[PH60] 高校生における目標志向性と自己肯定感が無気力感に及ぼす影響
Keywords:目標志向性、自己肯定感、無気力感
問 題
近年,小学校から成人までを対象とした広い範囲で無気力感が問題となっている。牧 (2011) は,近年の社会的要因に加えて,発達的にも行動に対する成果が実感されない経験が蓄積されやすく,自己や環境に対するコントロール感を失い,無気力感に陥りやすいと指摘している。また,日本の子どもの自己肯定感は諸外国に比べて著しく低いため,教育等を通して自己肯定感を高めることが何よりも重要な課題である (松井, 2017)。
さらに,黒田・桜井 (2001) は,友人関係場面における目標志向性について検討している。経験・成長目標ならびに評価-接近目標は抑うつを生じさせにくく,評価-回避目標は抑うつを生じさせやすくする効果があることを明らかにしている (青木・中島, 2011)。
近年の高校生の特徴として,無気力状態,自己肯定感や目標志向性の低さについては研究されているが,この3つを関係づける研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,自己肯定感と目標志向性が無気力感におよぼす影響について検討を行った。
方 法
1. 調査対象者
私立高校に通う高校生1年生から3年生の731名を対象に調査を行った。回答に不備があった質問紙を削除した結果,655名を分析対象者とした。
2. 調査実施時期
調査時期は2018年5月下旬から6月中旬に行った。
3. 調査用紙
(1)目標指向性:友人関係場面における目標志向性尺度 (黒田・桜井, 2001) を用いた。(2)自己肯定感:自己肯定意識尺度短縮版 (平石, 1993) を用いた。(3)無気力感:無気力感尺度 (下坂, 2001) を用いた。
結果および考察
各尺度各因子の信頼性を確認するためにα係数を算出した。その結果,使用した質問紙のα係数は,概ね高い値が得られた (α = .66~.89)。
目標指向性,無気力感,自己肯定感に関して,性別,学年において差がみられるかどうかを検討するため,目標指向性3因子,無気力感3因子,自己肯定感6因子を従属変数とし,学年および性別を独立変数とする2要因分散分析を行った。その結果,交互作用は全て有意ではなかった。性の主効果について,目標志向性において,経験・成長目標は男子より女子の方が高かった。自己肯定感において,被評価意識・対人緊張は男子よりも女子のほうが高かった。さらに,学年の主効果について,目標志向性で,評価―接近目標において1年生より3年生の方が高かった。無気力感において,自己不明瞭で1年生より2年生の方が高かった。
次に,パス解析を実施した。モデル全体の適合度はGFI = .81,AGFI = .48,CFI = .79,RMSEA = .23であった (Figure 1)。分析の結果,「自己不明瞭」は「被評価意識・対人緊張」から正の影響を受けていた。また,「他者不信・不満足」は「自己受容」と「自己実現的態度」から負の影響を受けていた。さらに,「疲労感」は「自己実現的態度」から負の影響,「被評価意識・対人緊張」から正の影響がみられた。
以上のことから,評価されることや相手の言動に対して過敏である傾向は,自己に対する理解が不明瞭であることや日常の疲れを増加させることが明らかになった。一方,「自己受容」および「自己実現的態度」が「他者不信・不満足」を抑制する傾向がみられたことについて,自身に肯定的であり,物事に意欲的に取り組む姿勢は,孤独感や他者に対しての不信感,疲労感を減少させることが明らかになった。
近年,小学校から成人までを対象とした広い範囲で無気力感が問題となっている。牧 (2011) は,近年の社会的要因に加えて,発達的にも行動に対する成果が実感されない経験が蓄積されやすく,自己や環境に対するコントロール感を失い,無気力感に陥りやすいと指摘している。また,日本の子どもの自己肯定感は諸外国に比べて著しく低いため,教育等を通して自己肯定感を高めることが何よりも重要な課題である (松井, 2017)。
さらに,黒田・桜井 (2001) は,友人関係場面における目標志向性について検討している。経験・成長目標ならびに評価-接近目標は抑うつを生じさせにくく,評価-回避目標は抑うつを生じさせやすくする効果があることを明らかにしている (青木・中島, 2011)。
近年の高校生の特徴として,無気力状態,自己肯定感や目標志向性の低さについては研究されているが,この3つを関係づける研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,自己肯定感と目標志向性が無気力感におよぼす影響について検討を行った。
方 法
1. 調査対象者
私立高校に通う高校生1年生から3年生の731名を対象に調査を行った。回答に不備があった質問紙を削除した結果,655名を分析対象者とした。
2. 調査実施時期
調査時期は2018年5月下旬から6月中旬に行った。
3. 調査用紙
(1)目標指向性:友人関係場面における目標志向性尺度 (黒田・桜井, 2001) を用いた。(2)自己肯定感:自己肯定意識尺度短縮版 (平石, 1993) を用いた。(3)無気力感:無気力感尺度 (下坂, 2001) を用いた。
結果および考察
各尺度各因子の信頼性を確認するためにα係数を算出した。その結果,使用した質問紙のα係数は,概ね高い値が得られた (α = .66~.89)。
目標指向性,無気力感,自己肯定感に関して,性別,学年において差がみられるかどうかを検討するため,目標指向性3因子,無気力感3因子,自己肯定感6因子を従属変数とし,学年および性別を独立変数とする2要因分散分析を行った。その結果,交互作用は全て有意ではなかった。性の主効果について,目標志向性において,経験・成長目標は男子より女子の方が高かった。自己肯定感において,被評価意識・対人緊張は男子よりも女子のほうが高かった。さらに,学年の主効果について,目標志向性で,評価―接近目標において1年生より3年生の方が高かった。無気力感において,自己不明瞭で1年生より2年生の方が高かった。
次に,パス解析を実施した。モデル全体の適合度はGFI = .81,AGFI = .48,CFI = .79,RMSEA = .23であった (Figure 1)。分析の結果,「自己不明瞭」は「被評価意識・対人緊張」から正の影響を受けていた。また,「他者不信・不満足」は「自己受容」と「自己実現的態度」から負の影響を受けていた。さらに,「疲労感」は「自己実現的態度」から負の影響,「被評価意識・対人緊張」から正の影響がみられた。
以上のことから,評価されることや相手の言動に対して過敏である傾向は,自己に対する理解が不明瞭であることや日常の疲れを増加させることが明らかになった。一方,「自己受容」および「自己実現的態度」が「他者不信・不満足」を抑制する傾向がみられたことについて,自身に肯定的であり,物事に意欲的に取り組む姿勢は,孤独感や他者に対しての不信感,疲労感を減少させることが明らかになった。