4:00 PM - 6:30 PM
[R1-P-5] Homogenization experiments on zircon melt inclusions in plutonic rocks
Keywords:melt inclusion, zircon, plutonic rock
深成岩に含まれるジルコンメルト包有物の化学組成情報を得ることを目指した基礎研究として、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いたメルト包有物の均質化実験を行った。実験後の均質化したメルト包有物についてSEM-EDS分析を行い、得られた結果について検討した。
はじめに メルト包有物はマグマ溜まりで成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。ジルコンに含まれるメルト包有物は、物理化学的に安定な鉱物であるジルコンがメルト包有物の変質を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。一方で、深成岩中のメルト包有物はマグマ冷却過程での結晶化により不均質な多相包有物となっており、EPMAやICP-MSなどを用いた化学分析により直接メルト組成を得ることは困難である。そのため分析の前処理として、封圧下でのメルト包有物の均質化実験が有効である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。そこで本研究では、深成岩中のジルコンメルト包有物の組成情報を得るための基礎研究として、その均質化実験を行った。
実験試料 本研究には、赤石山地北部に分布する中新世甲斐駒ヶ岳岩体から採取された花崗閃緑岩試料を使用した。この試料はSaito et al. (2012 Contrib Mineral Petrol)により報告された当岩体の試料のうち全岩SiO2含有量の最も低いもの(SiO2 = 67.9 wt%)であり、主成分鉱物として石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、普通角閃石を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石、磁鉄鉱、イルメナイト、褐簾石を含む。ジルコンは偏光顕微鏡観察から黒雲母に包有されるものや鉱物粒間に産するものが認められる。ジルコン内部には微細な燐灰石が含まれるほか、不定形の包有物が認められる。この不定形包有物は主として石英と長石類からなり(Fig. 1)、ジルコンの結晶成長中に取り込まれたメルトから結晶化したものと考えられる。なお、当岩体については、角閃石Al地質圧力計により2.4〜2.2 kbarの固結圧力が見積もられている(Watanabe et al., 2020 J Mineral Petrol Sci)。
実験方法 分離・抽出したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで実験を行った。温度条件は全岩化学組成から求めたジルコン飽和温度(Watson and Harrison, 1983 Earth Planet Sci Lett)が776℃であることから、780℃を実験温度とした。ただし、実験はメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後780℃まで温度を下げて24時間保持した。実験後に試料を急冷し、回収したジルコンを石英スタンダードとともにエポキシ樹脂でマウント後、鏡面研磨を行い、SEM-EDSで観察・分析を行った。
結果と考察 反射電子像観察および組成マップから、本実験によりジルコンメルト包有物が均質化したことが確認できる(Fig. 2)。EDS分析から、メルト包有物のSiO2含有量は69〜79 wt %の範囲を示し、SiO2の増加に対して、Al2O3、CaO、Na2O、K2Oが減少する傾向が認められた。また、下司ほか(2017 火山)に従い、余剰酸素から含水量を推定したところ、およそ2〜8 wt%程度の含水量が見積もられ、これらはSiO2の増加に対して上昇する傾向が認められた。これらのことから、メルト包有物はマグマの固結過程で組成変化する粒間メルトが様々な段階でジルコンにより取り込まれたものと考えられる。さらに、メルト包有物のうち特に高いSiO2含有量を持つものの組成を、圧力評価のためにノルムQ-Ab-Or図(Blundy and Cashman, 2001 Contrib Mineral Petrol)上に投影したところ、甲斐駒ヶ岳岩体の固結圧力として求められた2.2〜2.4 kbarでの平衡圧力よりも有意にAb成分に乏しい領域にプロットされ、これらは0.5 kbar以下の平衡圧力を示す。一方で、余剰酸素から推定した含水量はおよそ6〜8 wt%程度となり、この含水量は800℃の花崗岩質メルトの飽和圧力(Hortz et al., 1995 Am Mineral)ではおよそ2.0〜3.5 kbarに相当する。このような圧力評価の不一致については、微小領域の電子線照射によるNa損失(Fig. 2e)がメルト包有物のノルムAb成分の減少と余剰酸素の増加の要因となったことなどが考えられるが、これらの問題については今後の検討課題である。
はじめに メルト包有物はマグマ溜まりで成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。ジルコンに含まれるメルト包有物は、物理化学的に安定な鉱物であるジルコンがメルト包有物の変質を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。一方で、深成岩中のメルト包有物はマグマ冷却過程での結晶化により不均質な多相包有物となっており、EPMAやICP-MSなどを用いた化学分析により直接メルト組成を得ることは困難である。そのため分析の前処理として、封圧下でのメルト包有物の均質化実験が有効である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。そこで本研究では、深成岩中のジルコンメルト包有物の組成情報を得るための基礎研究として、その均質化実験を行った。
実験試料 本研究には、赤石山地北部に分布する中新世甲斐駒ヶ岳岩体から採取された花崗閃緑岩試料を使用した。この試料はSaito et al. (2012 Contrib Mineral Petrol)により報告された当岩体の試料のうち全岩SiO2含有量の最も低いもの(SiO2 = 67.9 wt%)であり、主成分鉱物として石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、普通角閃石を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石、磁鉄鉱、イルメナイト、褐簾石を含む。ジルコンは偏光顕微鏡観察から黒雲母に包有されるものや鉱物粒間に産するものが認められる。ジルコン内部には微細な燐灰石が含まれるほか、不定形の包有物が認められる。この不定形包有物は主として石英と長石類からなり(Fig. 1)、ジルコンの結晶成長中に取り込まれたメルトから結晶化したものと考えられる。なお、当岩体については、角閃石Al地質圧力計により2.4〜2.2 kbarの固結圧力が見積もられている(Watanabe et al., 2020 J Mineral Petrol Sci)。
実験方法 分離・抽出したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで実験を行った。温度条件は全岩化学組成から求めたジルコン飽和温度(Watson and Harrison, 1983 Earth Planet Sci Lett)が776℃であることから、780℃を実験温度とした。ただし、実験はメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後780℃まで温度を下げて24時間保持した。実験後に試料を急冷し、回収したジルコンを石英スタンダードとともにエポキシ樹脂でマウント後、鏡面研磨を行い、SEM-EDSで観察・分析を行った。
結果と考察 反射電子像観察および組成マップから、本実験によりジルコンメルト包有物が均質化したことが確認できる(Fig. 2)。EDS分析から、メルト包有物のSiO2含有量は69〜79 wt %の範囲を示し、SiO2の増加に対して、Al2O3、CaO、Na2O、K2Oが減少する傾向が認められた。また、下司ほか(2017 火山)に従い、余剰酸素から含水量を推定したところ、およそ2〜8 wt%程度の含水量が見積もられ、これらはSiO2の増加に対して上昇する傾向が認められた。これらのことから、メルト包有物はマグマの固結過程で組成変化する粒間メルトが様々な段階でジルコンにより取り込まれたものと考えられる。さらに、メルト包有物のうち特に高いSiO2含有量を持つものの組成を、圧力評価のためにノルムQ-Ab-Or図(Blundy and Cashman, 2001 Contrib Mineral Petrol)上に投影したところ、甲斐駒ヶ岳岩体の固結圧力として求められた2.2〜2.4 kbarでの平衡圧力よりも有意にAb成分に乏しい領域にプロットされ、これらは0.5 kbar以下の平衡圧力を示す。一方で、余剰酸素から推定した含水量はおよそ6〜8 wt%程度となり、この含水量は800℃の花崗岩質メルトの飽和圧力(Hortz et al., 1995 Am Mineral)ではおよそ2.0〜3.5 kbarに相当する。このような圧力評価の不一致については、微小領域の電子線照射によるNa損失(Fig. 2e)がメルト包有物のノルムAb成分の減少と余剰酸素の増加の要因となったことなどが考えられるが、これらの問題については今後の検討課題である。