10:45 AM - 11:00 AM
[R23-O-2] Danger of the tsunami backflow: Improvement of anti-tsunami measures of the JAEA Tokai Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories
Keywords:tsunami drifts, tsunami backflow ebb, high-level radioactive liquid waste, tsunami fire by spilled oil, tsunami-devastated cemetery
日本原子力研究開発機構(JAEA)核燃料サイクル工学研究所(核サ研)東海再処理施設は、茨城県東海村の日本原子力発電東海第二発電所や大強度陽子加速器施設(J-PARC)の南方、二級河川「新川」右岸の河口近くに位置する。現在この施設は廃止措置中であるが、リスク低減のため高放射性廃液のガラス固化処理を速やかに行う必要があるので稼働が認められており、原子力規制委員会の東海再処理施設安全監視チームがその稼働と廃止措置の安全対策を監視している。この施設の標高は約6mであり、この付近の2011年3月11日津波の痕跡高は標高4.0~5.2mだったので、この津波による浸水はなかった(中野貴文ほか, 2015; 平成23年東北地方太平洋沖地震後の東海再処理施設の健全性に係る点検・評価の結果について。日本原子力学会誌, 57, 14-20)。
昨2020年6月17日の第10回原子力規制委員会において同チームの報告があり、その中で、津波漂流物が高放射性廃液貯蔵場(HAW)建屋に衝突・破壊して高放射性廃液が環境に漏れることへの対策として、同建屋の海側と新川側に防護柵を設置する計画が示された。私は、津波は押し波(遡上波)だけが危険なのではなく、川沿いの低地に入り込んだ津波が海に戻る時の引き波も同様に危険であり、漂流物対策の柵を設けるのであれば陸側(上流側)にも設けるべきある旨を指摘した(議事録参照)。
畑村洋太郎(平田直ほか著, 2011;「巨大地震 巨大津波 東日本大震災の検証」p. 168、朝倉書店)は、「津波は押し寄せてくるときだけでなく、引くときにも破壊的な力をもつ」と述べている。このことは、岩手県大槌町江岸寺の津波被災墓地を調査した石渡明ほか(平川新・今村文彦編著, 2013;「東日本大震災を分析する」第1巻p. 271-274、明石書店)も確認していて、「この墓地を襲った津波の引き波の流速は、自動車が走る速さ(36km/h)に達していたと考えられる。これは、豪雨の際に山間地で発生する土石流のスピードとパワーに匹敵する」と述べている。大槌の浸水高(津波痕跡の標高)は最高12.9mだったが、この墓地附近では8.6m程度だった(原口強・岩松暉, 2011;「東日本大震災津波詳細地図」上・下, 古今書院)。宮城県気仙沼市の浸水高は大川沿いで最高6.98m、鹿折川沿いで最高9.17mだったが(同書)、その記録DVDを見ると、押し波と引き波はどちらも10km/h程度の速さだったように見え、南三陸町志津川の津波(最高浸水高17.51m(同書))はそれより速かったように見える(東北放送, 2011「東日本大震災の記録~3.11宮城~」)。また、別のDVD(ビデオプラザ神奈川, 2011「東日本大震災 宮城・石巻地方の記録」)には、石巻市雄勝町名振地区の住人の、「下げる時の速さね…すごいスピードで降りて行くんだね」という証言がある。名振地区は海岸に山が迫り、浸水高は最高34.94mだった(原口・岩松, 2011)。
東海村の新川の下流部河川勾配(0.0012)は大槌の大槌川(0.0030)や志津川の八幡川(0.0058)よりは小さいものの、気仙沼の大川(0.0010)や鹿折川(0.0016)と同程度であり(原口・岩松, 2011から読図)、東海村の新川沿いの引き波の破壊力は気仙沼の2011年津波と同様と考えられる。
昨年6月の原子力規制委員会における私の指摘から約1年後、JAEAは2021年5月18日の第58回東海再処理施設安全監視チーム会合で、引き波用津波漂流物防護柵をHAW建屋の上流側にも設置する方針を示し、構内を走る公用車(中型バス約9.7t)を漂流物の対象として、浸水標高10.5m、流速2.7m/s(9.7km/h)を設計条件とすることを表明した(同会合資料7)。津波の対策には引き波への配慮が不可欠である。
なお、私は昨年6月の指摘の中で、津波火災への対策の必要性も述べた。大槌や石巻などでは津波漂流物の油や木材が燃えて火災が発生し、石巻では門脇(かどのわき)小学校が津波火災で全焼した(石渡ほか, 2013)。防護柵は大きい漂流物を防ぐことはできても、燃え盛る油の流入を防ぐことはできない。火災対策は津波対策とは別の事項であるが、実際に発生するのは複合災害であり、今後の火災対策は津波火災にも配慮してほしい。
図1.津波の引き波で川の下流側へ倒されて2つに割れ、津波火災により角が取れて丸くなった標準型の縦長の墓石。表面に彫られた字が火災による剥離のためにほとんど読めなくなっており、基礎部分の石材も丸くなっている。この墓地では地震による墓石の転倒はほとんどなかった。岩手県大槌町江岸寺の墓地で2011年7月31日石渡撮影。
昨2020年6月17日の第10回原子力規制委員会において同チームの報告があり、その中で、津波漂流物が高放射性廃液貯蔵場(HAW)建屋に衝突・破壊して高放射性廃液が環境に漏れることへの対策として、同建屋の海側と新川側に防護柵を設置する計画が示された。私は、津波は押し波(遡上波)だけが危険なのではなく、川沿いの低地に入り込んだ津波が海に戻る時の引き波も同様に危険であり、漂流物対策の柵を設けるのであれば陸側(上流側)にも設けるべきある旨を指摘した(議事録参照)。
畑村洋太郎(平田直ほか著, 2011;「巨大地震 巨大津波 東日本大震災の検証」p. 168、朝倉書店)は、「津波は押し寄せてくるときだけでなく、引くときにも破壊的な力をもつ」と述べている。このことは、岩手県大槌町江岸寺の津波被災墓地を調査した石渡明ほか(平川新・今村文彦編著, 2013;「東日本大震災を分析する」第1巻p. 271-274、明石書店)も確認していて、「この墓地を襲った津波の引き波の流速は、自動車が走る速さ(36km/h)に達していたと考えられる。これは、豪雨の際に山間地で発生する土石流のスピードとパワーに匹敵する」と述べている。大槌の浸水高(津波痕跡の標高)は最高12.9mだったが、この墓地附近では8.6m程度だった(原口強・岩松暉, 2011;「東日本大震災津波詳細地図」上・下, 古今書院)。宮城県気仙沼市の浸水高は大川沿いで最高6.98m、鹿折川沿いで最高9.17mだったが(同書)、その記録DVDを見ると、押し波と引き波はどちらも10km/h程度の速さだったように見え、南三陸町志津川の津波(最高浸水高17.51m(同書))はそれより速かったように見える(東北放送, 2011「東日本大震災の記録~3.11宮城~」)。また、別のDVD(ビデオプラザ神奈川, 2011「東日本大震災 宮城・石巻地方の記録」)には、石巻市雄勝町名振地区の住人の、「下げる時の速さね…すごいスピードで降りて行くんだね」という証言がある。名振地区は海岸に山が迫り、浸水高は最高34.94mだった(原口・岩松, 2011)。
東海村の新川の下流部河川勾配(0.0012)は大槌の大槌川(0.0030)や志津川の八幡川(0.0058)よりは小さいものの、気仙沼の大川(0.0010)や鹿折川(0.0016)と同程度であり(原口・岩松, 2011から読図)、東海村の新川沿いの引き波の破壊力は気仙沼の2011年津波と同様と考えられる。
昨年6月の原子力規制委員会における私の指摘から約1年後、JAEAは2021年5月18日の第58回東海再処理施設安全監視チーム会合で、引き波用津波漂流物防護柵をHAW建屋の上流側にも設置する方針を示し、構内を走る公用車(中型バス約9.7t)を漂流物の対象として、浸水標高10.5m、流速2.7m/s(9.7km/h)を設計条件とすることを表明した(同会合資料7)。津波の対策には引き波への配慮が不可欠である。
なお、私は昨年6月の指摘の中で、津波火災への対策の必要性も述べた。大槌や石巻などでは津波漂流物の油や木材が燃えて火災が発生し、石巻では門脇(かどのわき)小学校が津波火災で全焼した(石渡ほか, 2013)。防護柵は大きい漂流物を防ぐことはできても、燃え盛る油の流入を防ぐことはできない。火災対策は津波対策とは別の事項であるが、実際に発生するのは複合災害であり、今後の火災対策は津波火災にも配慮してほしい。
図1.津波の引き波で川の下流側へ倒されて2つに割れ、津波火災により角が取れて丸くなった標準型の縦長の墓石。表面に彫られた字が火災による剥離のためにほとんど読めなくなっており、基礎部分の石材も丸くなっている。この墓地では地震による墓石の転倒はほとんどなかった。岩手県大槌町江岸寺の墓地で2011年7月31日石渡撮影。