日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R1[レギュラー]深成岩・火山岩とマグマプロセス

[3poster03-09] R1[レギュラー]深成岩・火山岩とマグマプロセス

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R1-P-7] (エントリー)銚子地域に産する高マグネシア安山岩と古銅輝石安山岩の記載岩石学的検討

*柴野 暉崇1、髙橋 俊郎1、大木 淳一2、岩本 直哉3 (1. 新潟大学、2. 千葉県立中央博物館、3. 銚子ジオパーク推進協議会)

キーワード:高マグネシア安山岩、古銅輝石デイサイト、古銅輝石安山岩、初生安山岩、銚子

はじめに
 千葉県銚子地域は,前期中新世に前弧域で噴出した高マグネシア安山岩(HMA)が分布する.銚子HMAの成因は,前期中新世の日本海拡大に先駆ける高温のアセノスフェリックマントルの注入による沈み込むスラブの部分融解に関連すると考えられている[1].しかし,鉱物化学組成を含めた詳細な岩石記載はなされておらず,マグマ組成進化過程は明らかになっていない.よって,本研究では銚子HMAのマグマ組成進化過程を明らかにすることを目的として,地質調査および記載岩石学的・岩石学的研究手法による調査を行った.本発表では,銚子HMAの記載岩石学的・岩石学的特徴を示し,3タイプに区分された銚子HMAの岩石学的な成因関係について考察を行う.
地質学的背景と産状
 本地域はジュラ系愛宕山層群を基盤岩として,下位より白亜系銚子層群,中新統千人塚層,夫婦ヶ鼻層,さらに鮮新統以降が累重する[2].本研究では千人塚層を構成する火山岩類を対象とした.千人塚層は岩礁として3ヶ所に限定的に露出し,黒生地域および長崎鼻地域には玄武岩質安山岩質溶岩,千人塚地域には安山岩質の溶岩および岩脈とデイサイト質の溶岩および火山角礫岩が分布する.
岩石記載・鉱物化学組成・全岩化学組成
 千人塚層火山岩類は記載岩石学的特徴と全岩化学組成に基づき,以下の 3タイプに区分される.
1.単斜輝石カンラン石玄武岩質安山岩(HMA)
 斑晶鉱物として,カンラン石(8-12vol%),単斜輝石(<1vol%),極稀に直方輝石が含まれ,クロムスピネルが微斑晶およびカンラン石包有物として見られる.また,主として石英からなる捕獲結晶が見られる.カンラン石斑晶のコアはFo%=84-88,リムはFo%=72-80を示す.単斜輝石斑晶のコアはMg#=81-85を示す.
 本タイプはSiO₂=55.2-56.8wt%の玄武岩質安山岩質でありMg#=63-67,Cr=255-411ppm,Ni=161-294ppmを示し,HMAに分類される.Fe-Mg交換平衡[3]より,カンラン石はHMAのメルト(全岩化学組成を近似)と平衡関係にあると推定されるが,単斜輝石はメルトと非平衡だと推定され[4],より遅期の晶出を示すと考えられる.
2.直方輝石安山岩
 斑晶鉱物として,直方輝石(7-8vol%)のみ含まれる.直方輝石斑晶のコアは古銅輝石の組成を示し,Mg#=82-88の組成範囲を示す. 本タイプはSiO₂=60.3-61.7wt%を示し,1サンプルを除きMg#=60-61 ,Cr=140-161ppmを示し,直方輝石はメルトと平衡にあったと推定される[5].
3.直方輝石デイサイト 
 斑晶鉱物として,直方輝石(6-8vol%)と極稀に斜長石が含まれる.直方輝石斑晶は古銅輝石組成を示し,コアはMg#=84-89,リムはMg#=75-82を示す.斜長石斑晶はOscillatory状の正累帯構造を示し,コアはAn%=80-92を示す.
 直方輝石デイサイトはSiO₂=65.3-67.8wt%を示し,Mg#=34-63, Cr=120-147を示す.これは直方輝石安山岩と同程度の含有量である.また,直方輝石はメルトと平衡にあったと推定される[5].
マグマ組成進化過程
 HMAと直方輝石デイサイトの全岩化学組成は,SiO₂量の増加に伴いMgO,Cr,Ni量が減少傾向を示す.また,斑晶鉱物の化学組成と記載岩石学的に非平衡な特徴が見られないことから,この組成変化は分別結晶作用の影響が示唆される.マスバランス計算とレイリ―分別モデルを試行した結果, HMAの化学組成変化はカンラン石を分別することで説明できる.同様に,直方輝石デイサイトの化学組成変化は直方輝石を分別することで説明できる.
 各タイプの岩石は高い全岩Mg#を示し,タイプ間における類縁関係が示唆される.しかし,HMAからカンラン石や単斜輝石を分別しても,直方輝石安山岩を形成することはできない.また,直方輝石安山岩から直方輝石を分別したとしても,より高い全岩Mg# を持つ直方輝石デイサイトを形成することはできないだろう.以上のことから,各タイプ間には分別結晶作用による成因関係はないと考えられ,より詳細な岩石学的・地球化学的検討が必要である.
引用文献
[1]Hanyu et al., 2006, Geochem. Geophys. Geosyst., 7, Q08002.
[2]高橋ほか, 2003, 地雑, 109, 6, 345-360.
[3]Roeder and Emslie, 1970, Contrib. Mineral. Petrol, 29, 275-289.
[4]Topliss and Carroll, 1995, J. Petrol., 36, 1311-1326.
[5]Rhodes et al., 1979, Tectonophys, 55, 35-62.