128th JGS: 2021

Presentation information

symposium

S1. [Symposium] Spherical concretions –understandings and applications-

[2ch101-09] S1. [Symposium] Spherical concretions –understandings and applications-

Sun. Sep 5, 2021 9:30 AM - 12:30 PM ch1 (ch1)

Chiar:Nagayoshi Katsuta, Hidekazu Yoshida, Hitoshi Hasegawa

10:15 AM - 10:30 AM

[S1-O-4] Formational mechanism of sperical Fe-oxide concretions in Utah, Gobi, Tatsukushi, and their possible analogies with Mars

*Hitoshi Hasegawa1, Saki Asai2, Hidekazu Yoshida2, Minoru Ikehara1, Masakazu Nara1, Nagayoshi Katsuta3, Sin-ichi Sirono2 (1. Kochi University, 2. Nagoya University, 3. Gifu University)

Keywords:Spherical concretion, Mars, Carbonate, Inorganic origin, Organic origin

球状コンクリーションは様々な地質時代の地層中に見られ,カルサイト,ドロマイト,シデライトといった炭酸塩鉱物を主体とし,多様な環境で形成されています。また酸化鉄で構成された球状鉄コンクリーションもあり,火星で見つかった球状物体と類似の特徴を持つことも分かってきました。本発表では,米国ユタ州やモンゴル・ゴビ砂漠,高知県竜串海岸に見られる球状鉄コンクリーションの産状や成因を示し,それらと火星メリディアニ平原の鉄小球(ブルーベリー)やゲールクレーターの球状コンクリーションとの比較から分かってきた,太古の火星環境変遷史や火星コンクリーションの起源についての知見を紹介します。

ユタ州とゴビ砂漠の鉄コンクリーション
米国ユタ州Spencer Flatに分布するジュラ紀の風成砂岩層(ナバホ砂岩)には,ゲーサイト(FeO(OH))の殻を持つ数㎝大の球状鉄コンクリーションが多量に含まれています(現地ではモキ・マーブルMoqui marbleとも呼ばれます)。このユタ州に見られる鉄コンクリーションが,Opportunityにより火星メリディアニ平原で発見された数㎜大の鉄小球(ブルーベリーBlueberries)と形状・産状的に類似することが,ユタ大学Chan教授らの研究により示されました [1]。我々は2016年~2018年に,鉄コンクリーションが含まれるユタ州とモンゴル・ゴビ砂漠の調査を行い,その成因究明を試みました。その結果,球状鉄コンクリーションの先駆物質が風成砂岩中に無機的に形成された炭酸カルシウムの球状コンクリーションであり,そして地層中を浸透した酸性流体との中和反応によって鉄コンクリーションが形成されたことが明らかになりました。さらに,火星メリディアニ平原の地層にも酸性流体浸透の影響が見られることから,ユタ州やゴビ砂漠の鉄コンクリーションと同様に,ブルーベリーの先駆物質も炭酸塩の小球である可能性を示唆しました。このことは,約40~38億年前の厚いCO2大気の環境下で炭酸塩が沈殿し,それが約37~35億年前の火山活動起源の酸性流体により溶解したとする火星環境史の既存仮説とも整合的です。すなわち,ブルーベリーが現在の火星表層には炭酸塩岩が殆ど分布しないという謎を解く鍵(遺物)であることが明らかになりました [2]。

竜串海岸の鉄コンクリーション
高知県西部竜串海岸に分布する中新統竜串層は,ハンモック斜交層理(HCS)砂岩を主体とした浅海成堆積物からなり,数十㎝大の球状鉄コンクリーションを多量に含みます。また竜串層のコンクリーションは,数㎝大の小型球状が連なったものや,板状のものなど,多様な形状を示します。この竜串層に見られる多様なコンクリーションと類似形状のものが,最近になってCuriosityの探査より火星ゲールクレーターの地層から見つかりました。そこで我々は,竜串層の多様な形状のコンクリーションの成因究明と,ゲールクレーターのものとの比較検討を試みました。竜串層で採取したコンクリーションの内部構造や元素分布を観察した結果,大型の球状コンクリーションの内部には,酸化鉄化した生痕化石オフィオモルファや,ウニ化石,石灰岩片起源の偽礫を内包することが分かりました。また炭素同位体比測定を行った結果,基質砂岩部は-5~-6‰の重い値なのに対し,板状や小型球状のコンクリーションは-6~-7‰のやや軽い値,そして化石を内包する大型の球状コンクリーションは-8~-9‰前後の最も軽い値を示す顕著な傾向が見られました。これは先行研究で示された有機物起源コンクリーションのδ13C値の関係性とも整合的であり,竜串層中の大型球状コンクリーションは生物遺骸から炭素を得て形成されたと解釈しました。さらに,竜串層と火星ゲールクレーターのコンクリーションの形状と産出岩相との関係を比較した結果,大型球状のものは砂層中に,板状は泥層や砂泥互層に見られるという共通性が見られました。これは地球と火星の両者でコンクリーション形状が基質物質の透水性や均質性に依存するためと解釈されます。また,竜串層の大型球状コンクリーションは有機物起源であることが本研究で示されましたが,もし同様な傾向が他の地層でも普遍的に見られる特徴ということが示されれば,火星ゲールクレーターに見られる十数㎝大の球状コンクリーションの炭素由来も有機物起源である可能性を示唆します。今後は,世界各地のコンクリーションの調査・検討を行っていくと共に,火星の探査ローバーによるコンクリーション探査やサンプルリターン分析による検証が求められます。

文献 [1] Chan et al. (2004) Nature; [2] Yoshida et al. (2018) Science Advances