日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R21[レギュラー]第四紀地質

[3ch407-09] R21[レギュラー]第四紀地質

2021年9月6日(月) 11:00 〜 11:45 第4 (第4)

座長:竹下 欣宏

11:30 〜 11:45

[R21-O-3] 福島県猪苗代湖の湖底堆積物に挟まるイベント層からみた過去1万3000年間の安達太良山の小規模噴火の頻度

*長橋 良隆1、片岡 香子2 (1. 福島大学共生システム理工学類、2. 新潟大学災害・復興科学研究所)

キーワード:猪苗代湖、湖底堆積物、安達太良山、小規模噴火、完新世

福島県中央部に位置する猪苗代湖は,磐梯山における約5万年前の山体崩壊によって,当時の谷部が堰き止められたことにより形成された(長橋ほか,2016).猪苗代湖の湖心部南の水深90m地点において掘削された湖底堆積物コア(INW2012コア)では,過去5万年間の粘土質シルト(コア深度0〜24.61m)中に71層のイベント層が挟在する(Kataoka and Nagahashi, 2019).そのうちの青灰色粘土(Gm)堆積物と下部に砂層を伴う青灰色粘土(Gs)堆積物は,安達太良山の小規模噴火によるラハールが猪苗代湖に流入し,密度流として湖底を流下・堆積したとされた(Kataoka and Nagahashi, 2019).この発表では,2013年に採取した4地点のピストンコアの解析を加えて,猪苗代湖の湖底堆積物からみた過去1万3000年間の安達太良山の小規模噴火の頻度について報告する.
 ピストンコアは,長瀬川河口沖のSt.1(水深44 m)とSt.2(水深68 m),翁島港沖のSt.3(水深59 m),舟津川河口沖のSt.4(水深68 m)において採取した.St.1は長瀬川デルタのデルタフロントに,St.2はプロデルタの緩斜面に位置する.St.1コアは採取長6.8 mで,基底部の年代は約0.6 kaである.Ev1-10の10層のイベント層が挟在し,5層のGm堆積物と2層のGs堆積物に加え,白色粘土(Wm)堆積物が3層認められる.イベント層の層厚は0.2 cm(Wm)〜7.5 cm(Gm)であり,平均層厚は1.5 cmである.St.2コアは採取長7.6 mで,基底部の年代は約9 kaである.Ev1—38の38層のイベント層が挟在し,30層のGm堆積物,1層のGs堆積物,7層のWm堆積物が認められる.イベント層の層厚は0.1 cm(Gm)に満たないものから最大4.2 cm(Gs)であり,平均層厚は0.7 cmである.St.3はプロデルタの緩斜面に位置する.St.3コアは採取長8.4 mで,基底部の年代は約13 kaである.Ev1—33の33層のイベント層が挟在し,22層のGm堆積物,4層のGs堆積物,7層のWm堆積物が認められる.イベント層の層厚は0.1 cm(Gm)〜6.8 cm(Gs)であり,平均層厚は0.7 cmである.St.4コアは採取長8.4 mで,基底部の年代は約18 kaである.St.4コアにはイベント層は認められない.
 各コアの堆積年代をイベント層の総数で割ると,St.2コアが237年,St.3コアが394年となる.これは,INW2012コアのGm・Gs堆積物の過去5万年間の発生間隔である1670年の約4から7倍の頻度となる.また,St.2・3・4コアには,共通して4層のテフラ鍵層(上位より順に,Hr-FPテフラ,Hr-FAテフラ,Nm-NKテフラ,To—Cuテフラ)が挟まる(長橋ほか,2014)ため,このテフラ鍵層と放射性炭素年代からイベント層の時空間分布が把握できる.猪苗代湖南部で採取したSt.4コアにはイベント層が挟まれないこと,INW2012コアの過去1万3000年間のイベント層の層数(14層)よりもSt.2・3コアのイベント層の層数の方が多いことは,これらのイベント層の供給源が猪苗代湖の北方にあることを示している.また,St.3コアのNm-NKテフラ(5.4 ka)下位に挟まるEv20—22イベント層は,St.3コアの堆積速度から約7 kaの年代と推定できるが,St.2コアの同層準には認められない.一方,St.3コアのNm-NK上位のEv4-19イベント層は,St.2コアの同層準に認められる.しかし,2 kaより新しいイベント層は,St.2コアにおいてEv1-20の20層が認められるのに対して,St.3コアの同層準には認められない.このことは,少なくとも2 ka以降に長瀬川の河口が現在の位置から大きく変化していないことを示す.複数地点で採取した湖底堆積物コアに挟まるイベント層の時空間分布は,湖と接続する河川系の河口位置の変化や河川系を通じて流入するイベント層の発生頻度(安達太良山の小規模噴火の頻度)をより詳しく検討することができる.
[文献 ]Kataoka K.S. and Nagahashi Y. (2019) Sedimentology, 66, 2784-2827. 長橋良隆・片岡香子・中澤なおみ(2016.3)塘 忠顕編著「裏磐梯・猪苗代地域の環境学」:17-31,福島民報社.長橋良隆・片岡香子・廣瀬孝太郎・神野成美・中澤なおみ(2014)共生のシステム,no.14,18-25.