128th JGS: 2021

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Poster

R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

[3poster15-23] R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

Mon. Sep 6, 2021 4:00 PM - 6:30 PM poster (poster)

4:00 PM - 6:30 PM

[R4-P-10] (entry) Petrogenesis of lawsonite-bearing calcsilicate schist from the Sanbagawa belt in the Namekawa area, Ehime Prefecture, Japan

*Nachi Kurihara1, Shunsuke Endo1 (1. Shimane University)

Keywords:metasomatism, sanbagawa belt, lawsonite

はじめに  沈み込み帯の水循環において,堆積物・変質玄武岩質海洋地殻・マントル物質の主要岩石組成のほかに,沈み込み境界での交代作用の役割が重要視されている.例えば,沈み込み帯浅部での玄武岩の濁沸石交代作用(Endo and Wallis, 2017)や,沈み込み帯深部の泥質片岩のローソン石交代作用(Vitale Brovarone and Beyssac, 2014)により形成されるCASH系の高含水量交代岩とその脱水分解は,沈み込み境界の吸水・脱水挙動を大きく変化させうる.今回,愛媛県滑川地域の三波川変成岩の地質調査により岩相層序・地質構造・変成分帯を明らかにした.その過程で,見出した新しいタイプの交代岩である石灰珪質片岩について詳しく報告する.

地質背景 愛媛県滑川地域は,MTL桜樹屈曲部の三波川変成岩の分布域である.滑川左岸の標高702 mの山頂周囲2 km四方のマッピングを行った.岩相境界はほぼ水平,片理は低角で地質構造は東西軸のゆるいシンフォームが存在する.標高差350 mの岩相層序は構造的下位から泥質片岩層(無点紋),苦鉄質片岩卓越層(無点紋),珪質・苦鉄質・泥質片岩層(点紋あり)に区分される.泥質片岩の鉱物組合せから,下位の無点紋帯は緑泥石帯,上位の点紋帯はざくろ石帯に相当する.緑泥石帯とざくろ石帯の境界がアイソグラッドであるか構造境界であるかは現時点で判断できない.ざくろ石帯には,蛇紋岩ブロックが含まれる.蛇紋岩はクロムスピネル(Cr# = 0.61-0.92)を含み,変成鉱物組合せは,アンチゴライト+ブルーサイトで,かんらん石を含まない.

石灰珪質片岩の記載 石灰珪質片岩は,緑泥石帯の厚い苦鉄質片岩層に挟まれて産する(タイプ1).また,この苦鉄質片岩層と泥質片岩の岩相境界においても形成されている(タイプ2).タイプ1は方解石に富む一方で,タイプ2は方解石に乏しく炭質物を含む.両タイプの石灰珪質片岩は,残留鉱物として褐色のクロムスピネル(Cr# = 0.36-0.43)を含み,その周囲にCrに富む緑色のフェンジャイトやパンペリー石(Cr2O3は最高15.5 wt%)が形成されている. タイプ1は,端成分に近いゾイサイト,緑れん石,方解石,石英を主要構成鉱物とし,少量のフェンジャイト,カリ長石,緑泥石を含む.方解石やゾイサイト斑状変晶中に,初期ステージの鉱物としてローソン石やAlに富むパンペリー石が包有される.

考察 滑川地域は四国中央部の汗見川・白髪山地域と同様に,スラブと前弧地殻-マントル境界の三重会合点付近がよく保存された地域といえる.蛇紋岩は四国中央部のように変成かんらん石がみられないことから,前弧マントル先端部が保存されていると考えられる.このような形成場は,滑川地域が現世の西南日本の深部スロー地震発生域の地質学的描像を考察するうえで重要なフィールドであることを意味する.西南日本の深部低周波微動発生域においてローソン石の脱水分解を重要視する考えがある(Fagereng and Diener, 2011).しかし三波川帯の緑泥石帯では,一般に苦鉄質片岩にはローソン石はみられず,泥質片岩ではローソン石は微量であるため,基本的な堆積物・変質玄武岩質海洋地殻の岩石組成を考える限り,ローソン石の脱水分解は重要でない. 一方,今回発見した石灰珪質片岩は,珪酸塩ではゾイサイトと緑れん石が主要構成鉱物であるが,ローソン石のレリックが見いだされたことからプログレード初期にはローソン石が主体であったことを示す.また石灰珪質片岩は,苦鉄質片岩に伴われることと,低Cr#のクロムスピネルを含むことから,苦鉄質片岩(MORB起源)を原岩とする交代岩である.タイプ2の産状と炭質物を含むことから,泥質片岩側からC-H-O流体の流入に伴い,苦鉄質片岩の炭酸塩岩化およびローソン石交代作用がプログレード初期に起こった可能性が高い.ローソン石交代作用は保水機構として効率的であり,それが普遍的に起きているのであれば,交代岩の沈み込みに伴う脱水分解(反応は3Lws + Cc = 2Zo + CO2 + 5H2O)は深部スロー地震発生域の流体発生メカニズムのひとつとして重要である.

引用文献 Vitale Brovarone and Beyssac (2014) EPSL, 393, 275-284. Fagereng and Diener (2011) GRL, 38, L15302. Endo and Wallis (2017) JMG, 35, 695-716.