128th JGS: 2021

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Poster

T3.[Topic Session]Collaboration and advance of geological, experimental, and seismological research on slow earthquakes

[1poster05-07] T3.[Topic Session]Collaboration and advance of geological, experimental, and seismological research on slow earthquakes

Sat. Sep 4, 2021 4:30 PM - 7:00 PM poster (poster)

4:30 PM - 7:00 PM

[T3-P-3] (entry) Deformation behavior of antigorite serpentinite in deep slow earthquake source regions inferred from field and experimental observations

★(9/4)優秀ポスター賞受賞 ★

*Yurina Nagata1, Ken-ichi Hirauchi1, Keishi Okazaki2 (1. Shizuoka University, 2. JAMSTEC)

Keywords:slow earthquake, mantle wedge, serpentinite, deformation

南海沈み込み帯のマントルウェッジ先端付近では、プレート境界に沿って深部スロー地震が発生している(例えば、Obara , 2002)。マントルウェッジ先端付近は、海洋プレート中に含まれる含水鉱物の脱水反応に起因して多量の水が高間隙水圧状態で存在すると考えられている(例えば、Shelly et al., 2006)。このような領域では、有効応力の低下に伴って岩石の摩擦・破壊強度が低下するため、高温高圧下においても脆性変形が卓越する可能性がある。そして、マントルウェッジを構成するかんらん岩は、水流体の存在下において蛇紋岩化していると考えられる(例えば、Kato et al., 2010)。以上のことから、高含水率条件下での蛇紋岩の脆性変形が深部スロー地震の発生メカニズムの一つとなる可能性があるが、そのような条件下で蛇紋岩がどのような変形挙動を示すかについては、未だによくわかっていない。また、これまでに高温高圧下でのアンチゴライト蛇紋岩を用いた変形実験が数多く行われているが(例えば、Hilairet et al., 2007; Chernak and Hirth, 2010)、蛇紋岩中の含水量の変化に着目した実験はあまり行われていない。そこで、本研究では、深部スロー地震発生域に相当する温度圧力条件下で形成された天然の蛇紋岩体について構造岩石学的解析を行った。さらに、グリッグス型固体圧式三軸変形装置を用いて、様々な含水量下における蛇紋岩試料の高圧変形実験を行った。
 フィールド観察は、四国中央部三波川帯の泥質片岩(ざくろ石帯と曹長石・黒雲母帯の境界)に含まれる蛇紋岩体を対象とした。本地域の三波川帯は温度約500°C、圧力約1 GPaの変成作用を経験している(Aoya et al., 2013)。蛇紋岩はレンズ状のブロックが定向配列するblock-in-matrix構造を呈し、ブロック、マトリックス共にアンチゴライトで構成される。block-in-matrix 構造では、ブロックの伸長方向に平行な開口破壊とこれに斜交する剪断破壊が混合したネットワークを形成していた。このような開口破壊の発生には、間隙水圧の大きさが少なくとも最小主応力(σ3)と岩石の引張強度の和を超える必要があることから、蛇紋岩のブロック化は静岩圧を超える間隙水圧下で発生したと考えられる。
 変形実験は、コア状(直径約6 mm、長さ約13 mm)のアンチゴライト蛇紋岩試料を用い、温度500°C、封圧1.0 GPa、歪速度4.22 × 10-6 s-1、含水量0、1.1、3.0 vol.%条件で行った。試料の最大差応力は、含水量の増加に伴って小さくなっていった。含水量0、1.1 vol.%条件では、試料全体を最大圧縮方向(σ1)に対して約30°斜交する断層が形成され、断層面に沿って粉砕された細粒のアンチゴライトと脱水生成物が形成していた。含水量3.0 vol.%条件では、破壊がネットワークを形成することで最大長さ約6 mmのレンズ状にブロック化し、block-in-matrix構造を呈していた。マトリックスは粉砕されたアンチゴライト粒子と間隙で構成されていた。
 実験結果から、深部スロー地震発生域に相当する温度圧力条件下で蛇紋岩中の含水量が増加すると、破壊が断層面に局在化する変形から破壊がネットワークを形成する変形に変化することがわかる。また、フィールドおよび実験的観察は共に、深部スロー地震発生域において蛇紋岩が剪断・開口破壊によってblock-in-matrix構造を形成することを示唆しており、これらの破壊は深部スロー地震の一種である微動として観測されている可能性がある。

引用文献:Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451-454. Chernak and Hirth, 2010, Earth Planet Sci. Lett., 296, 23-33. Hilairet et al., 2007, Science, 318, 1910-1913. Kato et al., 2010, Geophys. Res. Lett., 37, L14310. Obara, 2002, Science, 296, 1679-1681. Shelly et al., 2006, Nature, 442, 188-191.