日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R16[レギュラー]ジュラ系+

[3poster62-65] R16[レギュラー]ジュラ系+

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R16-P-4] 福井県大野市和泉地区に分布する中部ジュラ系九頭竜層群貝皿層中のウミユリを含む浅海棲無脊椎動物化石群集とその産状

原田 一輝1、高津 琴博2、*佐野 晋一3 (1. 富山大学理学部地球科学科、2. 大野地球科学研究会、3. 富山大学都市デザイン学部地球システム科学科)

キーワード:中部ジュラ系、九頭竜層群、ウミユリ、二枚貝、福井県

福井県大野市九頭竜地区に分布する,中部ジュラ系九頭竜層群貝皿層からは多様なアンモノイドを産し,バトニアン~カロビアンのアンモノイド群集帯が設定されている(Sato and Westermann, 1991).九頭竜地区下山地域には,貝皿層の主要な岩相である暗灰色頁岩層のほかに,ウミユリや二枚貝などの無脊椎動物化石を多産する粗粒砂岩層が分布するが,その層序学的・古生物学的検討は十分には行われていなかった.今回,大野地球科学研究会によって採集・保管されていた,ウミユリや二枚貝などの無脊椎動物化石の分類学的検討を行うとともに,粗粒砂岩の堆積環境に着目して現地調査を実施した結果,化石を多産する粗粒砂岩部は貝皿層の一部で,ウミユリなどが生息する浅海域に一度堆積した粗粒砂が, 何らかのイベントによって, より低エネルギーの陸棚環境へと運搬され, 再堆積してできたと考えられることがわかったので,予察的に報告する.
 本地域の貝皿層は主に暗灰色頁岩からなるが,まれに粗粒砂岩部を挟在する.粗粒砂岩部は,様々な形状の頁岩の同時礫を含む層(厚さ約3m)のほか,礫状の砂岩部と頁岩部が混在した層(厚さ約8m)をなすものがある.粗粒砂岩部にはウミユリや内在性二枚貝,腕足類などの化石をしばしば産するが,これらの化石は頁岩部には見出されない.これらのことから,ウミユリや二枚貝は頁岩の堆積場に生息していたのではなく,元来はより浅海の粗粒砂が堆積する環境に生息していたものが,砂とともに,より深い,頁岩が堆積する環境(陸棚)へと運搬され,再堆積したものだと考えられる.なお,鹿澤ほか(2016)は,貝皿層上部に,三角貝Myophorellaなどの二枚貝化石を含む,側方への連続性が悪い礫岩層の存在を報告し,その堆積機構に関して同様の解釈を行っている.
 今回検討した化石標本は, 貝皿層の粗粒砂岩部から採集されたゴカクウミユリ類の骨片73点, アンモノイド類1点, 二枚貝類53点で,全て殻は溶解しており,雌型として産する.ゴカクウミユリには2種あり,それぞれSeirocrinus sp.とIsocrinus (Isocrinus) sp.に同定された. 両属とも,日本からの産出記録は既に存在するが,中部ジュラ系からは初めての記録となる.アンモノイドは,貝皿層の頁岩層中 に多産するPseudoneuqueniceras yokoyamai に同定され,粗粒砂岩部が貝皿層に対比されるという解釈を支持する.二枚貝は離弁で,しばしば破片化しているが,Palaeonucula makitoensisMesosaccella morrisi,Myophorella sugayensis,Fimbria somensisが予察的に同定された.My. sugayensisやF. somensisは南部北上地域の相馬中村層群山上層との共通要素である点で注目される.
 貝皿層における浅海棲化石群集の発見は,貝皿層の堆積場や堆積環境についての新たな知見をもたらすばかりでなく,日本では稀な,中期ジュラ紀の浅海棲無脊椎動物相の存在を示すもので,更なる分類学的・古生物地理学的な検討が期待される.

(謝辞)
 野外調査実施にあたり,令和2年度深田野外調査助成の支援を受けた.大野地球科学研究会には収蔵標本を研究に利用させていただくとともに,採集時の未公表調査資料を提供していただいた.アンモノイドの同定や野外調査実施にあたり,中田健太郎博士,酒井佑輔氏,海野 奏氏の協力を得た.これらの方々に心より感謝申し上げる.

(文献)
Sato, T. and Westermann, G. E. G., 1991. Newsletters on Stratigraphy, 24, 81-108.
鹿澤優祐・半田直人・酒井佑輔・松岡 篤, 2016. 日本地質学会学術大会講演要旨, 539.