128th JGS: 2021

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Poster

R15 [Regular Session]Paleontology

[3poster57-61] R15 [Regular Session]Paleontology

Mon. Sep 6, 2021 4:00 PM - 6:30 PM poster (poster)

4:00 PM - 6:30 PM

[R15-P-2] (entry) Mode of Occurrence of siliceous microfossil assemblages from infill of trace fossils: an example of the ichnofossil Tasselia ordamensis from the Oligocene Nishinoomote Formation of the Kumage Group on the Tanegashima Island, Kagoshima, SW Japan

★(9/6)優秀ポスター賞受賞 ★

*Akihide KIKUKAWA1, Kazuki KIKUCHI2, Yoshiaki AITA3, Nobuhiro KOTAKE4 (1. ITOCHU Oil Exploration Co., Ltd., 2. Kyoto Univ., 3. Utsunomiya Univ., 4. Chiba Univ.)

Keywords:Tasselia ordamensis, radiolarian fossil, diatom fossil, preservation potential, Oligocene, calcareous concretion

生痕化石の充填物から保存良好な微化石が産出する例はこれまでも報告され,地質年代決定に用いられてきた(芳賀・小竹,1996など).しかし,生痕内部での微化石の分布パタンや産状の詳細を報告した例は知られていない.また,母岩から産出した微化石群集と生痕中のそれとを比較し,微化石の保存状態や種組成の違いを検討した研究も知られていない.そこで本研究では,鹿児島県種子島に分布する漸新統熊毛層群西之表層大久保泥岩部層から産出した生痕化石Tasselia ordamensisの充填物から豊産する放散虫化石群集の種構成を明らかにすると共に,産状を観察・記載した.そして,母岩の泥岩に含まれる放散虫化石群集とそれらを比較した.その結果,生痕中に保存された放散虫化石群集は,母岩に含まれるそれに比べて保存状態が良く,種の多様性も高いことが判明した.これらの結果に基づき,放散虫化石群集の種構成と保存状態が,生痕内部と外部の母岩とで明瞭な差異が生じた理由を検討した.
 生痕化石Tasseliaは,層理面にほぼ垂直なlined inner tubeと,それを取り巻くinner fill(以下IF)とouter fill(以下OF)から構成され,その外形は洋梨型が多い.Tasseliaは深海堆積物から産出し,多毛類の摂食・排泄・居住痕と解釈されている(Olivero and López Cabrera,2010).本研究で検討したTasseliaは,石灰質コンクリーションとして泥岩から発見された.
 試料の処理と検討は以下の手順で行った.酸処理を施した生痕の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した後,内部構造を観察すると共に珪質微化石の個体数をカウントした.また,保存状態と種組成を比較するため,生痕の酸処理の過程で得られた残渣と大久保泥岩部層の泥岩4試料から得られた残渣からそれぞれ100個体を目安に放散虫化石を拾い上げ,電顕で撮影し,種レベルで同定した.試料間の総個体数の違いを補正するため,種毎の個体数から相対産出頻度を求め,定足率充足法(Alroy,2010)による種豊富度の比較を行った.
 観察の結果,Tasseliaの内部構造の部位毎で珪質微化石の分布に違いが認められた.放散虫と珪藻化石はIFやOFに取り囲まれた母岩部分から多産する一方,OFからの産出は少ない.特に,珪藻化石はOFに取り囲まれた母岩部分に密集部が観察された.生痕の残渣からは微細構造が良く保存された16属28種の放散虫化石が産出した.一方,泥岩4試料からは,それぞれ7属7種,9属12種,10属11種,13属15種の放散虫化石が産出した.定足率充足法による解析の結果,サンプルサイズ効果を補正したとしても,生痕から産出した微化石群集の種豊富度が泥岩試料に比べて高いことが分かった.
 生痕内部における珪質微化石の分布の偏りは,堆積物の充填様式の違いに起因する可能性がある.微化石が多産したIFは海底面上の堆積物が構造内部に受動的に充填されたと考えられている(Olivero and López Cabrera,2010).一方,OFは形成者が排泄によって積極的に充填した堆積物と考えられる.すなわち,OFに取り囲まれた母岩部分とIFは,形成者による堆積物食行動を受けていない当時の海底面付近の堆積物と解釈できる.これら保存良好な微化石を含む部位は,OFがコンクリーション化することで続成作用に伴う破壊や溶解から保護され,オリジナルの種構成を保持したまま化石化した可能性が高い.これらを考慮すると,Tasselia内部と外部の泥岩試料に含まれる微化石の保存状態や種豊富度の違いは,生痕部がコンクリーション化したことによる保存ポテンシャルの上昇という点から説明できる.一般に,砕屑岩に含まれる珪質微化石の保存状態は,埋没続成作用によって悪化すると考えられ,陸上地質体の堆積年代や層序の検討に際して可能な限り保存良好な微化石を抽出することが求められてきた.本研究における結果を考慮すると,放散虫化石の検討を行う際には,母岩に比べて明らかに続成作用の影響を受けていない生痕化石起源の石灰質コンクリーションを試料として用いることがより望ましいことが判明した.

引用
Alroy, J.,2010,in Alroy,J. and Hunt,G.,eds.,Quantitative Methods in Paleobiology,55‒80,The Paleontological Society,Boulder.
芳賀・小竹,1996,地質雑, 102,758-760.
Olivero E.B. and López Cabrera,M.I.,2010,Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol.,292,336‒348.