128th JGS: 2021

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Poster

R23 [Regular Session]Nuclear energy and geological sciences

[1poster71-73] R23 [Regular Session]Nuclear energy and geological sciences

Sat. Sep 4, 2021 4:30 PM - 7:00 PM poster (poster)

4:30 PM - 7:00 PM

[R23-P-3] Age Constraint on the Quaternary Sediments by Terrestrial Cosmogenic 10Be Analyses in the Omaezaki Area

*Hisanori Ominami1, Koumei Nishimura1, Eiji Nakata2, Yuki Matsushi3 (1. Chubu Electric Power Co.,Inc., 2. Central Research Institute of Electric Power Industry, 3. Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University)

Keywords:Cosmogenic 10Be, Depth profiling, Furuya mud layer, Sagara layer, Normal fault group

これまで侵食地形の削剥速度決定や、段丘等の堆積地形の形成年代決定において、石英中の宇宙線生成核種(10Be)を用いた研究が盛んに行われてきた(松四ほか, 2007)。表面が侵食を受けている地形の形成年代や堆積物の定置年代を、10Beを用いて推定しようとする時、一般的には表面から鉛直下向きに複数深度で採取した試料を分析し、核種濃度の深度分布を得る方法(Depth profiling)が用いられる。この方法をとる事により、時間と速度の両情報を得られる可能性があるためである。本研究では、対象地点の基盤岩にこの方法を適用し、それを覆う上載層の定置年代に対する制約付与を試みた。

【地質概要】
 調査地点は静岡県御前崎市佐倉である。この場所の基盤は新第三紀中新世後期から鮮新世前期の砂岩泥岩互層(相良層)であり、標高約50 mに位置する本地点(BF4地点)では、第四紀の堆積物が基盤岩を不整合に覆っている。本地点の北方約1 kmの標高55 m付近(BF1地点)には、最終間氷期(下末吉期)の海進期に対比される古谷泥層が分布する(杉山ほか, 1988)。また、調査地点である佐倉周辺の相良層には、南に開いた緩い弧状を呈する正断層群(H断層系:奥村2016)が分布し、これらの正断層群は、佐倉地域に分布するいずれの段丘堆積物も変位させていないことが確認されている。

【試料採取】
 試料は、図-1に示すトレンチの断層の上盤側から採取した。基盤岩の相良層にはNW-SE走向の南落ちの正断層が確認され、円~扁平な基底礫を含む泥層が50cm程の層厚で相良層を不整合に覆っている。泥層の基底面に変位や変形は認められない。標高や泥層に含まれる基底礫の礫種等を踏まえると、泥層は最終間氷期の海進期の段丘堆積物に対比されると考えられる。正断層は、比較的連続性の良い2条の断層面を有し、断層面やその周囲には、引き延ばされたり、ちぎれたような形状を示す砂岩や泥岩が見られ、断層面には明瞭なせん断面は確認されない。また、断層周辺の母岩に断層角礫は認められないことから、堆積後の固結前の流動変形を伴う断層であることが示唆される。
 本地点の第四紀堆積物は泥質であり、10Be分析のための試料精製に適した粒径の石英粒子がほとんど認められない。そのため下位に位置する第三系基盤岩(相良層)を分析の対象とし、その結果に基づいて上位の第四系の堆積年代を検討した。試料は、相良層の上面から砂岩層を対象に深度方向に採取し、粒度150μmを中心とした石英を抽出した。得られた石英粒子は、米国Purdue大学の加速器質量分析施設(PRIME Lab)で化学処理した後、10Be濃度を分析した。

【分析結果】
 測定された10Be/9Be同位体比は、バックグラウンドよりも有意に高く、測定は良好な状態で実施された。分析によって得られた石英中の10Be濃度について、各試料の採取標高に対してプロットした深度プロファイルを図-2に示す。10Beの濃度は、深さ方向に連続的に減少している。


【考察】
 御前崎地域では、後期更新世の海進期以降、基盤を覆う堆積物が海水準の低下や隆起に伴う海退と同時に地表に露出し、侵食を受けている。BF4地点は近傍のBF1地点に比べて基盤を覆う泥層の層厚が小さく、両地点に現存するそれらの層厚差は約15 mに達する。このことはBF4地点が大きく削剥されていることを示唆し、仮にそれがMIS5eに相当する12~13万年前以降、現在までの間に生じたとすると、削剥速度は少なくとも約120 mm/kaと想定される。一方で、分析により得られた10Be濃度の深度分布は、数十万年スケールで約120 mm/kaの速度で地表が削剥されてきたと考えた場合に推定される核種の蓄積モデルカーブと合致している。このことは、BF4地点において基盤を覆う第四系堆積物を最終間氷期の海進期の堆積物とみなして差し支えないことを意味している。

【結論】
 今回、10Beを用いてBF4地点の泥層の堆積年代を検討した結果、第三系における核種の蓄積量は、上位の第四系が12~13万年前に堆積後、現在までの間に約15 m削剥されたとの想定で得られるモデルカーブと整合しており、これが最終間氷期の海進期の堆積物に対比できるとの結果を得た。なお、断層の下盤側においても深度方向に10Beを用いた分析を実施した。その結果、10Beの深度方向の濃度には、断層の両側で有意な差異は認められなかった。

【引用文献】
松四ほか(2007)宇宙線生成核種10Beおよび26Alのプロセス地形学的応用:地形,28,87-107.
杉山ほか(1988)御前崎地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,153p.
奥村(2016)浜岡原子力発電所とその周辺の上盤プレート地殻内断層と地震: 日本地球惑星科学連合2016年大会.