10:00 AM - 10:15 AM
[R12-O-4] 3-D morphology of bubbles and melt flow pattern in the pseudotachylyte associated with Tsergo Ri Landslide in Nepal
Keywords:Tsergo Ri Landslide, pseudotachylyte, bubbles, 3-D morphology, flow pattern
はじめに:Tsergo Ri地すべりは,ネパールのLangtang地域に分布する高ヒマラヤ変成岩類分布域で発生した世界最大規模の地すべりの1つであり,滑り面に沿ってシュードタキライトが形成している.Masch et al. (1985) は,地すべり岩塊の移動はWSW方向低角度 (18−30°),変位は水平方向に2,200m,垂直方向に650m以上としている.Takagi et al. (2007) は,露頭で採取したシュードタキライトの試料に含まれるジルコン粒を用いてフィッション・トラック年代測定を行い,地すべりの発生年代を51±13Kaとした.シュードタキライト中には数mm~最大数cm程度の扁平な気泡が多く含まれている.メルト中の気泡の3次元形態をもとにした変形について検討した例は火山岩マグマでの研究は知られているが(Manga et al., 1998;Ohashi et al.,2018など),シュードタキライトメルト中の気泡の変形について検討した例はほとんどない.本稿では,医療用X線CTを活用し,巨大山体崩壊時に形成したシュードタキライトに含まれる気泡の3次元分布状況を検討し,地すべり時の摩擦熱融解とその変形挙動について検討した.
測定試料およびCT画像解析:今回観察に用いたシュードタキライトの定方位試料は,すべり面(露頭における測定値はN68˚W, 26˚S)に沿って生成された“断層脈”A-1(厚さ約10cm)と,すべり面から上方の地すべり岩塊に向かってほぼ鉛直に延びるパイプ状注入脈A-3 (厚さ約4cm)を用いた.CT画像の撮影は,電力中央研究所の医療用X線CTスキャナ (Aquilion Precision TSX-304A) を使用した.撮影条件は,スライス厚を0.25 mm,1ピクセルのサイズを0.098 mm (A-3)−0.130 mm (A-1) とした.
CT画像解析は,A−1については水平断面における気泡の伸長方向を観察し,気泡のアスペクト比が最大となる長軸方向をすべり方向(S36˚W)として設定した.滑り面をXY面とした時のXZ面とYZ面における気泡のアスペクト比を測定し,気泡の三次元歪とZ軸方向の歪みの変化および長軸方向と滑り方向のなす角度の変化について検討した.注入脈A−3については,パイプの長軸方向に平行な面と断面に平行な面でスライスして気泡の配列を観察した.なお,いずれの断面においても1mm間隔でCT画像を取得した.
結果:“断層脈”A-1のXZ断面のCT画像について検討した結果,試料縁辺部の気泡のアスペクト比は約3~13であるのに対し,試料中央部付近は約1~2.5と明瞭な差がある.また,気泡の長軸方向は定方位試料が示す地滑り面の傾斜18°SWに対して試料の上下で逆方向に傾斜して伸びている.このことから,シュードタキライト中の融解時の剪断歪は試料縁辺部で最も大きく,すべり方向の剪断流の流速は試料中央部付近で最も大きいことが示唆される.試料の縁辺部および中央部の代表的な気泡のフリンプロットによるk値は,変形が強い縁辺部(X/Z=11.6〜9.4)で8.9〜2.0であるのに対し,変形が弱い中部(X/Z=1.3)では0.15であった.従って,縁辺部の気泡の変形は偏長(一軸伸長)歪で特徴付けられる.また,縁辺部の上部と下部のどちらかで変形がより強いという傾向はみられない.
注入パイプ試料A−3をCT画像で観察した結果,パイプを縦割りにした半分の部分のみに気泡が発達している.その部分では,パイプの軸に平行な鉛直断面では上下に延びた扁平な気泡が多く認められ,特に気泡のない部分との境界に近接する気泡のアスペクト比は大きい.一方,水平断面では,概ね円形に近い気泡が多く認められるが,気泡のない部分との境界に近接する領域ではアスペクト比の大きい気泡も認められた.
以上より,A-1,A−3中の気泡は,地滑りが終了(上盤と下盤の相対速度がゼロ)し,シュードタキライトが冷却して固化するまでの間に発生した中央部と縁辺部との速度差に伴う単純剪断の痕跡を示すと考えられる.
引用文献:
Manga et al. (1998). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 87, 15–28.
Masch et al. (1985). Tectonophysics, 115, 131–160.
Takagi et al. (2007). Journal of Asian Earth Sciences, 29, 466–472.
Ohashi et al. (2018). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 364, 59–75.
測定試料およびCT画像解析:今回観察に用いたシュードタキライトの定方位試料は,すべり面(露頭における測定値はN68˚W, 26˚S)に沿って生成された“断層脈”A-1(厚さ約10cm)と,すべり面から上方の地すべり岩塊に向かってほぼ鉛直に延びるパイプ状注入脈A-3 (厚さ約4cm)を用いた.CT画像の撮影は,電力中央研究所の医療用X線CTスキャナ (Aquilion Precision TSX-304A) を使用した.撮影条件は,スライス厚を0.25 mm,1ピクセルのサイズを0.098 mm (A-3)−0.130 mm (A-1) とした.
CT画像解析は,A−1については水平断面における気泡の伸長方向を観察し,気泡のアスペクト比が最大となる長軸方向をすべり方向(S36˚W)として設定した.滑り面をXY面とした時のXZ面とYZ面における気泡のアスペクト比を測定し,気泡の三次元歪とZ軸方向の歪みの変化および長軸方向と滑り方向のなす角度の変化について検討した.注入脈A−3については,パイプの長軸方向に平行な面と断面に平行な面でスライスして気泡の配列を観察した.なお,いずれの断面においても1mm間隔でCT画像を取得した.
結果:“断層脈”A-1のXZ断面のCT画像について検討した結果,試料縁辺部の気泡のアスペクト比は約3~13であるのに対し,試料中央部付近は約1~2.5と明瞭な差がある.また,気泡の長軸方向は定方位試料が示す地滑り面の傾斜18°SWに対して試料の上下で逆方向に傾斜して伸びている.このことから,シュードタキライト中の融解時の剪断歪は試料縁辺部で最も大きく,すべり方向の剪断流の流速は試料中央部付近で最も大きいことが示唆される.試料の縁辺部および中央部の代表的な気泡のフリンプロットによるk値は,変形が強い縁辺部(X/Z=11.6〜9.4)で8.9〜2.0であるのに対し,変形が弱い中部(X/Z=1.3)では0.15であった.従って,縁辺部の気泡の変形は偏長(一軸伸長)歪で特徴付けられる.また,縁辺部の上部と下部のどちらかで変形がより強いという傾向はみられない.
注入パイプ試料A−3をCT画像で観察した結果,パイプを縦割りにした半分の部分のみに気泡が発達している.その部分では,パイプの軸に平行な鉛直断面では上下に延びた扁平な気泡が多く認められ,特に気泡のない部分との境界に近接する気泡のアスペクト比は大きい.一方,水平断面では,概ね円形に近い気泡が多く認められるが,気泡のない部分との境界に近接する領域ではアスペクト比の大きい気泡も認められた.
以上より,A-1,A−3中の気泡は,地滑りが終了(上盤と下盤の相対速度がゼロ)し,シュードタキライトが冷却して固化するまでの間に発生した中央部と縁辺部との速度差に伴う単純剪断の痕跡を示すと考えられる.
引用文献:
Manga et al. (1998). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 87, 15–28.
Masch et al. (1985). Tectonophysics, 115, 131–160.
Takagi et al. (2007). Journal of Asian Earth Sciences, 29, 466–472.
Ohashi et al. (2018). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 364, 59–75.