8:30 AM - 9:00 AM
[T5-O-1] [Invited]Earth Science of the Jyomon Stone Circles distributed in Northern
Akita Prefecture Northeast Japan
Keywords:world heritage, jyomon stoncircle, stone survey, river gravel
世話人からのハイライト紹介:本発表の秋田県北部2遺跡は,「北海道・北東北の縄文遺跡群」として,7月にユネスコの世界文化遺産に登録された.一般に遺跡石材は考古学者によって記載されることが多いが,本発表では地質学者による綿密な岩石学的検討がなされた.大湯環状列石,伊勢堂岱遺跡ともに,地形地質・周辺河床の礫種・形状に規定された石材が選択的に採取されている.参考:ハイライトについて
7月にユネスコの世界文化遺産に登録された北海道・北東北の縄文遺跡群は,秋田県では鹿角市の大湯環状列石(C14:4160±30yrBP~3460±30yrBP;藤井ほか,2017)と北秋田市の伊勢堂岱遺跡(C14:3760±30yrBP~3550±30yrBP;加速器分析研究所,2011)で,ともに十和田火山起源の更新世末火砕流台地に立地している.
大湯環状列石(OS)について藤岡・佐藤(1952)は遺跡が十和田火山中湖起源と推定した「大湯浮石層」の下位にあり,石材は大部分が輝石ひん岩で当時の川礫が使用されたことを述べた.その後加納(1985)は「輝石ひん岩」を石英閃緑ひん岩(Qdp)として記載し,起源を大湯川支流の安久谷川中流に分布する諸助山石英閃緑ひん岩岩体(諸助山岩体)と特定した.藤本(2017)は石材の悉皆調査から十和田火山起源の安山岩(An)が相当量含まれることを示し,諸助山岩体の節理系と安久谷川~大湯川の河床礫を調べて石材の採取地を推定した.一方,伊勢堂岱遺跡(IS)は起源の異なる多種類の石材が使用され,その採取地は遺跡に近い米代川・支流河床と推定された(藤本,2016).今回は両遺跡の立地,石材の岩種組成と形状,帯磁率をまとめてみる.石材と周辺の河床礫(OS12地点,ISは段丘礫も)の岩種組成,形状(円磨度R・最大径L・中間径M・最短径S),帯磁率(ISの花崗岩類GrとAn ,OSのQdpとAn)の概要は以下のとおりである.
大湯環状列石: 万座環状列石(MN;6488個)と野中堂環状列石(NO;2051個)からなる.後者は東西南北にAnを配した「日時計」状の整った配石を含む.岩種組成はそれぞれQdpが59.7%,59.1%,Anが28.8%,30.0%で河床より多い.Lの平均値はQdpが36.1cm,36.8cm,Anは24.9cm,24.4cmで頻度分布も似ている.共に河床礫より小さく,Qdpは柱状,Anは薄いものが多い.Qdpの帯磁率(×10-3SI)はMN(381個)の平均値が19.0,NO(159個)が18.9で諸助山岩体と一致する.Anは石材,河床礫とも20.6-21.7である.節理面解析から諸助山岩体は北東に伸張,北西に60度程度傾斜する岩脈状と推定される.石材と河床礫の組成・L・円磨度から,石材は遺跡に近い当時の大湯川河床から採集された.
伊勢堂岱遺跡:北からABCDの4環状列石で構成され,A(1057個)は凝灰岩類(Tf)29.3%,流紋岩(Ry)24.1%,An18.6%,ひん岩(Po)15.7%,B(309個)はTf19.1%,Ry27.5%,An14.6%, Po21.4%,C(1281個)はTf18.4%,Ry20.4%,An26.8%,Po23.7%,D(535個)はTf32.9%,Ry21.3%,An20.9%,Po17.2%で米代川河床礫(100個;Tf16.3%,Ry20.0%,An27.5%,Po28.7%)と類似し,Grや小猿部川源流の新第三紀花崗岩類も含む.Lの平均値はA24.4cm,B19.5cm,C22.3cm,D18.7cmと減少し,頻度分布もAの正規型から,10-15cmピークの非対称型を示す.形状は河床礫より細長く,円磨度はAnで高い.岩質と帯磁率から,Grは段丘から供給された阿仁川源流の太平山花崗岩体起源,Anは田代岳火山起源が多い.石材は遺跡周辺の米代川・小猿部川・湯車川の河床で採集された.
OSは花輪盆地北部に開けた大湯川左岸の台地上にある.太平洋側から来満峠を越えて安久谷川を下る古道沿いでは,緑色柱状のQdp河床礫は目立つ礫である.一方ISは鷹巣盆地西部で米代川左岸の段丘上にあり,周辺河川の河床礫は特に多量な岩種はない.ISの配石にはOSと小牧野遺跡に似た形式もある.各環状列石は地形地質・周辺河川の礫種・形状に規定され,選択的に採取された石材を活かして施工された.
文献:藤井安正・赤坂朋美・工藤 海(2017):特別史跡大湯環状列石総括報告書,357. 藤岡一男・佐藤 久(1952):埋没文化財発掘報告,no.2,23-40.藤本幸雄(2016):秋田地学,73,1-16.藤本幸雄(2017):秋田地学,74,1-14.加納 博(1985):大湯環状列石周辺遺跡発掘報告書(1),62-79.加速器分析研究所(2011):史跡伊勢堂岱遺跡発掘調査報告書,北秋田市教育委員会,181-189.
大湯環状列石(OS)について藤岡・佐藤(1952)は遺跡が十和田火山中湖起源と推定した「大湯浮石層」の下位にあり,石材は大部分が輝石ひん岩で当時の川礫が使用されたことを述べた.その後加納(1985)は「輝石ひん岩」を石英閃緑ひん岩(Qdp)として記載し,起源を大湯川支流の安久谷川中流に分布する諸助山石英閃緑ひん岩岩体(諸助山岩体)と特定した.藤本(2017)は石材の悉皆調査から十和田火山起源の安山岩(An)が相当量含まれることを示し,諸助山岩体の節理系と安久谷川~大湯川の河床礫を調べて石材の採取地を推定した.一方,伊勢堂岱遺跡(IS)は起源の異なる多種類の石材が使用され,その採取地は遺跡に近い米代川・支流河床と推定された(藤本,2016).今回は両遺跡の立地,石材の岩種組成と形状,帯磁率をまとめてみる.石材と周辺の河床礫(OS12地点,ISは段丘礫も)の岩種組成,形状(円磨度R・最大径L・中間径M・最短径S),帯磁率(ISの花崗岩類GrとAn ,OSのQdpとAn)の概要は以下のとおりである.
大湯環状列石: 万座環状列石(MN;6488個)と野中堂環状列石(NO;2051個)からなる.後者は東西南北にAnを配した「日時計」状の整った配石を含む.岩種組成はそれぞれQdpが59.7%,59.1%,Anが28.8%,30.0%で河床より多い.Lの平均値はQdpが36.1cm,36.8cm,Anは24.9cm,24.4cmで頻度分布も似ている.共に河床礫より小さく,Qdpは柱状,Anは薄いものが多い.Qdpの帯磁率(×10-3SI)はMN(381個)の平均値が19.0,NO(159個)が18.9で諸助山岩体と一致する.Anは石材,河床礫とも20.6-21.7である.節理面解析から諸助山岩体は北東に伸張,北西に60度程度傾斜する岩脈状と推定される.石材と河床礫の組成・L・円磨度から,石材は遺跡に近い当時の大湯川河床から採集された.
伊勢堂岱遺跡:北からABCDの4環状列石で構成され,A(1057個)は凝灰岩類(Tf)29.3%,流紋岩(Ry)24.1%,An18.6%,ひん岩(Po)15.7%,B(309個)はTf19.1%,Ry27.5%,An14.6%, Po21.4%,C(1281個)はTf18.4%,Ry20.4%,An26.8%,Po23.7%,D(535個)はTf32.9%,Ry21.3%,An20.9%,Po17.2%で米代川河床礫(100個;Tf16.3%,Ry20.0%,An27.5%,Po28.7%)と類似し,Grや小猿部川源流の新第三紀花崗岩類も含む.Lの平均値はA24.4cm,B19.5cm,C22.3cm,D18.7cmと減少し,頻度分布もAの正規型から,10-15cmピークの非対称型を示す.形状は河床礫より細長く,円磨度はAnで高い.岩質と帯磁率から,Grは段丘から供給された阿仁川源流の太平山花崗岩体起源,Anは田代岳火山起源が多い.石材は遺跡周辺の米代川・小猿部川・湯車川の河床で採集された.
OSは花輪盆地北部に開けた大湯川左岸の台地上にある.太平洋側から来満峠を越えて安久谷川を下る古道沿いでは,緑色柱状のQdp河床礫は目立つ礫である.一方ISは鷹巣盆地西部で米代川左岸の段丘上にあり,周辺河川の河床礫は特に多量な岩種はない.ISの配石にはOSと小牧野遺跡に似た形式もある.各環状列石は地形地質・周辺河川の礫種・形状に規定され,選択的に採取された石材を活かして施工された.
文献:藤井安正・赤坂朋美・工藤 海(2017):特別史跡大湯環状列石総括報告書,357. 藤岡一男・佐藤 久(1952):埋没文化財発掘報告,no.2,23-40.藤本幸雄(2016):秋田地学,73,1-16.藤本幸雄(2017):秋田地学,74,1-14.加納 博(1985):大湯環状列石周辺遺跡発掘報告書(1),62-79.加速器分析研究所(2011):史跡伊勢堂岱遺跡発掘調査報告書,北秋田市教育委員会,181-189.