128th JGS: 2021

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Oral

R23 [Regular Session]Nuclear energy and geological sciences

[1ch507-10] R23 [Regular Session]Nuclear energy and geological sciences

Sat. Sep 4, 2021 10:30 AM - 11:45 AM ch5 (ch5)

Chiar:Kenichi Yasue, Shinji Takeuchi

11:15 AM - 11:45 AM

[R23-O-4] [Invited]Issues on integration of multidisciplinary knowledge through review activity of NUMO Safety Case

*Keiichiro Wakasugi1 (1. Tokai University)

世話人からのハイライト紹介:2018年に原子力発電環境整備機構が公表した地層処分に関する「包括的技術報告書」に対して、日本原子力学会の特別専門委員会が行ったレビューに関する講演である.地層処分では地質学,土木工学,安全工学など様々な分野が関係し学際的なアプローチが必要である.レビューでは異分野間でのコミュニケーションや文化の違いに起因する議論の衝突や深化が見られたという.講演では知識の統合化の難しさやそれらの重要性が紹介される.参考:ハイライトについて
1. はじめに
原子力発電環境整備機構(以下,NUMO)は,高レベル放射性廃棄物およびTRU等廃棄物の安全な地層処分の実現に向けた包括的技術報告書「わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-」[1](以下,包括的技術報告書)を取りまとめ,そのレビュー版を2018 年11 月21 日に公表した。この包括的技術報告書は,文献調査に応募があった際のサイト調査,処分場の設計・建設・操業、閉鎖後長期の安全評価に関する方法論を総合的に示し,地層処分の実施主体として技術的な準備が整っていることを示すことを目標としている。この目標を達成するためにNUMOは、包括的技術報告書が国内外の最新の科学的・技術的知見に照らして,サイトが特定されていない段階のセーフティケースとして,十分な技術的信頼性を有していることを,客観性,科学的・技術的妥当性,技術的信頼性等の観点から確認するため,日本原子力学会にレビューを依頼した。日本原子力学会は14名の専門家で構成されるNUMO 包括的技術報告書レビュー特別専門委員会を設置し、1年間にわたるレビュー作業の結果を報告書[2]としてまとめ、2019年12月に公開した。ここでは、そのレビューの内容について報告するとともに、レビュー作業において生じた異分野間での議論や課題について報告する。

2. 原子力学会によるレビュー
包括的技術報告書における地質環境分野に関する主要な成果は、対象母岩を日本地質学会の分類に基づく7岩種から、岩石特性の類似性を考慮し3岩種(深成岩類、新第三紀堆積岩類、先新第三紀堆積岩類)に類型化を行うとともに、地質環境の特徴の詳細度に応じた3段階のスケール区分を提示したことである。これに基づき、地質環境情報(地質構造モデル、水理地質構造、水理、岩盤力学)を統合したモデルを構築するための一連のプロセスを具体的なパラメータや設定根拠とともに提示し、サイト選定に用いられる調査・評価技術が体系的に取りまとめられた。レビューの全体的な結論としては、包括的技術報告書はサイト選定の前段階におけるセーフティケースとして科学的・技術的に十分なレベルの信頼性を有し、国際的な枠組みとも整合しており、今後サイト選定を進めていく上で、適切にサイト調査や工学設計、安全評価を行うことができる手法が開発されている、とされた。一方、報告書の信頼性をさらに向上させるための技術的根拠の補強や説明の拡充などのコメントが700件以上も挙げられた。

3. 異分野間の知識の統合化における論点
包括的技術報告書は専門性の高い技術報告書であり,地層処分についてある程度の技術的な知識を持った専門家を対象として作成されている。このため、レビューにおいては地層処分に近いと考えられる専門家が招聘され、作業が進められた。しかしながらレビューの過程においてはしばしば意見の一致を見ない議論があった。例えば、地層処分における「地質環境」の定義が専門家ごとに異なることに起因してセーフティケースの文脈が正しく理解されない、専門家間で安全評価の論理構造について共通の理解が得られないまま地質環境の長期安定性が議論され論点がかみ合わない、などといった議論である。これは,地層処分特有の専門用語と方法論が存在するためであり、これらは地層処分コミュニティには通じても,一般的な科学技術コミュニティに通じるとは限らないことに起因していると考えられる。地層処分では数km四方の不均質な岩盤を対象に数万年以上の時間スケールで安全評価を行う必要があり、これに起因する不確実性への対応が必須である。そのためサイト調査,工学設計,および安全評価の各領域間の相互補完やフィードバックによる不確実性低減に向けた段階的アプローチを行う必要があり、今後分野間の連携はますます重要になると考えられる。レビュー委員会では回を重ねるごとに議論の視点の共有化が図られていったことを踏まえると、異分野間の知識の統合化や、地層処分の専門家以外の科学技術コミュニティからの地層処分への理解を求めるためには、今後,地層処分特有の専門用語や方法論に関する共通理解の促進を図るための取り組み(e.g. 専門用語を技術的、社会的、言語学的な観点から分かりやすく説明した共通語彙基盤の構築)を進め、地層処分に関する理解の向上を図ることが有効であると考えられる。

文献
[1]NUMO:包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-(レビュー版) 2018年11月21日, NUMO-TR-18-03, 2018.
[2]日本原子力学会:「NUMO 包括的技術報告書」レビュー報告書, 一般社団法人 日本原子力学会「NUMO 包括的技術報告書レビュー」特別専門委員会(2019年12月), 2019.