128th JGS: 2021

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R8 [Regular Session]Marine geology

[3poster34-38] R8 [Regular Session]Marine geology

Mon. Sep 6, 2021 4:00 PM - 6:30 PM poster (poster)

4:00 PM - 6:30 PM

[R8-P-2] (entry) Early Pleistocene sea surface environments around the Boso Peninsula based on calcareous nannofossil biostratigraphy in the Otadai and Umegase Formations of the Kazusa Group

*Souki HIROTA1, Koji KAMEO2, Daisuke KUWANO1 (1. Chiba University Graduate School of Science and Engineering, 2. Chiba University Graduate School of Science)

Keywords:Early Pleistocene, calcareous nannofossil, Kazusa Group, Kuroshio

房総半島中央部に分布する上総層群は,前期–中期更新世に相当する地層群であり,保存の良い様々な微化石を含む(例えばOda, 1977 ; 佐藤・高山,1988)ことで知られている.本層群の各層は,堆積速度が大きいことから,高い時間分解能での層序学的研究に適している.また,前弧海盆である上総海盆は,暖流である黒潮と寒流である親潮との会合域に位置していたと考えられるため,上総層群を構成する各層には,これらの海流の変化が記録されていると考えられる(例えば五十嵐,1994).これらのことから,上総層群に属する地層群を詳しく解析することにより,かつての海洋環境を明らかにしようとする研究が行われるようになった(Suganuma et al., 2021;桑野ほか,2019).以上のことを踏まえ,本研究では,石灰質ナノ化石群集の層位変化に基づき,上総層群大田代層・梅ヶ瀬層堆積当時における房総半島周辺海域の海洋表層環境の変遷をおおむね数千年スケールで推定することを目的とした.
 本研究では,研究坑井JNOC TR-3から得られたコア(以下TR–3コア)の試料を用いて研究を行った.TR-3コアは,辻ほか(2005)によって高精度年代軸が設定されており,本研究ではそれをLisiecki and Raymo (2005) のLR04スタックカーブを用いて,年代軸の再構築を行った.石灰質ナノ化石分析は,①石灰質ナノ化石群集の層位分布の検討,②環境指標となる化石種の層位分布の検討をそれぞれ65試料行った.①は200個体,②は100個体を無作為に抽出し同定を行い,各種の相対産出頻度を求めた.
 検討した65試料において,16属20種以上の石灰質ナノ化石の産出が認められた.検討層準を通してGephyrocapsa属,Reticulofenestra属が化石群集の大半を占め,その他の化石種の産出頻度は極めて低い.また,本邦周辺海域における環境指標種の分布は,Tanaka (1991) で明らかにされており,本研究の環境指標種の層位変化に基づくと,黒潮指標種であるUmbilicosphaera sibogaeの産出頻度は,親潮指標種であるCoccolithus pelagicusの産出頻度よりも検討層準を通して高くなっている.したがって,上総層群大田代層・梅ヶ瀬層堆積当時における表層海洋は,概して現在の黒潮水域または黒潮フロントのような環境であったと考えられる.その中でも,U. sibogaeの産出頻度が氷期・間氷期スケールよりも短い時間スケールで変動していることから,黒潮の南北移動はミランコビッチスケールよりも短い周期で引き起こされていたことが明らかになった.また,TR–3コアの酸素同位体比とLR04カーブのそれとの差が大きいことから,地域的な影響が黒潮の南北移動に大きく貢献していると示唆される.

謝辞
 本研究を進めるにあたり,独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構にはTR-3号井の試料の利用を許可していただいた.石油資源開発株式会社辻隆司氏にはコア試料の深度および岩相についてご教示いただいた.元日本天然ガス株式会社三田勲博士には試料の利用に関してご協力いただいた.以上の方々に深く謝意を表する次第である.

引用文献
五十嵐,1994, 地質学雑誌, 100, 348-359.
桑野ほか,2019, 日本地質学会第126年学術大会講演要旨,R23-P-2.
Lisiecki and Raymo, 2005, Paleoceanography, 20, PA1003.
Oda, 1977, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 48, 1–76.
佐藤・高山,1988, 地質学論集, 30, 205-217.
Suganuma et al., 2021, Episodes J. Int. Geosci., 1–31.
Tanaka., 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127-198.
辻ほか,2005, 地質学雑誌111, 1–20.