1:00 PM - 1:30 PM
[T3-O-9] [Invited]The slow earthquake spectrum in the Japan Trench illuminated by the S-net seafloor observatories
Keywords:Slow earthquake, Subduction zone, Japan Trench, S-net
世話人からのハイライト紹介:これまで日本海溝のような古くて冷たいプレートが沈み込む地域では,スロー地震は起こらないと考えられていました.しかしS-netによる観測により,実は多様なスロー地震が発生し,東北地方太平洋地震などの巨大地震の発生状況を作り出す重要な役割を果たしていたことが明らかになりました.詳しくは,この研究で主導的な役割を果たした若き地震活動の物理研究のスター,西川さんの発表を聴いて下さい!参考:ハイライトについて
沈み込み帯プレート境界では、多様な過渡的低速断層滑り現象(スロー地震)が発生する。沈み込み帯で発生するスロー地震の活動を詳細に明らかにすることは、プレート境界の滑り挙動を推測する上で重要である。東北地方太平洋沖に位置する日本海溝では、Kawasaki et al. (1995, J. Phys. Earth) により、1992年7月、岩手県はるか沖合においてMj 6クラスの群発地震を伴うMw 7.3〜7.7の過渡的な非地震性滑りが観測された。また、Kato et al. (2012, Science) や Ito et al. (2013, Tectonophysics) は、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)に一か月程度先行するMw 7.0のスロースリップイベント(以下、SSE)を観測した。このSSEは、繰り返し地震を含むMj 5クラスの群発地震を伴い、宮城県沖に位置する東北沖地震の滑り領域内部で発生した。これらの先駆的研究により、日本海溝でスロー地震が発生することは知られていた。しかし、スロー地震が発生する場所が陸から遠いはるか沖合であったことや、これまで海底地震・測地観測が限られた地域及び期間でしか行われていなかったこともあり、日本海溝全域におけるスロー地震の詳細な分布は明らかではなかった。
2016年、防災科学技術研究所が日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の運用を開始した。S-netは、海底地震計と海底圧力計が一体となった150基の観測装置からなり、日本海溝全域と千島海溝南端部に敷設されている。本研究は、2016年8月から2018年8月までにS-netが記録した地震波形データから、スロー地震の一種であるテクトニック微動(以下、微動)を、エンベロープ相関法(Obara, 2002, Science; Ide, 2010, Nature)により検出した。検出された微動は、F-net広帯域地震観測網で観測された超低周波地震や、GEONET GNSS連続観測システムで観測されたSSEなど、異なる種類のスロー地震と同期していた。本研究は、上述のスロー地震の検出結果と、スロー地震に関連する諸現象(陸域の微小地震観測網により観測された繰り返し地震、及び地震活動の統計的解析により検出された群発地震)の検出結果を総合し、日本海溝全域にわたるスロー地震とその関連現象の詳細な分布図を作成した。その結果、日本海溝沿いでは、スロー地震及びその関連現象が、東北沖地震の滑り領域と相補的に分布することが明らかとなった。本研究は、スロー地震の分布に基づき、日本海溝を走向方向に3つのセグメントに分割する。北部(岩手県沖)及び南部(茨城県沖)セグメントでは、スロー地震とその関連現象が頻繁に発生している。一方、東北沖地震の滑り領域が位置する中部(宮城県沖)セグメントでは、スロー地震とその関連現象の活動は低調である。
ごく最近、日本海溝のスロー地震研究にさらなる進展があった。Baba et al. (2020, JGR) は、東北沖地震前後の期間(2003年から2018年)のF-netの観測データを用いて、超低周波地震の網羅的な検出を行なった。また、Nishimura (2021, G-Cubed) は、東北沖地震前後の期間(1994年から2020年)のGEONETの観測データを用い、茨城県沖においてSSEの網羅的な検出を行なった。また、Kubo & Nishikawa (2020, Sci. Rep.) は、岩手県沖および茨城県沖では、スロー地震とM j 7クラスのプレート境界地震の滑り領域が相補的に分布することを指摘した。
本研究は、S-netによる微動検出結果と上述の最近の研究成果の比較に基づき、日本海溝沿いのスロー地震活動の走行方向変化は東北沖地震の前後の期間を通して存在する持続的な特徴であると提案する。東北沖地震前の超低周波地震の分布は、東北沖地震後の微動の分布と良く相関し、超低周波地震・微動ともに、宮城県沖の東北沖地震滑り領域内部では活動が低調である。東北沖地震に一か月先行して宮城県沖で発生したSSEは特筆すべき例外であるものの、日本海溝ではスロー地震とプレート境界大地震が相補的に分布する。これらの観測結果から、岩手県沖と茨城県沖に位置するスロー地震多発地域は、プレート境界大地震の滑りの伝播を妨げる摩擦特性を有することが推測される。また、日本海溝沿いのスロー地震活動の走行方向変化は、プレート境界面からの反射強度の変化(Fujie et al., 2002, GRL)や、沈み込む海山(Mochizuki et al., 2008, Science)の位置と一部対応しており、プレート境界の構造の不均質性がスロー地震活動の空間変化を生むことを示唆する。
2016年、防災科学技術研究所が日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の運用を開始した。S-netは、海底地震計と海底圧力計が一体となった150基の観測装置からなり、日本海溝全域と千島海溝南端部に敷設されている。本研究は、2016年8月から2018年8月までにS-netが記録した地震波形データから、スロー地震の一種であるテクトニック微動(以下、微動)を、エンベロープ相関法(Obara, 2002, Science; Ide, 2010, Nature)により検出した。検出された微動は、F-net広帯域地震観測網で観測された超低周波地震や、GEONET GNSS連続観測システムで観測されたSSEなど、異なる種類のスロー地震と同期していた。本研究は、上述のスロー地震の検出結果と、スロー地震に関連する諸現象(陸域の微小地震観測網により観測された繰り返し地震、及び地震活動の統計的解析により検出された群発地震)の検出結果を総合し、日本海溝全域にわたるスロー地震とその関連現象の詳細な分布図を作成した。その結果、日本海溝沿いでは、スロー地震及びその関連現象が、東北沖地震の滑り領域と相補的に分布することが明らかとなった。本研究は、スロー地震の分布に基づき、日本海溝を走向方向に3つのセグメントに分割する。北部(岩手県沖)及び南部(茨城県沖)セグメントでは、スロー地震とその関連現象が頻繁に発生している。一方、東北沖地震の滑り領域が位置する中部(宮城県沖)セグメントでは、スロー地震とその関連現象の活動は低調である。
ごく最近、日本海溝のスロー地震研究にさらなる進展があった。Baba et al. (2020, JGR) は、東北沖地震前後の期間(2003年から2018年)のF-netの観測データを用いて、超低周波地震の網羅的な検出を行なった。また、Nishimura (2021, G-Cubed) は、東北沖地震前後の期間(1994年から2020年)のGEONETの観測データを用い、茨城県沖においてSSEの網羅的な検出を行なった。また、Kubo & Nishikawa (2020, Sci. Rep.) は、岩手県沖および茨城県沖では、スロー地震とM j 7クラスのプレート境界地震の滑り領域が相補的に分布することを指摘した。
本研究は、S-netによる微動検出結果と上述の最近の研究成果の比較に基づき、日本海溝沿いのスロー地震活動の走行方向変化は東北沖地震の前後の期間を通して存在する持続的な特徴であると提案する。東北沖地震前の超低周波地震の分布は、東北沖地震後の微動の分布と良く相関し、超低周波地震・微動ともに、宮城県沖の東北沖地震滑り領域内部では活動が低調である。東北沖地震に一か月先行して宮城県沖で発生したSSEは特筆すべき例外であるものの、日本海溝ではスロー地震とプレート境界大地震が相補的に分布する。これらの観測結果から、岩手県沖と茨城県沖に位置するスロー地震多発地域は、プレート境界大地震の滑りの伝播を妨げる摩擦特性を有することが推測される。また、日本海溝沿いのスロー地震活動の走行方向変化は、プレート境界面からの反射強度の変化(Fujie et al., 2002, GRL)や、沈み込む海山(Mochizuki et al., 2008, Science)の位置と一部対応しており、プレート境界の構造の不均質性がスロー地震活動の空間変化を生むことを示唆する。