11:00 AM - 11:30 AM
[R22-O-10] [Invited]Decoding the History of Surface Environment on Earth and Mars
Keywords:Surface Environment, Eoliand dune deposits, Lacustrine deposits, Hot house Earth, Mars
世話人からのハイライト紹介:長谷川氏は,地層や堆積物に記録される過去の表層環境変動の実態や変動要因について,特に陸上に残されたジュラ紀や白亜紀の砂丘や湖などの地層からアプローチしてきた.ここでは,超大陸パンゲア時代の大気循環について,また白亜紀から始新世に至る温室期の詳細環境復元について講演いただく.また,風成砂丘が広がる火星やタイタンの表層環境の研究について紹介いただく.参考:ハイライトについて
地球の表層環境は,数億年スケールで変化する大陸の集合離散に伴う変動や,数万年~十万年スケールで変化する氷期-間氷期サイクル,千年スケールで起こったダンスガード・オシュガー・イベント(DOイベント)など,様々な時間スケールと要因で変化してきた.地層や堆積物に記録される過去の表層環境変動の実態や変動要因を探ることは,温暖化に伴って大きく変動しつつある地球環境の近未来予測の上でも重要である.講演者はこれまで,亜熱帯乾燥域の風成層記録 [1-3]や,温帯湿潤域の湖成層記録 [4,5],そして亜寒帯の永久凍土記録を調べることにより,過去の陸域気候帯の分布変遷や大気循環系の実態解明を試みてきた.本発表では,世界各地の地層や堆積物コアを調べることで明らかになってきた,過去の地球表層環境変動について紹介する.また比較惑星学的な視点から進めてきた火星の表層環境史 [6,7]についても紹介する.
風成層から読み解く白亜紀“温室期”と超大陸パンゲア時代の大気循環
砂漠環境は,ハドレー循環の下降域に当たる亜熱帯高圧帯下(南北20-30°付近)で発達する.また風成砂丘は卓越地表風の風向を大型斜交層理構造として保存する.したがって,風成層の分布や大型斜交層理に記録される古風向を解析することで,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元できる.我々はこの着想に基づき,モンゴル・中国・タイの白亜系風成層を調査して砂漠分布と古風向の解析を行い,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元した [1-3].そして白亜紀を通じた亜熱帯高圧帯の緯度方向シフトを明らかにし,温暖化に伴うハドレー循環の応答に関する新仮説を提唱した [3].
また米国中西部(アリゾナ・ユタ・ワイオミング州)に露出する下部ジュラ系風成層(ナバホ砂岩)の調査と古風向パターンの解析により,超大陸パンゲア時代の大気循環系の復元も試みた。その結果,超大陸パンゲアの卓越風系のオービタル変動を反映して,北緯18-27°の緯度帯に縦列砂丘を主体とする砂漠環境が広がったことを明らかにした(Shozaki & Hasegawa, submitted).
湖成層から読み解く白亜紀および始新世“温室期”の気候変動
人為起源のCO2排出により,AD2200年には大気CO2濃度は900ppmを超え,全球平均気温は7.5℃上昇する可能性がIPCCにより指摘されている.近未来の“温室期(Hot house Earth)”における気候変化を予測するために,我々は白亜紀と始新世の年縞(ねんこう)を保存する湖成層を対象として,過去の“温室期”における数年~数十万年スケールの降水量変動の復元を試みた.モンゴルの白亜系湖成層(シネフダグ層)を対象に年代層序の構築と堆積学的解析を行い [4; Island Arc論文賞],年縞解析とXRFコアスキャナーによる高解像度元素組成変動の解析により,最終氷期のDOイベントと類似した千年周期の急激な気候変化が白亜紀“温室期”に起こっていた事を明らかにした(Hasegawa et al., submitted).また米国ユタ州の始新統湖成層(グリーンリバー層)を対象とし,同層上部の層状チャートは太陽活動の周期的変動が影響した藻類生産量変動を反映している事を明らかにした [5].
風成砂丘や球状コンクリーションから読み解く火星の表層環境史
風成砂丘は火星や土星の衛星(タイタン)の表層にも分布する.火星とタイタンの風成砂丘の配列方向を検討した結果,地球とは分布域が異なるものの,各々の大気循環パターンを反映することが明らかになった [6].火星の地層にはまた,超大陸・超海洋が存在した約40∼37億年前の古風向パターンも記録されており,当時の大気循環系の復元も試みている.
またジュラ紀風成層(ナバホ砂岩)中に含まれる球状鉄コンクリーションと,火星メリディアニ平原の地層に含まれる鉄小球(ブルーベリー)とを比較検討することで,火星の表層環境史の謎の解明に繋がった [7](シンポジウム「球状コンクリーションの科学」でも紹介).
文献:[1] Hasegawa et al., 2009, Jour. Asian Earth Sci., 35, 13-26.; [2] Hasegawa et al., 2010, Island Arc, 19, 605-621.; [3] Hasegawa et al., 2012, Climate of the Past, 8, 1323-1337.; [4] Hasegawa et al., 2018, Island Arc, e12243.; [5] Kuma, Hasegawa et al., 2019, Scientific Reports, 9:16448.; [6] 長谷川,2012, 地質雑, 118, 632-649.; [7] Yoshida, Hasegawa, et al., 2018, Science Advances, 4:eaau0872.
風成層から読み解く白亜紀“温室期”と超大陸パンゲア時代の大気循環
砂漠環境は,ハドレー循環の下降域に当たる亜熱帯高圧帯下(南北20-30°付近)で発達する.また風成砂丘は卓越地表風の風向を大型斜交層理構造として保存する.したがって,風成層の分布や大型斜交層理に記録される古風向を解析することで,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元できる.我々はこの着想に基づき,モンゴル・中国・タイの白亜系風成層を調査して砂漠分布と古風向の解析を行い,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元した [1-3].そして白亜紀を通じた亜熱帯高圧帯の緯度方向シフトを明らかにし,温暖化に伴うハドレー循環の応答に関する新仮説を提唱した [3].
また米国中西部(アリゾナ・ユタ・ワイオミング州)に露出する下部ジュラ系風成層(ナバホ砂岩)の調査と古風向パターンの解析により,超大陸パンゲア時代の大気循環系の復元も試みた。その結果,超大陸パンゲアの卓越風系のオービタル変動を反映して,北緯18-27°の緯度帯に縦列砂丘を主体とする砂漠環境が広がったことを明らかにした(Shozaki & Hasegawa, submitted).
湖成層から読み解く白亜紀および始新世“温室期”の気候変動
人為起源のCO2排出により,AD2200年には大気CO2濃度は900ppmを超え,全球平均気温は7.5℃上昇する可能性がIPCCにより指摘されている.近未来の“温室期(Hot house Earth)”における気候変化を予測するために,我々は白亜紀と始新世の年縞(ねんこう)を保存する湖成層を対象として,過去の“温室期”における数年~数十万年スケールの降水量変動の復元を試みた.モンゴルの白亜系湖成層(シネフダグ層)を対象に年代層序の構築と堆積学的解析を行い [4; Island Arc論文賞],年縞解析とXRFコアスキャナーによる高解像度元素組成変動の解析により,最終氷期のDOイベントと類似した千年周期の急激な気候変化が白亜紀“温室期”に起こっていた事を明らかにした(Hasegawa et al., submitted).また米国ユタ州の始新統湖成層(グリーンリバー層)を対象とし,同層上部の層状チャートは太陽活動の周期的変動が影響した藻類生産量変動を反映している事を明らかにした [5].
風成砂丘や球状コンクリーションから読み解く火星の表層環境史
風成砂丘は火星や土星の衛星(タイタン)の表層にも分布する.火星とタイタンの風成砂丘の配列方向を検討した結果,地球とは分布域が異なるものの,各々の大気循環パターンを反映することが明らかになった [6].火星の地層にはまた,超大陸・超海洋が存在した約40∼37億年前の古風向パターンも記録されており,当時の大気循環系の復元も試みている.
またジュラ紀風成層(ナバホ砂岩)中に含まれる球状鉄コンクリーションと,火星メリディアニ平原の地層に含まれる鉄小球(ブルーベリー)とを比較検討することで,火星の表層環境史の謎の解明に繋がった [7](シンポジウム「球状コンクリーションの科学」でも紹介).
文献:[1] Hasegawa et al., 2009, Jour. Asian Earth Sci., 35, 13-26.; [2] Hasegawa et al., 2010, Island Arc, 19, 605-621.; [3] Hasegawa et al., 2012, Climate of the Past, 8, 1323-1337.; [4] Hasegawa et al., 2018, Island Arc, e12243.; [5] Kuma, Hasegawa et al., 2019, Scientific Reports, 9:16448.; [6] 長谷川,2012, 地質雑, 118, 632-649.; [7] Yoshida, Hasegawa, et al., 2018, Science Advances, 4:eaau0872.