3:00 PM - 3:15 PM
[T7-O-3] Eruption history and magma plumbing system of Futamatayama Volcano, southern Fukushima, Japan
Keywords:eruption history, magma plumbing system, thermoluminescence dating, Futamatayama, Nasu volcano group
二岐山火山は,福島県南部に位置する成層火山で,同時期に活動した那須火山群の北端から約6 kmとやや離れた場所に分布する.本火山の活動年代として,K–Ar年代や指標テフラとの関係から140〜90 ka(少なくとも約5万年間)の値が得られているが1,より解像度の高い編年および層序は確立されていない.一方,那須火山群を構成する成層火山はいずれも10万年以上の活動期間2であることが分かっている(活動中の茶臼岳を除く).今回,我々は二岐山火山の地形判読と地質調査を行い,岩石記載と全岩化学組成分析による岩石学的特徴を加えて層序を確立した.そして,熱ルミネッセンス(TL)年代測定を複数試料に適用することで時間軸を導入し,噴火史,マグマ供給系,那須火山群との比較について議論したので報告する.
二岐山火山は,山体中央に2つの溶岩ドームを有し,その基底には複数の溶岩流および火砕流堆積物が分布する.地形,層序,岩石学的特徴から,本火山の活動期は東部〜南部〜西部に主に溶岩流を流出させたステージ1(6ユニット,約1.6 km3),北部に大規模な溶岩流を流出させたステージ2(2ユニット,約2.0 km3),山体中央に主に溶岩ドームを形成したステージ3(3ユニット,約0.1 km3)に分けられる.
全てのユニットには苦鉄質包有物(SiO2 = 50.6–59.3 wt.%)が認められ,母岩はより珪長質な溶岩(SiO2 = 56.2–68.4 wt.%)で構成される.斑晶鉱物組み合わせとして,斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物が全ての本質物質に含まれ,母岩(珪長質)では全てに石英を,一部に角閃石を含み,包有物(苦鉄質)では一部にかんらん石を含む.これらは,中間カリウム・カルクアルカリ(CA)系列に,苦鉄質の一部は低カリウム・ソレアイト(TH)系列に属する.また,ステージ1〜2とステージ3は,FeO*/MgO-SiO2図などで,平行で明瞭に異なる直線的トレンドを示す(SiO2 = 64.1 wt.%のとき,FeO*/MgOはステージ1〜2:1.9,ステージ3:2.2).
TL年代測定は,ステージ1噴出物から2つ,ステージ2とステージ3噴出物からそれぞれ1つずつ,合計4試料について実施した.その結果,ステージ1噴出物から163 ± 7 kaおよび93 ± 3 ka,ステージ2噴出物から79 ± 3 ka,ステージ3噴出物から56 ± 4 kaの年代値が得られた.これらは層序や地形の侵食程度と整合的で,ステージ1噴出物については先行研究で得られた140 ± 20 kaのK–Ar年代2ともよく一致しており,得られたTL年代値の信頼性は高いと評価できる.これにより,本火山の活動期間は,那須火山群の成層火山と同様に10万年以上に及んだことが明らかになった.
那須火山群の中でも約20万年前以降に活動した火山―南月山(210〜80 ka),二岐山,活火山である茶臼岳(16 ka以降)2,3―についてマグマ系の変遷を検討した[朝日岳(170〜70 ka)は十分な公表データがないため除いた].南月山はTHとCAが共存するが,より若い年代の噴出物を含む茶臼岳と二岐山では主にCAが活動する4.Rb/Y-FeO*/MgO図(図1)をみると,南月山のTHおよびCAは,Rb/Yが異なる平行な組成変化トレンドを示す.二岐山火山では,この2つのトレンドを結ぶようにステージ1〜2およびステージ3噴出物は,2本の異なる直線トレンドを形成する.これらはRb/Y = 1.5で規格化した場合,FeO*/MgO = 1.8前後(トレンドA)と2.2前後(トレンドB)を示し,より分化したトレンドBは茶臼岳のそれとよく一致する.従来研究では,茶臼岳のこの組成トレンドはTHとCAマグマの混合によって説明されており4,本火山のマグマも茶臼岳と同様のプロセスで形成された可能性が示唆される.
本地域では,210 ka以降,南月山でTHおよびCAマグマの活動が開始したが,160〜80 ka頃に,両者が混合(トレンドAを形成)して二岐山火山の主山体(基底部)を成長させるマグマを噴出した.約60 ka以降,本火山ではマグマ系が入れ替わり,トレンドBに由来するマグマを少量噴出して現在の山頂部を形成した.トレンドBのマグマは茶臼岳でも活動し,現在も存在すると考えられる.本研究では,野外で得られた噴出物の層序・分布・噴出量・噴火様式の情報に加え,TL法による年代軸を導入することで,高解像度で信頼性の高い火山活動史とマグマ供給系を復元することができた.このような事例研究を増やすことで個々の火山のみならず,周辺地域も含めたマグマ変遷の解明にも重要な知見をもたらすと期待できる.
引用文献
1. 山元(1999)「田島」地質図;2. 伴・高岡(1995)火山;3. 山元(1997)地質雑;4. 山元・伴(1997)那須火山地質図
二岐山火山は,山体中央に2つの溶岩ドームを有し,その基底には複数の溶岩流および火砕流堆積物が分布する.地形,層序,岩石学的特徴から,本火山の活動期は東部〜南部〜西部に主に溶岩流を流出させたステージ1(6ユニット,約1.6 km3),北部に大規模な溶岩流を流出させたステージ2(2ユニット,約2.0 km3),山体中央に主に溶岩ドームを形成したステージ3(3ユニット,約0.1 km3)に分けられる.
全てのユニットには苦鉄質包有物(SiO2 = 50.6–59.3 wt.%)が認められ,母岩はより珪長質な溶岩(SiO2 = 56.2–68.4 wt.%)で構成される.斑晶鉱物組み合わせとして,斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物が全ての本質物質に含まれ,母岩(珪長質)では全てに石英を,一部に角閃石を含み,包有物(苦鉄質)では一部にかんらん石を含む.これらは,中間カリウム・カルクアルカリ(CA)系列に,苦鉄質の一部は低カリウム・ソレアイト(TH)系列に属する.また,ステージ1〜2とステージ3は,FeO*/MgO-SiO2図などで,平行で明瞭に異なる直線的トレンドを示す(SiO2 = 64.1 wt.%のとき,FeO*/MgOはステージ1〜2:1.9,ステージ3:2.2).
TL年代測定は,ステージ1噴出物から2つ,ステージ2とステージ3噴出物からそれぞれ1つずつ,合計4試料について実施した.その結果,ステージ1噴出物から163 ± 7 kaおよび93 ± 3 ka,ステージ2噴出物から79 ± 3 ka,ステージ3噴出物から56 ± 4 kaの年代値が得られた.これらは層序や地形の侵食程度と整合的で,ステージ1噴出物については先行研究で得られた140 ± 20 kaのK–Ar年代2ともよく一致しており,得られたTL年代値の信頼性は高いと評価できる.これにより,本火山の活動期間は,那須火山群の成層火山と同様に10万年以上に及んだことが明らかになった.
那須火山群の中でも約20万年前以降に活動した火山―南月山(210〜80 ka),二岐山,活火山である茶臼岳(16 ka以降)2,3―についてマグマ系の変遷を検討した[朝日岳(170〜70 ka)は十分な公表データがないため除いた].南月山はTHとCAが共存するが,より若い年代の噴出物を含む茶臼岳と二岐山では主にCAが活動する4.Rb/Y-FeO*/MgO図(図1)をみると,南月山のTHおよびCAは,Rb/Yが異なる平行な組成変化トレンドを示す.二岐山火山では,この2つのトレンドを結ぶようにステージ1〜2およびステージ3噴出物は,2本の異なる直線トレンドを形成する.これらはRb/Y = 1.5で規格化した場合,FeO*/MgO = 1.8前後(トレンドA)と2.2前後(トレンドB)を示し,より分化したトレンドBは茶臼岳のそれとよく一致する.従来研究では,茶臼岳のこの組成トレンドはTHとCAマグマの混合によって説明されており4,本火山のマグマも茶臼岳と同様のプロセスで形成された可能性が示唆される.
本地域では,210 ka以降,南月山でTHおよびCAマグマの活動が開始したが,160〜80 ka頃に,両者が混合(トレンドAを形成)して二岐山火山の主山体(基底部)を成長させるマグマを噴出した.約60 ka以降,本火山ではマグマ系が入れ替わり,トレンドBに由来するマグマを少量噴出して現在の山頂部を形成した.トレンドBのマグマは茶臼岳でも活動し,現在も存在すると考えられる.本研究では,野外で得られた噴出物の層序・分布・噴出量・噴火様式の情報に加え,TL法による年代軸を導入することで,高解像度で信頼性の高い火山活動史とマグマ供給系を復元することができた.このような事例研究を増やすことで個々の火山のみならず,周辺地域も含めたマグマ変遷の解明にも重要な知見をもたらすと期待できる.
引用文献
1. 山元(1999)「田島」地質図;2. 伴・高岡(1995)火山;3. 山元(1997)地質雑;4. 山元・伴(1997)那須火山地質図