10:30 AM - 11:00 AM
[R12-O-5] [Invited]Ultrahigh-pressure pseudotachylyte
Keywords:pseudotachylyte, nanodiamond, ultrahigh-pressure metamorphic rocks, Nishisonogi metamorphic rock, tectonic overpressure
地震断層の化石として知られるシュードタキライトは,地殻下部の岩石や上部マントルのカンラン岩から知られている.これまで知られている最も高圧下で形成されたシュードタキライトは,ノルウェー西海岸のエクロガイト中のもので,その圧力は1.9 GPaとされている.今回われわれは,九州西端の西彼杵変成岩から,ナノダイヤモンド集合体を含む超高圧シュードタキライト(黒色シュードタキライト様脈)を発見したので,その詳細を報告し,成因と地球科学的意義を議論する. 西彼杵変成岩は白亜紀の低温高圧型変成岩で,泥質砂質片岩を主体とし,少量の塩基性片岩ならびに蛇紋岩を伴う.また蛇紋岩メランジュの産状を呈する塩基性―超塩基性複合岩体が狭長な岩体として産し,ヒスイ輝石岩などの構造岩塊を伴う.問題の超高圧シュードタキライトは,西彼杵半島の北西海岸に狭く分布する雪浦メランジュ中に産する.雪浦メランジュでは,塊状蛇紋岩の一部に,泥質砂質片岩ならびに塩基性片岩が,大小さまざまの小岩体ならびにブロック(径2~5m大の構造岩塊)として含まれる.Nishiyama et al.(2020)は,雪浦メランジュの泥質片岩,クロミタイト(蛇紋岩中に産するもの)ならびに黒色シュードタキライト脈中からマイクロダイヤモンドの産出を報告し,この雪浦メランジュが超高圧変成岩であることを明らかにした. 雪浦メランジュの塊状蛇紋岩はアンチゴライト+マグネサイトの組み合わせを有し,石英・マグネサイト脈が発達する.塊状蛇紋岩の一部はこの石英・マグネサイト脈に沿って,塊状の石英炭酸塩岩(carbonated serpentinite)となっている.また同質の石英炭酸塩岩が構造岩塊として産し,その中に黒色シュードタキライト様脈が産する.石英・炭酸塩岩の鉱物組み合わせは石英+マグネサイト±ドロマイトで,少量の緑泥石,フェンジャイトを伴うことがある.黒色シュードタキライト様脈の鉱物組合わせは基本的に母岩の石英・炭酸塩岩と同じである. 黒色シュードタキライト様脈には,カタクラサイト様組織を示す部分と均質な極細粒組織を示す部分がある.どちらも分岐構造を示すが,ガラスは残存しておらず,樹枝状結晶なども見られない.しかし,一部に特異な球顆状構造を呈する組織が見られる.この球顆は直径1 mm前後でほとんど細粒の石英のみからなるものと,マグネサイトを中心とし,石英,ドロマイトを伴うものがある.後者の場合,マグネサイトが球顆の中心部にあり,周囲からドロマイトに置換されるような組織を示す.稀に方解石がマグネサイトと接して産する.この組織はメルトからの急冷組織と判断されるため,黒色シュードタキライト様脈は,溶融を経験した断層岩,シュードタキライトであると判断した.マグネサイトと石英の溶融条件は,Kakizawa et al.(2015)によれば,無水の場合,6 GPaと非常に高圧になる. 黒色シュードタキライト様脈にはマイクロダイヤモンドが含まれ,その生成条件は2.8 GPa以上と見積もられる(Nishiyama, et al., 2020).またわれわれは同じ黒色シュードタキライト脈からナノダイヤモンド集合体を見出した(大藤・西山,2019).ナノダイヤモンド集合体は径1~2 mm程度の矩形粒子としてアモルファス炭素中に産し,径5~30 nmのナノダイヤモンド粒子の集合体である.部分的にラメラ状の部位が認められ,ロンズデーライトの共存が確認された.これにより石墨からのマルテンサイト相転移が示唆される.固相相転移によるロンズデーライトの形成は合成実験では,1000 ℃,13 GPaで成功している. 黒色シュードタキライト脈中のみ見られる方解石とマグネサイトの共生は,ドロマイトの高圧下での分解(ドロマイト=アラゴナイト+マグネサイト)を示唆している.この方解石がアラゴナイトから転移したものであるとすれば,その形成条件は,450 ℃で5 GPa以上となる. 以上,3つの独立した証拠(マグネサイトと石英の融解,ナノダイヤモンドとロンズデーライトの存在,方解石とマグネサイトの共存)から,この黒色シュードタキライト様脈は超高圧条件(5 GPa以上)で形成されたと推論される.しかし,この圧力条件は周囲の母岩(メランジュ岩石)の圧力条件(2.8 GPa以上)に比べて,高圧すぎる.この圧力差は何を意味するのだろう.講演では tectonic overpressure modelにより説明を試みる. 引用文献 Kakizawa, S. et al. (2015) JMPS, 110, 179-188. Nishiyama, T., Ohfuji, H., and 11 others (2020) Sci. Rept., 10, 11645 大藤・西山(2019)鉱物科学会2019年年会講演要旨