4:00 PM - 6:30 PM
[R4-P-14] Decompressional texture in pelitic metamorphic rock from Tenmondai Rock, Lützow–Holm Complex, East Antarctica
Keywords:East Antarctica, Lützow–Holm Complex, Tenmondai Rock, metamorphic P-T-t path, spinel
リュッツォホルム岩体は、中dP/dT変成コンプレックスで、東側から西側へ、角閃岩相~超高温変成岩へ変成度が高くなる累進変成地域である(Hiroi et al., 1991など)。その変成ピーク時期はジルコンU-Pb年代から600~500 Ma頃とされている(Dunkley et al., 2020)。天文台岩はプリンスオラフ海岸の1 km × 3 km程度の露岩で、角閃岩相と、角閃岩相・グラニュライト相漸移部のちょうど境界部にあたる(Shiraishi et al. 1984)。
本研究は、第35次南極地域観測隊の調査において、天文台岩で採取した1個の岩石サンプル(TMD40)の解析結果である。TMD40は肉眼的には均質な岩石で、弱い片麻状構造をもつ。主としてザクロ石、スピネル(ヘルシナイト)、黒雲母、珪線石、斜長石、カリ長石、石英、イルメナイト、ルチルで構成され、少量の白雲母、アパタイト、ジルコンを含む。スピネルは石英と接することはなく、斜長石とシンプレクタイトをなして産する。
鏡下の組織と鉱物化学組成などから、TMD40の変成ステージは、Stage-I(昇温期)、Stage-II(温度ピーク)、Stage-III(後退期)に分けることができる。これをさらに細分し、温度ピーク以降の変成ステージは以下のように区別することができる。
Stage-II: ザクロ石斑状変晶のマントルの高XMg部と、Grt + Sil + Kfsの共生時期。
Stage-IIIa: Grt + Kfs + H2O = Bt + Sil、およびGrt + Rt = Ilm + Sil + Qzの反応により、ザクロ石斑状変晶が分解され始める時期。
Stage-IIIb: スピネルの出現で定義され、Grt + Sil + Spl + Plの4相が共存する時期。
Stage-IIIc: ザクロ石の消滅で定義され、ザクロ石に隣接するpressure shadowにBt + Msが形成される時期。
Stage-IIの温度圧力条件は、ザクロ石斑状変晶とその包有物などとの共生関係に基づき、GASP圧力計やGRIPS圧力計などから得られ、800~840 ℃で800 MPa程度の圧力である。Stage-IIIaの圧力は、ザクロ石斑状変晶にIlm + Sil + Qzのドメインが湾入して形成されている組織に基づいて得られ、GRAIL圧力計により求めることができる。800 ℃で650 MPa程度である。Stage-IIIbの圧力は、Spl + Plシンプレクタイトの形成時期として、Grt-Sil-Spl-Pl圧力計(Shimura et al, , 2016; 志村ほか, 2021)から求めることができる。750 ℃で450 MPa程度である。
Stage-IIIaの減圧組織は、もともとザクロ石とルチルが接していた場所に、
Grt + Rt = Ilm + Sil + Qz ・・・・・①
の反応が起きて形成されたことが読み取れる。一方、Stage-IIIbの減圧組織は、もともとザクロ石と珪線石が接していた場所に、
Grt + Sil = Spl + Pl ・・・・・②
の反応が起きて形成されたことが読み取れる。①の反応が起きたドメインでは、ザクロ石斑状変晶は“薄膜状の石英”に囲まれ、ザクロ石と珪線石は直接には接しなくなり、基質から隔離されている。これにより、後の②の反応は起きていない。一方、②の反応が起きたドメインでは、ザクロ石やスピネルは斜長石に完全に囲まれ、基質から隔離されている。このためより後にザクロ石に接して白雲母や黒雲母が形成されていることはない。
天文台岩の変成履歴は、Takamura et al. (2020)が苦鉄質変成岩で解析したように、時計回りの変成P-T-t経路であることが、泥質変成岩からも支持される。サンプルTMD40は、肉眼的にはほぼ均質な岩石にみえるが、ごく狭いドメイン内の反応前の組織や化学組成の違いにより、事後に形成される減圧組織が異なっている。この試料には、様々な段階の減圧プロセスが記録されている。
文献
Dunkley, D. J. et al. (2020) Polar Science, 26, 100606.
Hiroi, Y. et al. (1991) In: Geological evolution of Antarctica. Cambridge Univ. Press, 83–87.
Shimura, T. et al. (2016) Goldschmidt Conference 2016, abstract 2833.
志村俊昭 ほか (2021) 日本地球惑星科学連合2021年大会, SMP25-11.
Shiraishi, K. et al. (1984) Memoirs of NIPR Spec. Iss., 33, 126–144.
Takamura, Y. et al. (2020) Precambrian Research, 348, 105850.
本研究は、第35次南極地域観測隊の調査において、天文台岩で採取した1個の岩石サンプル(TMD40)の解析結果である。TMD40は肉眼的には均質な岩石で、弱い片麻状構造をもつ。主としてザクロ石、スピネル(ヘルシナイト)、黒雲母、珪線石、斜長石、カリ長石、石英、イルメナイト、ルチルで構成され、少量の白雲母、アパタイト、ジルコンを含む。スピネルは石英と接することはなく、斜長石とシンプレクタイトをなして産する。
鏡下の組織と鉱物化学組成などから、TMD40の変成ステージは、Stage-I(昇温期)、Stage-II(温度ピーク)、Stage-III(後退期)に分けることができる。これをさらに細分し、温度ピーク以降の変成ステージは以下のように区別することができる。
Stage-II: ザクロ石斑状変晶のマントルの高XMg部と、Grt + Sil + Kfsの共生時期。
Stage-IIIa: Grt + Kfs + H2O = Bt + Sil、およびGrt + Rt = Ilm + Sil + Qzの反応により、ザクロ石斑状変晶が分解され始める時期。
Stage-IIIb: スピネルの出現で定義され、Grt + Sil + Spl + Plの4相が共存する時期。
Stage-IIIc: ザクロ石の消滅で定義され、ザクロ石に隣接するpressure shadowにBt + Msが形成される時期。
Stage-IIの温度圧力条件は、ザクロ石斑状変晶とその包有物などとの共生関係に基づき、GASP圧力計やGRIPS圧力計などから得られ、800~840 ℃で800 MPa程度の圧力である。Stage-IIIaの圧力は、ザクロ石斑状変晶にIlm + Sil + Qzのドメインが湾入して形成されている組織に基づいて得られ、GRAIL圧力計により求めることができる。800 ℃で650 MPa程度である。Stage-IIIbの圧力は、Spl + Plシンプレクタイトの形成時期として、Grt-Sil-Spl-Pl圧力計(Shimura et al, , 2016; 志村ほか, 2021)から求めることができる。750 ℃で450 MPa程度である。
Stage-IIIaの減圧組織は、もともとザクロ石とルチルが接していた場所に、
Grt + Rt = Ilm + Sil + Qz ・・・・・①
の反応が起きて形成されたことが読み取れる。一方、Stage-IIIbの減圧組織は、もともとザクロ石と珪線石が接していた場所に、
Grt + Sil = Spl + Pl ・・・・・②
の反応が起きて形成されたことが読み取れる。①の反応が起きたドメインでは、ザクロ石斑状変晶は“薄膜状の石英”に囲まれ、ザクロ石と珪線石は直接には接しなくなり、基質から隔離されている。これにより、後の②の反応は起きていない。一方、②の反応が起きたドメインでは、ザクロ石やスピネルは斜長石に完全に囲まれ、基質から隔離されている。このためより後にザクロ石に接して白雲母や黒雲母が形成されていることはない。
天文台岩の変成履歴は、Takamura et al. (2020)が苦鉄質変成岩で解析したように、時計回りの変成P-T-t経路であることが、泥質変成岩からも支持される。サンプルTMD40は、肉眼的にはほぼ均質な岩石にみえるが、ごく狭いドメイン内の反応前の組織や化学組成の違いにより、事後に形成される減圧組織が異なっている。この試料には、様々な段階の減圧プロセスが記録されている。
文献
Dunkley, D. J. et al. (2020) Polar Science, 26, 100606.
Hiroi, Y. et al. (1991) In: Geological evolution of Antarctica. Cambridge Univ. Press, 83–87.
Shimura, T. et al. (2016) Goldschmidt Conference 2016, abstract 2833.
志村俊昭 ほか (2021) 日本地球惑星科学連合2021年大会, SMP25-11.
Shiraishi, K. et al. (1984) Memoirs of NIPR Spec. Iss., 33, 126–144.
Takamura, Y. et al. (2020) Precambrian Research, 348, 105850.