1:00 PM - 1:15 PM
[R14-O-1] Seismogenic source faults in the Tsugaru Peninsula, northern Honshu, Japan
Keywords:active fault, seismogenic source fault, inversion tectonics, seismic reflection profiling, Tsugaru peninsula
はじめに 震源断層の形状や活動性を明らかにすることは、発生する地震・津波災害や地震発生の中期予測にとって重要である。東北日本のような逆断層が卓越する地域では、しばしば断層関連褶曲が形成され、地表近傍での活断層と新第三系基盤岩中の断層の関係が複雑である。また、津軽山地の両縁のように逆断層が幅の狭い隆起帯を形成する場合には、地下での活断層システム全体の検討が必要になる。ここでは、文部科学省の「日本海地震・津波調査プロジェクト」において実施した2020年津軽半島横断地殻構造探査[1]と既存の地学資料に基づいて、津軽半島とその周辺の震源断層について述べる。
データ取得 測線は青森湾西側から津軽山地を経て、深浦町千畳敷にいたる59 kmの区間である。反射法地震探査では標準区間においては50m間隔で受振器を展開し、バイブロサイス4台を用いて100m間隔で発震した。稠密区間(3区間、計35 km)では受振点間隔を25m、発震点間隔を50mとした。屈折法による速度構造解析のため、50ないし100回の多重発震を16点で行った。
構造探査断面の地質構造 測線周辺の地質構造は、西傾斜の断層によって特徴づけられる。これらの断層群は、日本海拡大期に形成されたもので、津軽山地区間や白神山地区間では、P波速度5.4km/s以上の岩体(先新第三系)が周辺に比べ深く、沈降域は西傾斜の正断層運動と整合的な、東側で変化率が大きい非対処な形状を示している。津軽山地は東翼急傾斜、西側緩傾斜の非対称複背斜であり、東翼には津軽断層が分布する。津軽断層の東側には、この断層から分岐した青森湾西断層などの活断層が分布する[2]。津軽山地の西翼には、活断層である津軽山地西縁断層帯[3]が位置するが、山地東翼の断層群に比べ総変位量は少なく、地質構造からは津軽断層などの東翼のバックスラストと解釈される。西傾斜の津軽断層の上盤側で、厚い新第三系に相当する速度構造を示すことは、この断層が日本海拡大期に正断層として形成されたと推定される。1766年明和津軽地震(M7.0)の震央は、津軽断層の深部延長上に位置することから、この断層が震源断層である可能性が高い。津軽平野の鮮新世以降の短縮変形にともなう沈降運動は微弱で、大局的には津軽断層の上盤側に位置することと調和的である。津軽山地の隆起運動は、全体としては正断層の反転運動としてとらえることが可能であり、反転の過程で東翼にfootwall shortcut thrustを生み出し、津軽断層の東側に活断層を形成させた。こうした構造運動のみでは、青森平野から青森湾の先第三系基盤の低下については、説明することができない。この領域の深い堆積盆地の形成をもたらした要因としては、秋田-山形堆積盆地のような中絶リフトを考慮する必要があろう。
津軽平野西縁断層 津軽山地には褶曲した厚い新第三系が分布し、平野との境界部では舞戸層や鳴沢層(鮮新-更新統)が急傾斜帯を形成している。速度構造から見て、山地の新第三系基盤は、平野側より低下し、堆積盆地の反転運動を示している。西側の白神山地で厚い堆積層を示す舞戸層は、上部では東方に向かって層厚が増加する。これは津軽平野西縁断層(新称)の正断層から逆断層への反転運動を示している。舞戸層の浮遊性有孔虫から[4]、この変形は3.5 〜1.2Maに開始された可能性が高い。 白神山地北縁の日本海沿岸には、海成段丘が分布することが知られている[5]。酸素同位体ステージ5e(12.5万年前)の海成段丘面高度は、津軽平野西縁断層の隆起側では西方に向かって次第に上昇し、ステージ5eの旧汀線高度は、100〜80 m程度となる。津軽平野西縁断層は重力異常にもよく現れており、西側隆起の構造として岩木山南西麓まで追跡できる。断層深部の傾斜は40度と推定されるので、ネットスリップは1 mm/年に達する可能性のあるA級の活断層となる。まとめ 活断層-震源断層システムは、現在とは異なるテクトニクスの元で形成された断層が、再活動しているケースが一般的である。従って震源断層の形状推定には、地球物理学的なイメージングとともに構造地質学的な検討が重要である。
文献[1]佐藤比呂志ほか,2021年石油技術協会春季講演会 地質探鉱部門個人講演 17, 2021.[2]地震調査委員会:青森湾西岸断層帯の長期評価について,16p., 2004a.[3]地震調査委員会: 津軽山地西縁断層帯の長期評価について, 18p., 2004b.[4]根本直樹:化石,48, 17-33, 1990.[5]小池一之,町田 洋編: 日本の海成段丘アトラス, 122p., 2001.
データ取得 測線は青森湾西側から津軽山地を経て、深浦町千畳敷にいたる59 kmの区間である。反射法地震探査では標準区間においては50m間隔で受振器を展開し、バイブロサイス4台を用いて100m間隔で発震した。稠密区間(3区間、計35 km)では受振点間隔を25m、発震点間隔を50mとした。屈折法による速度構造解析のため、50ないし100回の多重発震を16点で行った。
構造探査断面の地質構造 測線周辺の地質構造は、西傾斜の断層によって特徴づけられる。これらの断層群は、日本海拡大期に形成されたもので、津軽山地区間や白神山地区間では、P波速度5.4km/s以上の岩体(先新第三系)が周辺に比べ深く、沈降域は西傾斜の正断層運動と整合的な、東側で変化率が大きい非対処な形状を示している。津軽山地は東翼急傾斜、西側緩傾斜の非対称複背斜であり、東翼には津軽断層が分布する。津軽断層の東側には、この断層から分岐した青森湾西断層などの活断層が分布する[2]。津軽山地の西翼には、活断層である津軽山地西縁断層帯[3]が位置するが、山地東翼の断層群に比べ総変位量は少なく、地質構造からは津軽断層などの東翼のバックスラストと解釈される。西傾斜の津軽断層の上盤側で、厚い新第三系に相当する速度構造を示すことは、この断層が日本海拡大期に正断層として形成されたと推定される。1766年明和津軽地震(M7.0)の震央は、津軽断層の深部延長上に位置することから、この断層が震源断層である可能性が高い。津軽平野の鮮新世以降の短縮変形にともなう沈降運動は微弱で、大局的には津軽断層の上盤側に位置することと調和的である。津軽山地の隆起運動は、全体としては正断層の反転運動としてとらえることが可能であり、反転の過程で東翼にfootwall shortcut thrustを生み出し、津軽断層の東側に活断層を形成させた。こうした構造運動のみでは、青森平野から青森湾の先第三系基盤の低下については、説明することができない。この領域の深い堆積盆地の形成をもたらした要因としては、秋田-山形堆積盆地のような中絶リフトを考慮する必要があろう。
津軽平野西縁断層 津軽山地には褶曲した厚い新第三系が分布し、平野との境界部では舞戸層や鳴沢層(鮮新-更新統)が急傾斜帯を形成している。速度構造から見て、山地の新第三系基盤は、平野側より低下し、堆積盆地の反転運動を示している。西側の白神山地で厚い堆積層を示す舞戸層は、上部では東方に向かって層厚が増加する。これは津軽平野西縁断層(新称)の正断層から逆断層への反転運動を示している。舞戸層の浮遊性有孔虫から[4]、この変形は3.5 〜1.2Maに開始された可能性が高い。 白神山地北縁の日本海沿岸には、海成段丘が分布することが知られている[5]。酸素同位体ステージ5e(12.5万年前)の海成段丘面高度は、津軽平野西縁断層の隆起側では西方に向かって次第に上昇し、ステージ5eの旧汀線高度は、100〜80 m程度となる。津軽平野西縁断層は重力異常にもよく現れており、西側隆起の構造として岩木山南西麓まで追跡できる。断層深部の傾斜は40度と推定されるので、ネットスリップは1 mm/年に達する可能性のあるA級の活断層となる。まとめ 活断層-震源断層システムは、現在とは異なるテクトニクスの元で形成された断層が、再活動しているケースが一般的である。従って震源断層の形状推定には、地球物理学的なイメージングとともに構造地質学的な検討が重要である。
文献[1]佐藤比呂志ほか,2021年石油技術協会春季講演会 地質探鉱部門個人講演 17, 2021.[2]地震調査委員会:青森湾西岸断層帯の長期評価について,16p., 2004a.[3]地震調査委員会: 津軽山地西縁断層帯の長期評価について, 18p., 2004b.[4]根本直樹:化石,48, 17-33, 1990.[5]小池一之,町田 洋編: 日本の海成段丘アトラス, 122p., 2001.