128th JGS: 2021

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T5.[Topic Session]Culture geology

[3poster01-02] T5.[Topic Session]Culture geology

Mon. Sep 6, 2021 4:00 PM - 6:30 PM poster (poster)

4:00 PM - 6:30 PM

[T5-P-1] Geology and water quality characteristics of Sake-prepared water

*Ken-ichiro Hisada1, Shiho YABUSAKI2, Yukihiko KARATA3 (1. Bunkyo Univ., 2. Research Institute for Humanity and Nature, 3. Dank Co., Ltd.)

Keywords:Japanese sake, Sake-prepared water, water quality, geology, Terroir

日本酒は水,米,米麹から造られている.水は重要な原料のひとつであるが,同じ醸造酒でも仕込みに水を使わないワインとは対極の関係にある(Maltman, 2020).ワイン醸造が盛んな国々では,テロワールの違いによってワインの美味しさを生み出すとされている.Wilson(1998)は隣同士のブドウ畑であってさえも,いろいろな要素(水はけに大きく影響を与える地質や気候など)が組み合わさってワインの違いが生じるとした.一方,日本酒は酒米の栽培技術や発酵技術の改良とともに,豊富な湧き水や井戸水を原料として,その醸造業が発展してきた.湧水や井戸水は水循環の一部を担うことから,地表付近の土壌や地質の影響を受けている.しかしながら,日本酒醸造と地質との関係に関する最近の研究は,舩山(2016)があるのみで,酒蔵が位置する場所の地質とそこで使用する日本酒仕込み水の水質の関係については,不明な点が多い.そこで,国税庁「地質に対応した日本酒仕込み水の水質分析体系化によるテロワール・ブランディング」事業の一環として,日本酒仕込み水の水質と取水地の地質について調査検討を行った.
 全国およそ1400ある酒蔵のうち,仕込み水として使用している水274点(地下水200点,その他74点;ひとつの酒蔵から複数試料の場合あり;各50 mL)を入手した.仕込み水以外の参考水試料(9点)をあわせて分析総数は283点である.分析は総合地球環境学研究所にてまずEC(電気伝導率),pHとORP(酸化還元電位)を計測した.主要溶存イオン濃度の測定はイオンクロマトグラフ(ICS-3000またはICS-6000)によりF-, Cl-, NO2-, Br-, NO3-, SO42-, PO43-, Li+, Na+, NH4+, K+, Mg2+, Ca2+を測定した.HCO3-はpH4.2アルカリ度滴定法により求めた.
 全水試料について,基本的なイオン成分(陰イオン:Cl,HCO3,SO42-,NO3 の4成分 陽イオン:Mg2+,Ca2+,Na+,K+の4成分)の含有量を用いてグラフ化した(ヘキサダイアグラムとトリリニアダイアグラム).ヘキサダイアグラムでは個々の水試料の水質特性を見ることができる.本研究ではクラスター分析(上述の溶存イオン8成分の濃度を利用)を試み,9つのカテゴリーを見出した.またトリリニアダイアグラムでは,東北日本,西南日本内帯,外帯(以降,内帯,外帯と称する)の分析試料数は,130,147,6であり,アルカリ土類炭酸塩型(Ⅰ型),アルカリ炭酸塩型(Ⅱ型),アルカリ土類非炭酸塩型(Ⅲ型),アルカリ非炭酸塩型(Ⅳ型),中間型(Ⅴ型)のすべての領域に分散している.とくに,東北日本ではI型が50%,Ⅴ型が37%,内帯ではⅠ型が64%,Ⅴ型が24%となっている.
 金井他(1998)は,地表付近の地質やより深部の地質と水質との関わりを明らかにし,とくにヘキサダイアグラム上の花崗岩類に関連すると考えられる水質において,CO3-Ca・Mg型からアルカリ度とNa・Kが増加してゆく水質進化の過程を確認した.藪崎他(2007)は深成岩でできた筑波山における水質分析がCa-HCO3型であることを示している.本研究の水質分析結果から,花崗岩がより広く分布する内帯(磯山他,1984;棚倉構造線と糸静線の間の西南日本内帯・外帯東部を東北日本とした)において,内帯の地域に位置する酒蔵の仕込み水は,Ca-HCO3型がより卓越すると言えよう.一方,東北日本の水質ではより中間型の水が目立つ.これは磯山他(1984)の岩種・時代別分布面積比の第四紀・新第三紀の卓越にも明瞭に表れているように,広く分布するこれらの地層中の地下水流動に起因するものと推定される.今後さらなる解析が必要であるが,本研究の第一次近似的まとめとして,仕込み水と地質(特に花崗岩類)には関係があるといえる.
【引用文献】舩山 淳,2016,日本醸造協会誌,111,801-807. 磯山 功他,1984,地質調査所月報,35,25-47. 金井 豊他,1998,地質調査所月報,49,425-438. Maltman, A., 2020, The Geology of Wine, Spirits and Beer. In Elias, S. and & Alderton, D., eds., the Encyclopedia of Geology (2nd edition), Elsevier, 627-643. Wilson, J.E., 1998, TERROIR. University of California Press, London, 336p. 藪崎志穂他,2007,地下水学会誌, 49,153-168.