4:00 PM - 6:30 PM
[R15-P-4] (entry) Morphologic difference between calcareous nannofossils Genus Dictyococcites and Reticulofenestra group and its meaning
Keywords:Calcareous nannofossil, Morphology, Microfossil
新生代を通して最も普遍的に産出する石灰質ナノ化石Reticulofenestra属と,それに近縁な分類群であるDictyococcites属は,短冊形の方解石結晶からなる微小なエレメントが楕円上に配列した円盤2枚を重ねた構造を持っている.両者の円盤の中央部には中央開口部という穴があり,Dictyococcites属はその穴を覆う方解石の構造物をもつ点でReticulofenestra属と区別される.ただし,この構造物はReticulofenestra属の円盤に方解石結晶の装飾が付加したものという考えもあり(Bown and Young, 1997),同じ属として扱われることもある.実際,新第三系で見られる両者の円盤の大きさや形は非常に似ていることが,計測結果から明らかにされている(Henderiks, 2008).一方,古第三系,特に始新統で産出する両者の形状は近いものの,大きさにやや違いが見られることがわかっており,この時代の両者の関係性は良く分かっていない.これに対し,筆者らは始新統のReticulofenestraグループ(Reticulofenestra属とその近縁種)の形態を調べ,中央開口部の形状が両者では明確に異なる可能性が高いことを明らかにしたので,その結果を報告する.
本研究ではインド洋,南大西洋で実施された国際深海掘削計画(Leg 115,208)の深海底コアを用いて,Dictyococcites属が多産する上部始新統を重点的に検討した.一層準につきDictyococcites属50個体を電子顕微鏡で無作為抽出して,観察および撮影を行った後,画像解析ソフトImageJで円盤の外形と中央開口部について楕円解析(長軸,短軸の計測)を行い,その形状を示す指標として扁平率も算出した.また,比較対象として同時に産出するDictyococcites属以外のReticulofenestraグループ50個体にも同様の計測を行った.
本研究の結果に基づくと,Dictyococcites属のサイズ分布は同時期のReticulofenestraグループが小さいものから超大型の個体まで様々であるのに対し,比較的大型のものに偏っていたが,その扁平率はほぼ同一である.一方で,Dictyococcites属の中央開口部の長軸の長さは3–5 µmでほぼ一定であったが,Reticulofenestraグループは2–7 µmと幅広い値を示した.また,中央開口部の扁平率はDictyococcites属の方が比較的大きい傾向にある.しかし,両者が最も大きく異なる点は円盤の大きさと中央開口部の大きさとの関係であり,Dictyococcites属の中央開口部は,その円盤の大きさに関わらずほぼ一定であった.一方で,この時のReticulofenestraグループは円盤の大きさと中央開口部の大きさがほぼ比例的に分布していた.これらのデータを踏まえると,Dictyococcites属の中央開口部の形状はどのような個体も近いものになることが示唆される.この結果はインド洋や大西洋でほぼ同じであって,海域ごとの違いはあまり見られなかった.
従って,少なくとも後期漸新世におけるDictyococcites属は同時代のReticulofenestraグループとは中央開口部の形状が異なっていることは明らかで,石灰質殻,すなわちココリスの形成は中央開口部における結晶配列から始まると考えられていることを考慮すると,両属の結晶化プロセスは明らかに異なっている.これはこの時代における両者が明確に異なる分類群であることを示す根拠となり得る.今後はDictyococcites属が存在していた時代全域に研究対象を広め,その形態的特徴に変化があるのか明らかにする必要がある.
引用文献
Bown, P. R., and Young, J. R., 1997. Proposals for a revised classification system for calcareous nannoplankton. Journal of Nannoplankton Research, 19(1), 15-47.
Henderiks, J., 2008. Coccolithophore size rules—reconstructing ancient cell geometry and cellular calcite quota from fossil coccoliths. Marine micropaleontology, 67(1-2), 143-154.
本研究ではインド洋,南大西洋で実施された国際深海掘削計画(Leg 115,208)の深海底コアを用いて,Dictyococcites属が多産する上部始新統を重点的に検討した.一層準につきDictyococcites属50個体を電子顕微鏡で無作為抽出して,観察および撮影を行った後,画像解析ソフトImageJで円盤の外形と中央開口部について楕円解析(長軸,短軸の計測)を行い,その形状を示す指標として扁平率も算出した.また,比較対象として同時に産出するDictyococcites属以外のReticulofenestraグループ50個体にも同様の計測を行った.
本研究の結果に基づくと,Dictyococcites属のサイズ分布は同時期のReticulofenestraグループが小さいものから超大型の個体まで様々であるのに対し,比較的大型のものに偏っていたが,その扁平率はほぼ同一である.一方で,Dictyococcites属の中央開口部の長軸の長さは3–5 µmでほぼ一定であったが,Reticulofenestraグループは2–7 µmと幅広い値を示した.また,中央開口部の扁平率はDictyococcites属の方が比較的大きい傾向にある.しかし,両者が最も大きく異なる点は円盤の大きさと中央開口部の大きさとの関係であり,Dictyococcites属の中央開口部は,その円盤の大きさに関わらずほぼ一定であった.一方で,この時のReticulofenestraグループは円盤の大きさと中央開口部の大きさがほぼ比例的に分布していた.これらのデータを踏まえると,Dictyococcites属の中央開口部の形状はどのような個体も近いものになることが示唆される.この結果はインド洋や大西洋でほぼ同じであって,海域ごとの違いはあまり見られなかった.
従って,少なくとも後期漸新世におけるDictyococcites属は同時代のReticulofenestraグループとは中央開口部の形状が異なっていることは明らかで,石灰質殻,すなわちココリスの形成は中央開口部における結晶配列から始まると考えられていることを考慮すると,両属の結晶化プロセスは明らかに異なっている.これはこの時代における両者が明確に異なる分類群であることを示す根拠となり得る.今後はDictyococcites属が存在していた時代全域に研究対象を広め,その形態的特徴に変化があるのか明らかにする必要がある.
引用文献
Bown, P. R., and Young, J. R., 1997. Proposals for a revised classification system for calcareous nannoplankton. Journal of Nannoplankton Research, 19(1), 15-47.
Henderiks, J., 2008. Coccolithophore size rules—reconstructing ancient cell geometry and cellular calcite quota from fossil coccoliths. Marine micropaleontology, 67(1-2), 143-154.