2:45 PM - 3:00 PM
[T7-O-2] Zircon U–Pb dating of Quaternary ash tuff bed exposed along the Shiribetsu River at the northern foot of Yotei Volcano, southwest Hokkaido, Japan
Keywords:zircon, U-Pb dating, Tatsumi ash tuff, Yotei Volcano
はじめに:
南西北海道中央部に位置する羊蹄火山の最初期の活動を把握するため,我々は火山周辺の堆積物層序を再検討している.羊蹄火山北麓の地質は,下位より中位段丘堆積物,留寿都層(洞爺火砕流堆積物など),低位段丘堆積物,真狩別層(主に羊蹄火山のテフラ層からなる:Uesawa et al., 2016)で構成されているという報告がある(土居・長谷川,1956)のみで,堆積物の詳細な記載や年代値は明らかにされていなかった.そこで,尻別川沿いの堆積物を調査したところ,最下位の層準に未記載の第四紀の凝灰岩を発見した.本論では,この凝灰岩を巽(たつみ)凝灰岩層(新称)と命名し,そのジルコンU–Pb年代を得たので報告する.
層相および記載岩石学的特徴:
巽凝灰岩層は,羊蹄火山北麓の尻別川沿いに幅約25m,長さ約90mの範囲で露出している.非溶結であり,淡茶褐色の風化した十数センチ~数センチの軽石と砂サイズ未満の火山灰の基質からなり,ash tuff (Le Maitre, 2002)に分類される.露出している部分で観察する限りでは,石質岩片は少ない.本堆積物が含有する鉱物は,斜長石・直方輝石・不透明鉱物・石英であり,わずかに単斜輝石も含まれている.石英は,角の取れた他形のものや清澄な正八面体に近い自形のものを含む.ガラスの多くは粘土化しているが,残存するガラスは茶褐色を呈し,形態はバブルウォール~繊維状発泡である.
ジルコンU–Pb年代:
抽出した20粒のジルコンのU, Pb, ThをLA-ICP-MSで測定し,Sakata(2018)に基づきU–Pb年代を算出した結果,1~30Maの幅広い年代を示した.このうち最若の6粒のジルコンU–Pb年代の加重平均年代は,1.21±0.23Maであった.また,同じ6粒に対してTera-Wasserburg図を用いた回帰直線のコンコーディア年代を検討したところ,1.24±0.20Maが得られた.これらの検討結果から,発見した凝灰岩の噴出年代は,約1.2Maと推定される.
議論・今後の課題:
今回発見された凝灰岩は,河川沿いに露出した岩体であり,他の堆積物との直接の層位関係は不明であるが,得られた年代値や構成物から,調査地域周辺に広く分布する洞爺火砕流堆積物や支笏火砕流堆積物でないことは明らかである.周辺火山で1Ma頃の活動が報告されている火山としては,ニセコ火山群(約2Ma~現在まで活動:新エネルギー総合開発機構, 1986)があげられるが給源の詳細は不明である.給源などの詳細を明らかにするためには,分布やガラス組成分析など更なる検討が必要である.
謝辞:
北海道大学の宮坂瑞穂博士には調査の際にお世話になった.本研究は,文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の研究費の一部を使用した.記して感謝いたします.
引用文献:
Le Maitre R. W. (ed.), 2002, Igneous Rocks. A Classification and Glossary of Terms. 236p.
土居繁雄・長谷川潔, 1956, 5万分の1地質図説明書 倶知安 札幌-第28号.47p.
Sakata, S., 2018, Geochemical Journal, 52, 281–286.
新エネルギー総合開発機構, 1986, ニセコ地域調査 火山岩分布年代報告書.87p.
Uesawa, S., Nakagawa, M., Umetsu, A., 2016, Jour. Volcanol., Geotherm., Res., 325, 27–44.
南西北海道中央部に位置する羊蹄火山の最初期の活動を把握するため,我々は火山周辺の堆積物層序を再検討している.羊蹄火山北麓の地質は,下位より中位段丘堆積物,留寿都層(洞爺火砕流堆積物など),低位段丘堆積物,真狩別層(主に羊蹄火山のテフラ層からなる:Uesawa et al., 2016)で構成されているという報告がある(土居・長谷川,1956)のみで,堆積物の詳細な記載や年代値は明らかにされていなかった.そこで,尻別川沿いの堆積物を調査したところ,最下位の層準に未記載の第四紀の凝灰岩を発見した.本論では,この凝灰岩を巽(たつみ)凝灰岩層(新称)と命名し,そのジルコンU–Pb年代を得たので報告する.
層相および記載岩石学的特徴:
巽凝灰岩層は,羊蹄火山北麓の尻別川沿いに幅約25m,長さ約90mの範囲で露出している.非溶結であり,淡茶褐色の風化した十数センチ~数センチの軽石と砂サイズ未満の火山灰の基質からなり,ash tuff (Le Maitre, 2002)に分類される.露出している部分で観察する限りでは,石質岩片は少ない.本堆積物が含有する鉱物は,斜長石・直方輝石・不透明鉱物・石英であり,わずかに単斜輝石も含まれている.石英は,角の取れた他形のものや清澄な正八面体に近い自形のものを含む.ガラスの多くは粘土化しているが,残存するガラスは茶褐色を呈し,形態はバブルウォール~繊維状発泡である.
ジルコンU–Pb年代:
抽出した20粒のジルコンのU, Pb, ThをLA-ICP-MSで測定し,Sakata(2018)に基づきU–Pb年代を算出した結果,1~30Maの幅広い年代を示した.このうち最若の6粒のジルコンU–Pb年代の加重平均年代は,1.21±0.23Maであった.また,同じ6粒に対してTera-Wasserburg図を用いた回帰直線のコンコーディア年代を検討したところ,1.24±0.20Maが得られた.これらの検討結果から,発見した凝灰岩の噴出年代は,約1.2Maと推定される.
議論・今後の課題:
今回発見された凝灰岩は,河川沿いに露出した岩体であり,他の堆積物との直接の層位関係は不明であるが,得られた年代値や構成物から,調査地域周辺に広く分布する洞爺火砕流堆積物や支笏火砕流堆積物でないことは明らかである.周辺火山で1Ma頃の活動が報告されている火山としては,ニセコ火山群(約2Ma~現在まで活動:新エネルギー総合開発機構, 1986)があげられるが給源の詳細は不明である.給源などの詳細を明らかにするためには,分布やガラス組成分析など更なる検討が必要である.
謝辞:
北海道大学の宮坂瑞穂博士には調査の際にお世話になった.本研究は,文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の研究費の一部を使用した.記して感謝いたします.
引用文献:
Le Maitre R. W. (ed.), 2002, Igneous Rocks. A Classification and Glossary of Terms. 236p.
土居繁雄・長谷川潔, 1956, 5万分の1地質図説明書 倶知安 札幌-第28号.47p.
Sakata, S., 2018, Geochemical Journal, 52, 281–286.
新エネルギー総合開発機構, 1986, ニセコ地域調査 火山岩分布年代報告書.87p.
Uesawa, S., Nakagawa, M., Umetsu, A., 2016, Jour. Volcanol., Geotherm., Res., 325, 27–44.