128th JGS: 2021

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Oral

T3.[Topic Session]Collaboration and advance of geological, experimental, and seismological research on slow earthquakes

[1ch105-12] T3.[Topic Session]Collaboration and advance of geological, experimental, and seismological research on slow earthquakes

Sat. Sep 4, 2021 9:15 AM - 11:45 AM ch1 (ch1)

Chiar:Kohtaro Ujiie, Ken-ichi Hirauchi, Simon Richard Wallis

11:00 AM - 11:15 AM

[T3-O-6] Spontaneous slip acceleration under a boundary condition that constrains shear stress

*Miki Takahashi1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)

Keywords:pressure solution creep, direct effect, shear stress control test

大地震が発生するには、断層面上の広範囲に高い剪断応力がかかり、高い弾性歪エネルギーを蓄積している必要があろう。地震発生前、断層はその剪断応力より高い強度を持っている必要がある。一般に高温・高圧下で働く、圧力溶解クリープや転移クリープなどの塑性流動変形は、破壊時の強度より十分に低い応力でゆっくりと歪を解消(永久変形)するため、蓄積される弾性歪エネルギーは小さい。これら塑性流動変形は、剪断応力の増加に伴い変形速度が増加する速度強化の特性を持つ。この速度強化が示される剪断応力―変形速度の範囲において、断層はゆっくりと安定的に滑り続けることが可能である。もし、剪断応力をさらに高くし続けるとどうなるか。いずれ剪断応力は断層の最大強度に達し、破壊による動的弱化と高速すべりを起こす。その際に放出される弾性エネルギーが地震すべりや地震波となって甚大な被害をもたらすのである。蓄積される弾性エネルギーの大きさを考える上で、速度強化が果たす役割は重要であるにもかかわらず議論は十分ではない。また、圧力溶解クリープは未固結物質を固結により強化する作用をもち、低い応力に見合ったゆっくりとした永久変形を起こしながらも、最大強度を高く育んでいる。この観点をもとに、本研究では、圧力溶解クリープ変形を常温でも起こしうるアナログ物質を用いて、応力をその最大強度に至るまでステップ状に増加させる実験を行った。特に、応力が最大強度に達したときに起こる、自発的なすべりの加速と暴走すべりの開始について議論する。
 用いたアナログ物質は岩塩80wt.%、白雲母20 wt.%からなる粉体混合物である。試験装置は産総研活断層・火山研究部門所有の回転式高速摩擦試験機である[Togo and Shimamoto, 2012, JSG]。このアナログ物質約1.5gを外径50mm内径38mmのリング状のピストンに挟みこみ、垂直応力5MPaになるよう荷重をかける。飽和塩水を間隙水として流しいれ、圧力溶解クリープが起きるようにする。この条件におけるアナログ物質の強度は、先行研究[e.g. Niemeijer and Spiers, 2007, JGR; Takahashi et al., 2017, G-cubed]にて調べられており、1nm/sにて約1.4MPa(摩擦係数にして0.28)、1μm/sにて最大値の約3.5MPa(摩擦係数にして0.70)、約20 μm/s以上ではばらつきはあるもの約1.4MPa(摩擦係数にして0.28)あたりの剪断強度を示すことがわかっている。この物質はすべり速度1μm/sを境に極端な速度強化と速度弱化の領域と、約20μm/s以上での速度依存のない領域とを持っている。ここでは剪断応力をステップ状に増加させ、その後のすべり速度の変化を観測した。速度強化の領域では、先行研究の結果に整合的で、すべり速度は定常状態へと漸近した。一方、剪断応力が最大強度に到達すると、すべりは自発的に加速し、最終的には装置の最大すべり速度にまで加速しながら動的弱化を起こした(暴走すべり)。すべり速度が1μm/sをこえた時点から暴走すべりが発生するまでの間は2~4時間あり、この間、剪断応力は最大強度に等しい高い値を保っていた。また暴走すべりが起きた時点でのすべり速度は15~30μm/sであり、値として速度依存が現れなくなる20μm/sに近い。さて、1μm/sを超えると強度は極端に低下するにもかかわらず、この物質は、摩擦係数にして0.70もの高い剪断応力を数時間も維持できたことになる。なぜか。この理由は、摩擦の直接効果により説明できる。先行研究[Takahashi et al., 2017, G-cubed]によると、摩擦の直接効果(a = dμ/dlnV|state)はすべり速度が1μm/sにて0.1もの高い値を持つが、20μm/sにてほぼ0にまで急減する。(20μm/sにて摩擦の直接効果が0になることと速度依存がなくなることの両者は、高速でdilatancy角が0になることにより説明される。)この物質は、高い剪断応力を維持するため、摩擦の直接効果を使い一時的な強度を得ようと加速しているのである。一方、定常の強度は速度の増加に伴い低下を続けるため、さらに加速を必要とする。最終的には20μm/sにて、摩擦の直接効果が0になるため、一時的な強度すら獲得できず暴走すべりを起こすのである。このアナログ物質において、すべり速度1μm/sと20μm/sは重要なkey velocityであると言える。これらkey velocityが天然においてはどのような値になるのか、それらを計ることが大地震発生を議論する上で重要になるだろう。