16:30 〜 19:00
[R19-P-4] 節理を充填するマンガン水酸化物の成因
キーワード:風化、マンガン水酸化物、地すべり
1、はじめに
節理等の割れ目には黒色で幅1 mm から10 mmのマンガン水酸化物が生成していることが多い。山本ほか(2001)は割れ目を充填するマンガン水酸化物を黒色脈と呼び、法面崩落のすべり面になると報告している。中田・太田(2019)は、実際にマンガン水酸化物の表面に滑りの痕跡を示す条線が認められる例を紹介した。このようなマンガン水酸化物はシャーペンの芯でも削ることができるほど柔らかく、弱面となる。 今回、マンガン(Mn)の起源とマンガン水酸化物の成因について考察を行い、法面斜面崩壊や地すべりとの関係について紹介を行う。
2、地質概要
調査は山口県西部の下関市豊田町で行った。当該地点には前期白亜紀に堆積した関門層群が分布している。関門層群は韓国慶尚層群に対比され、国内最大の非海成堆積体の一つとされ(歌田・澤田、2005)、礫岩砂岩主体で下位(東部)の脇野亜層群から火山岩主体の下関亜層群(西部)に移り変わっている。赤色強風化岩(以下サプロライト)は下関亜層群の安山岩溶岩を主体とする火砕岩類で認められ、風化帯の厚さはおよそ40 mに及んでいる。 2020年に開削した法面において表層から深部に向かってO層、A層、B層、C層の良好な風化断面が観察できる。A層(厚さ1~2 m)は開口割れ目が発達し、粘土質でマンガン水酸化物は認められない。表層からC層のサプロライトまでの厚さは、およそ3 mで、C層は新 鮮な安山岩まで40 m前後連続している。他方、B層は厚さ0.5~1mでやや灰色を帯び、A層とC層の間に分布している。A層には僅かにギブサイトが認められ、強く赤色風化したC層ではカオリナイトとハロイサイトが認められる。この新しい法面ではマンガン水酸化物に条線は少ない。 一方、1990年に開削された法面ではマンガン水酸化物に充填された割れ目に、斜面方向に条線が多く発達し、一部に重力性のすべりを思わせる円弧状の形状も形成されている(図1)。
3、マンガン水酸化物の産状とMn含有量
マンガン水酸化物はB層から深部に増加し始め、反対にC層上部から深部に向かって出現頻度が減少し、深部では節理に沿って斑点状にも産出する。C層上部では節理中央部を幅1㎜程度のマンガン水酸化物が埋め、その周辺1㎜前後が白色化し、赤色化したサプロライトに移り変わっている。マンガン水酸化物中のMnOとFe2O3含有量はそれぞれ3.4%と10.4%であった。
4、マンガン水酸化物の成因
安山岩は磁鉄鉱を含む単斜輝石安山岩である。帯磁率は新鮮安山岩に比べて赤色化したサプロライトの方が小さく、風化作用によって強磁性体である磁鉄鉱が、常磁性体の酸化鉄に変化している。新鮮な安山岩に含まれる磁鉄鉱の組成はMn0.2Ti0.6Fe2.3O4(チタノマグネタイト)であり、MnOを3~4%含んでいる。一方、サプロライト化した安山岩中では磁鉄鉱は赤色帯びた不透明鉱物として認められ、MnO含有量が0.1%に減少している。帯磁率の減少と磁鉄鉱の赤色化、Mnの溶出は整合しており、Mnの供給源は磁鉄鉱であると判断できる。 溶出実験ではpHの低い溶液の方が新鮮な安山岩からのMnの溶出量と溶出速度が大きい。この傾向は風化帯を流下している地表水中のMn濃度が大きいこととも一致している。マンガン水酸化物の周辺の白色化した部分にはカオリナイトが生成している。カオリナイトは低pH溶液下で生成することが知られている。Mnイオンは大気と平衡するCO2に富む低pHの地下水が安山岩中の磁鉄鉱を溶解させたことにより供給された。その後、Mnに富む表層水は割れ目を浸透し最初にカオリナイトを晶出させ、続いてMn、Feが割れ目に浸透することで、Mn、Feが沈殿したと推察する。
5、まとめ
割れ目を充填する黒いマンガン水酸化物が多く認められる赤色強風化部でMnの供給源と成因に関して推察を行った。Mnは磁鉄鉱(チタノマグネタイト)に多く含まれており、風化作用を受け溶出している。溶液中のMn濃度、Mn溶出速度は低pH溶液中で大きくなることから、Mnは風化によって表層水中に溶出し、割れ目に侵入し沈殿したと推察できる。 黒色で割れ目をフィルム状に充填するマンガン水酸化物は軟質である。一面せん断強度も低いとの報告がされている(山本ほか、2001)。このようなマンガン水酸物が充填する割れ目が多いと、崩落や地すべりの発生する場合があると推察する。
参考文献 中田・太田(2019)応用地質学会講演集(令和元年度) 山本ほか (2001)地すべり 37, 49-57. 歌田・澤田(2005)地質学雑誌、111、206-216.
節理等の割れ目には黒色で幅1 mm から10 mmのマンガン水酸化物が生成していることが多い。山本ほか(2001)は割れ目を充填するマンガン水酸化物を黒色脈と呼び、法面崩落のすべり面になると報告している。中田・太田(2019)は、実際にマンガン水酸化物の表面に滑りの痕跡を示す条線が認められる例を紹介した。このようなマンガン水酸化物はシャーペンの芯でも削ることができるほど柔らかく、弱面となる。 今回、マンガン(Mn)の起源とマンガン水酸化物の成因について考察を行い、法面斜面崩壊や地すべりとの関係について紹介を行う。
2、地質概要
調査は山口県西部の下関市豊田町で行った。当該地点には前期白亜紀に堆積した関門層群が分布している。関門層群は韓国慶尚層群に対比され、国内最大の非海成堆積体の一つとされ(歌田・澤田、2005)、礫岩砂岩主体で下位(東部)の脇野亜層群から火山岩主体の下関亜層群(西部)に移り変わっている。赤色強風化岩(以下サプロライト)は下関亜層群の安山岩溶岩を主体とする火砕岩類で認められ、風化帯の厚さはおよそ40 mに及んでいる。 2020年に開削した法面において表層から深部に向かってO層、A層、B層、C層の良好な風化断面が観察できる。A層(厚さ1~2 m)は開口割れ目が発達し、粘土質でマンガン水酸化物は認められない。表層からC層のサプロライトまでの厚さは、およそ3 mで、C層は新 鮮な安山岩まで40 m前後連続している。他方、B層は厚さ0.5~1mでやや灰色を帯び、A層とC層の間に分布している。A層には僅かにギブサイトが認められ、強く赤色風化したC層ではカオリナイトとハロイサイトが認められる。この新しい法面ではマンガン水酸化物に条線は少ない。 一方、1990年に開削された法面ではマンガン水酸化物に充填された割れ目に、斜面方向に条線が多く発達し、一部に重力性のすべりを思わせる円弧状の形状も形成されている(図1)。
3、マンガン水酸化物の産状とMn含有量
マンガン水酸化物はB層から深部に増加し始め、反対にC層上部から深部に向かって出現頻度が減少し、深部では節理に沿って斑点状にも産出する。C層上部では節理中央部を幅1㎜程度のマンガン水酸化物が埋め、その周辺1㎜前後が白色化し、赤色化したサプロライトに移り変わっている。マンガン水酸化物中のMnOとFe2O3含有量はそれぞれ3.4%と10.4%であった。
4、マンガン水酸化物の成因
安山岩は磁鉄鉱を含む単斜輝石安山岩である。帯磁率は新鮮安山岩に比べて赤色化したサプロライトの方が小さく、風化作用によって強磁性体である磁鉄鉱が、常磁性体の酸化鉄に変化している。新鮮な安山岩に含まれる磁鉄鉱の組成はMn0.2Ti0.6Fe2.3O4(チタノマグネタイト)であり、MnOを3~4%含んでいる。一方、サプロライト化した安山岩中では磁鉄鉱は赤色帯びた不透明鉱物として認められ、MnO含有量が0.1%に減少している。帯磁率の減少と磁鉄鉱の赤色化、Mnの溶出は整合しており、Mnの供給源は磁鉄鉱であると判断できる。 溶出実験ではpHの低い溶液の方が新鮮な安山岩からのMnの溶出量と溶出速度が大きい。この傾向は風化帯を流下している地表水中のMn濃度が大きいこととも一致している。マンガン水酸化物の周辺の白色化した部分にはカオリナイトが生成している。カオリナイトは低pH溶液下で生成することが知られている。Mnイオンは大気と平衡するCO2に富む低pHの地下水が安山岩中の磁鉄鉱を溶解させたことにより供給された。その後、Mnに富む表層水は割れ目を浸透し最初にカオリナイトを晶出させ、続いてMn、Feが割れ目に浸透することで、Mn、Feが沈殿したと推察する。
5、まとめ
割れ目を充填する黒いマンガン水酸化物が多く認められる赤色強風化部でMnの供給源と成因に関して推察を行った。Mnは磁鉄鉱(チタノマグネタイト)に多く含まれており、風化作用を受け溶出している。溶液中のMn濃度、Mn溶出速度は低pH溶液中で大きくなることから、Mnは風化によって表層水中に溶出し、割れ目に侵入し沈殿したと推察できる。 黒色で割れ目をフィルム状に充填するマンガン水酸化物は軟質である。一面せん断強度も低いとの報告がされている(山本ほか、2001)。このようなマンガン水酸物が充填する割れ目が多いと、崩落や地すべりの発生する場合があると推察する。
参考文献 中田・太田(2019)応用地質学会講演集(令和元年度) 山本ほか (2001)地すべり 37, 49-57. 歌田・澤田(2005)地質学雑誌、111、206-216.