128th JGS: 2021

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R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

[1poster21-29] R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

Sat. Sep 4, 2021 4:30 PM - 7:00 PM poster (poster)

4:30 PM - 7:00 PM

[R4-P-7] Oxygen and hydrogen isotope variations of phengite along orogen-perpendicular traverse of the Sambagawa Belt in central Shikoku: A reconnaissance study

*Tatsuki Tsujimori1, Hironobu Harada1, Tetsumaru Itaya2, Daniel Pastor-Galán 1, Antonio M. Álvarez-Valero3 (1. Tohoku University, 2. Japan Geochronology Network, 3. University of Salamanca)

Keywords:phengite, oxygen isotope, hydrogen isotope, exhumed metamorphic rocks, Sambagawa Belt

世話人からのハイライト紹介:スラブから放出される水流体は様々な元素移動を媒介すると考えられているが,その実態は不明な点が多い.本発表は三波川帯構成岩類を特徴づける鉱物(フェンジャイト)を対象とし,沈み込むスラブを代表する酸素・水素同位体比の基準値決定を試みた研究である.高圧変成帯内部における酸素・水素安定同位体比変動の多様性が見出され,沈み込み帯の流体挙動に関する新たな知見をもたらす可能性がある.参考:ハイライトについて
プレート沈み込み帯はマントル内部の化学的不均質性を生み出す地殻物質と水のインプットの場として機能する。沈み込むスラブは前弧域から火山フロント直下に達するまでに連続的に脱水し、放出される水流体(スラブ起源流体)は様々な空間スケールの元素移動をもたらす。近年、スラブ内部での元素移動やスラブ直上に供給される元素の挙動について、天然試料の岩石学・地球化学と実験岩石学双方のアプローチから素過程を理解する試みがなされている。しかしながら、スラブ由来元素のマントルへの影響を追跡する場合、連続的な同位体比分別が期待できるような同位体があったとしても、スラブ内部でのバリエーションが明らかでないために、スラブを代表する値は曖昧である。マントル深部へ沈んで行くスラブ全体の安定同位体比がどの程度の幅を持つのか?それは地表に露出した高圧変成岩を解析することで把握可能であろうか?我々はスラブを代表する酸素・水素同位体比のリファレンス値(スラブ値)を決めたいという動機のもと、コヒーレントな高圧変成帯の世界標準としての四国中央部三波川帯において、南北横断方向でのフェンジャイトの酸素・水素同位体比の変化を評価した。 沈み込んでいくスラブのリファレンス値を決定したいものの、コヒーレントな変成帯は上昇時に著しく加水・変形再結晶を被っている。従って、その二次改変の影響は変成帯のなかの代表的な標本を選んで評価するだけでは不十分であり、変成帯の温度構造に直交するような横断線において変成帯内部のバリエーションを十分に把握する必要がある。我々は、スラブを構成する変成地殻起源物質のなかで、岩相に関わらず普遍的に出現し、多角的な評価が可能な唯一の鉱物としてフェンジャイトに着目した。そして、Itaya and Takasugi (1988) https://doi.org/10.1007/BF00379739がK-Ar年代測定を行った汗見川−銅山川ルートのフェンジャイト(主に泥質片岩から分離したもの)を再利用し、84試料(緑泥石帯31試料、ざくろ石帯21試料、アルバイト黒雲母帯22試料、オリゴクレース黒雲母帯10試料)の水素・酸素の安定同位体比を測定し、変成帯内部の変化傾向を調べた。フェンジャイトのK含有量(既知)とH2O量(実測)にもとづき不純試料のデータを間引いた残り63試料のδ18O[SMOW]とδD[SMOW]のバリエーションは、それぞれ+9.6 to +19.3‰ (平均値+14.0‰)、–82.8 to –45.2‰ (平均値–59.0‰)と大きい。両者は相関せず、K-Ar年代(64.3–83.8 Ma)とも明瞭な相関は示さない。δ18Oが+10‰を下回るフェンジャイトは全て塩基性片岩であるが、塩基性片岩のフェンジャイト全てが低い値を示すことはない。δ18Oの振れ幅は同位体比分別よりも原岩の幅を反映すると考えられる。オリゴクレース黒雲母帯のδDはやや高い値をもつ。従来から大歩危地域の緑泥石帯では変成帯の上昇時の著しい変形に伴うK-Ar年代の若返り(64.3–65.8 Ma)が知られていたが、同地域の4試料でのみδ18OとδD値が負の相関を示し、その地域に関しては年代若返りに関与した流体の影響を反映したものと考えられる。 汗見川−銅山川ルートで同位体比の振れ幅を評価するために、四国中央部三波川帯の他地域(猿田川)と、別の変成帯との比較を行ったところ、猿田川のざくろ石帯8試料は低いδD値(–91.2 to –73.4‰)が多いものの、銅山川のざくろ石帯でも–82.8‰に達する試料が存在する。ところが、時代も場所も全く別の変成帯として、蓮華帯の大佐山産の試料14試料(δD = –113 to –88.3‰、δ18O = +12.9 to +14.6‰)と比較すると、四国中央部のフェンジャイトは高いδD値で特徴付けられる。大佐山の試料は青色片岩相の情報を残しており、四国中央部三波川帯の結晶片岩とは上昇時期の後退変成作用の性質は大きく異なる。三波川のδD値は上昇時期の加水再結晶に関与した流体の性質を反映したものかもしれないが、その安定同位体比の平均値は地表に露出した高圧変成岩のフェンジャイトのリファレンス値として提案できる。