンティティ(学級集団アイデンティティ)や児童の協力行動に関連があるかを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象者 公立小学校5,6年生各4クラス245名(男子130名,女子115名)。
調査時期 2019年2月下旬。
調査項目 学級集団アイデンティティに関する質問7項目(4件法),学級に対する「誇り」に関する質問6項目(4件法),学級内での「尊重」に関する質問6項目(4件法),協力行動に関する質問19項目(4件法)を使用した。協力行動は,役割内協力行動・役割外協力行動・規範行動の3種類で構成し,確認的因子分析の結果から採用したのは役割内協力行動5項目,役割外協力行動6項目,規範行動5項目の計16項目であった。
結果と考察
まず,分析で使用する各変数についての記述統計量,および相関分析の結果をTable 1に示した。6つの下位尺度は中程度,または高い有意な正の相関を示した。
次に,小学校において「誇り」と「尊重」から学級集団アイデンティティと協力行動に至るパスモデルを検討するため,Amos21.0を用いてパス解析を行った。そこでは,役割内協力行動と役割外協力行動と規範行動の誤差間の共分散を仮定し,さらに「誇り」・「尊重」から学級集団アイデンティティと役割内協力行動,役割外協力行動,規範行動にパスがすべてある場合のパス解析を行った。5%水準で有意であるパスを残して繰り返し分析を行ったところ,適合度指標は,χ2(5)=4.601,GFI=.994,AGFI=.967,CFI=.999,RMSEA=.025であり,十分な適合を示した。採用したモデルはFigure 1に示す。このモデルを採用した結果,学級集団アイデンティティには「誇り」が有意な高い値のパスを,「尊重」が有意な低い値のパスを示した。また,学級アイデンティティからは役割内及び役割外協力行動に,「誇り」からは全ての協力行動にパスが示される結果となった。
本研究で得られた結果から,職場集団だけではなく,学級集団においても「誇り」と「尊重」が集団アイデンティティの強化要因となることが示された。「誇り」と「尊重」の相関が強く(r =.79, p <.001),「誇り」は全ての協力行動に影響を与えた。つまり児童が学級に対して誇りをもち,さらに学級内で尊重されると感じることができれば,学級の一員としての自覚をもつことができ,協力行動を高めるものと考えられる。
引用文献
深沢和彦・河村茂雄 (2017). 小学校通常学級における特別支援対象児在籍数と周囲児の学級適応感の検討 学級経営心理学研究, 6, 1-10.
早瀬 良・坂田桐子・高口 央 (2011). 誇りと尊重が集団アイデンティティおよび協力行動に及ぼす影響―医療現場における検討― 実験社会心理学研究, 50 (2), 135-147.
Tyler, T. R., & Blader, S. L. (2001). Identity and cooperative behavior in groups. Group Process & Intergroup Relations, 4, 207-226.