128th JGS: 2021

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Oral

R5 [Regular Session]Regional geology and stratigraphy, chronostratigraphy

[1ch412-16] R5 [Regular Session]Regional geology and stratigraphy, chronostratigraphy

Sat. Sep 4, 2021 1:00 PM - 2:15 PM ch4 (ch4)

Chiar:Daisuke Sato, Tomonori Naya

2:00 PM - 2:15 PM

[R5-O-5] Holocene sediments and enviromental changes in the Iriai lowland, Oga Peninsula

*Osamu Nishikawa1, Chieko SHIMADA2, Isao TAKASHIMA (1. Mineral Industry Museum, Akita University, 2. Department of Geology and Paleontology, National Museum of Science and Nature)

Keywords:Holocene, Iriai lowland, Oga peninsula, Diatom fossil

五里合低地は,男鹿半島北岸基部に位置する,南北2.4㎞ 東西1.5㎞の小規模な沖積低地である.東縁を申川断層の断層崖で区切られており,直線的な地形境界が発達する.海成段丘が発達し隆起傾向を示している男鹿北岸地域の中で,東側の八郎潟低地帯(白石,1990)とともに南北走向の断層の活動に関連した構造的な沈降が示唆される低地である.これまで,地下5mまでの表層部に限って堆積相の解析が行われているが(藤ほか,1995),深部の調査はほとんど行われていないため,低地を埋積している地層の全体像はわかっていない.著者らは,2000年代に入って土木調査で基盤まで掘られた数本のボーリング試料を秋田県から入手し,堆積物の解析を行っている.本講演では,低地中央部で掘られた1本のコアについて,岩相記載,珪藻群集解析,放射性炭素年代測定および,砂層の熱ルミネッセンス(TL)発光特性の検討等で得られた成果を報告する.五里合低地の堆積物は,最終氷期に侵食されてできた谷が,後氷期の海進で埋積され陸化するまでの過程を詳細に記録していた.
解析したボーリングコアの長さは23.45mである.標準貫入試験のN値が急に大きくなることにより,基盤深度が17.5mから19.5 mの間にあると推定される.基盤は,シルト混じりの極細粒砂で,周辺の段丘を構成する潟西層の岩相に似ている.その上の層序は,砂礫層(厚さ1m),砂層(厚さ0.6m),腐食土層Ⅰ(厚さ1.4m),シルト質細粒砂層(厚さ2.6m),厚い粘土層(厚さ7.3m;深度12 8m~4.5 m),有機質シルト層(厚さ1m),シルト混じり砂層(厚さ1.5m),腐植土層Ⅱ(厚さ1.9m),現地表の水田土壌となっている.放射性炭素年代は,腐植土層Ⅰ下部(深度15.63 m)が8990±30 yBP, 厚い粘土層の上部(深度5.81m) の有機物が5580±30 yBP, 有機質シルト層(深度3.72 m)の中の炭質物が3990 ±30 yBP, 腐植土層Ⅱ下部(深度1.9 m)が2930 ±30 yBPである.
N値が変化する上下の砂層に含まれる石英の赤色領域のTL発光特性はよく似たパターンを示し,層準による大きな違いはない.基底の砂礫層の礫種は硬質泥岩や流紋岩,火砕岩からなり,男鹿半島西部山地の火山岩類および女川層が給源と考えられる.よく円摩された細礫および中礫であり,西部山地と五里合低地は水系がつながっていないことから,基盤の潟西層や鮪川層に含まれる礫のリワークであると考えられる.一方,五里合低地の南側に存在する寒風山の噴出物は堆積物中に確認できなかったことから,堆積物を供給した河川は,寒風山北東麓の滝の頭から流下し低地中央を縦断する鮪川川ではなく,低地東方の潟西段丘を開析する谷であると考えられる.この台地には申川断層の活動に伴って申川背斜構造が発達し、東方に傾動している。珪藻化石群集については,基盤の砂層は海生種からなるが,深度15.72mの腐植土層は海生種をほとんど含まない.その上位の厚い粘土層までの地層は,砂泥底質に付着する海生種を多産ないし随伴するようになるが,淡水種や汽水種も産する.さらに上位の地層では,次第に汽水種から淡水種へと変化する.
これ等の結果から,五里合低地の環境変遷と堆積過程をまとめると以下のようになる.最終氷期に基盤の潟西層を削剥した谷が形成されていた.後氷期の海進によって,まず,基底砂礫層の堆積が始まり,湿地に環境変化して腐植土層が堆積した.さらに,小河川等の陸水の影響が強い内湾へ変化していき,細粒の砂が堆積した.厚い粘土層の堆積時期に縄文海進の高海面期に至ったと考えられる.その後,4000年~3000年前ごろから再び湿地の環境を経て陸化した.堆積速度は,下部の海進期にあたる地層で2.9 mm/yと速く,上部の地層では1.3~1.7mm/yと見積もられる.

文献
白石 1990,秋田県八郎潟の完新世地史, 地質学論集, 36, 47-69.
藤 ほか 1995,男鹿半島五里合(いりあい)における完新世の古環境解析.日本海域研究所報告, 26, 1-35, 金沢大学.