9:00 AM - 9:15 AM
[T4-O-1] Quantitative estimate of sulfate and trace metal ion contents of paleoseawater from in-situ analyses of sulfur isotopes and trace metal elements of sulfide minerals: Application to the Ediacaran seawater
Keywords:Ediacaran, paleo-seawater composition, sulfide minerals, biological evolution
エディアカラ紀からカンブリア紀前期は、生命進化と表層環境の両方において劇的変化の時代とされる。生命進化においてはこの時代に多細胞動物の出現と多様化が起きたことが知られており、一方、表層環境においては、海水の酸化還元度が急激に変化したとされる。このような海水の酸化還元度の変化に伴い、特に、Mo等の酸化還元度に鋭敏な元素の海水中の含有量も劇的に変化したことが期待されるが、いまなお当時の海水中の酸化還元鋭敏元素含有量には不確定性が大きい。その原因として、これまでの研究の多くが海洋組成とは直接結びついているとは限らない堆積岩の全岩組成から海洋組成を推定していることにある。堆積岩中の微量元素組成は微量元素を含むホスト鉱物の組成のみならず、マトリックス鉱物の組成や量にも依存する。さらに、多くの場合全岩の微量元素濃度は2〜3桁ほどのばらつきを持つため、定量性に欠けるといった問題もある。そこで、本研究ではMo, Niなどに富む硫化鉱物の局所分析から、海洋組成を推定する手法を開発し、それをエディアカラ紀の海洋組成推定に適用した。特に、本研究では、海洋中の硫酸濃度やV, Co, Ni, Cu, Zn, Se, Mo, Ba, Pb, Mo, Ni等の金属元素濃度に着目した。
一般に硫化鉱物は還元的な水塊から形成される。そのため、従来の研究では硫化鉱物を用いた海水組成の推定法は還元的な海洋に限定されるとみなされてきた。しかし、適用範囲が還元的な水塊に限定されてしまうならば、水塊中の微量元素濃度も自ずと制約されてしまうため、水塊の化学組成を推定する意義も乏しくなる。そこで、酸化還元程度の広い範囲で適用可能な手法を開発することが重要となる。
本研究では硫化鉱物の局所イオウ同位体分析と局所金属微量元素分析を組み合わせた手法を用いて、海洋中の硫酸イオン濃度と金属元素濃度を推定する手法を開発した。また、この際に海水中で生じた硫化鉱物か、間隙水中で生じた硫化鉱物かを判定するために、硫化物の形態に着目した。ただし、最近の研究ではフランボイダル硫化物も間隙水中で形成されるとの報告例があるので、単純にフランボイダル硫化鉱物なら海水中で形成されたと画一的にみなすことはしない。加えて、一般にフランボイダル硫化鉱物は微小であるため、微量元素組成を分析することが難しい。そのため、本研究では浅部堆積物の間隙水中で生じたと考えられる硫化鉱物に着目した。
硫化鉱物の硫黄同位体比はJAMSTECの高知コアセンターのSIMSを用いて定量し、一方Mo, Ni, Coなどの微量元素は東京大学地殻化学実験施設のLA-ICP-MSを用いて測定した。硫化鉱物のδ34S値は-22.93から51.93‰の範囲であり、MoとNi含有量はそれぞれ0.1から2211ppmと0.1から647ppmの範囲で大きくばらついた。このような大きなばらつきは、間隙水のような閉鎖系で硫化鉱物が生じるときのイオウ同位体や微量元素のレイリー分別によると考えられる。一方、フランボイダル硫化物のδ34S値は-23‰で、本研究で分析した硫化物で最小の値となった。この時代の海洋中の硫酸のδ34S値は約+20‰なので、およそ40‰の同位体分別が存在する。また、δ34S値とMoやNi含有量の間には負の相関がみられた。
硫化鉱物は硫酸還元バクテリアによって硫酸から形成されたものとされる。そして、硫化鉱物中のイオウ同位体値は、硫酸と硫化鉱物の間での硫酸濃度に依存したイオウ同位体分別によって決まり、硫化鉱物中の微量金属元素は硫化鉱物と水塊との間の分配係数に依存して含有量が決まる。そこで、硫化鉱物が、初期には海水に対して開放系で、その後閉鎖した間隙水中で形成され、硫化鉱物のδ34S値とMoやNi含有量が、形成した硫化鉱物が系から除去されるとしたレイリー分別によって制御されていると仮定して、硫化鉱物のイオウ同位体とMo・Ni含有量の組成の変化を計算した。そして、その計算結果をイオウ同位体値とMoやNi含有量との間で見られる負の相関と対比し、海水中の硫酸、Mo、Ni含有量を計算した。 海水と平衡に形成した硫化物のイオウ同位体値が本研究で得られた最小のイオウ同位体値をもつフランボイダル硫化物のイオウ同位体、-20‰であると仮定すると、海水の硫酸濃度は現在の300分の1程度、MoやNi濃度はそれぞれ現在の1/2と現在程度であったと推定される。得られた硫酸濃度は従来の研究に比べると低く、MoやNi濃度は高かった。この手法で海洋中のMoやNi濃度を推定した場合、現在値の半分程度の違いでも大きく、イオウ同位体値とMoやNi濃度の相関からずれるため、非常に厳密に海洋中の微量元素濃度を定量できることが分かった。
一般に硫化鉱物は還元的な水塊から形成される。そのため、従来の研究では硫化鉱物を用いた海水組成の推定法は還元的な海洋に限定されるとみなされてきた。しかし、適用範囲が還元的な水塊に限定されてしまうならば、水塊中の微量元素濃度も自ずと制約されてしまうため、水塊の化学組成を推定する意義も乏しくなる。そこで、酸化還元程度の広い範囲で適用可能な手法を開発することが重要となる。
本研究では硫化鉱物の局所イオウ同位体分析と局所金属微量元素分析を組み合わせた手法を用いて、海洋中の硫酸イオン濃度と金属元素濃度を推定する手法を開発した。また、この際に海水中で生じた硫化鉱物か、間隙水中で生じた硫化鉱物かを判定するために、硫化物の形態に着目した。ただし、最近の研究ではフランボイダル硫化物も間隙水中で形成されるとの報告例があるので、単純にフランボイダル硫化鉱物なら海水中で形成されたと画一的にみなすことはしない。加えて、一般にフランボイダル硫化鉱物は微小であるため、微量元素組成を分析することが難しい。そのため、本研究では浅部堆積物の間隙水中で生じたと考えられる硫化鉱物に着目した。
硫化鉱物の硫黄同位体比はJAMSTECの高知コアセンターのSIMSを用いて定量し、一方Mo, Ni, Coなどの微量元素は東京大学地殻化学実験施設のLA-ICP-MSを用いて測定した。硫化鉱物のδ34S値は-22.93から51.93‰の範囲であり、MoとNi含有量はそれぞれ0.1から2211ppmと0.1から647ppmの範囲で大きくばらついた。このような大きなばらつきは、間隙水のような閉鎖系で硫化鉱物が生じるときのイオウ同位体や微量元素のレイリー分別によると考えられる。一方、フランボイダル硫化物のδ34S値は-23‰で、本研究で分析した硫化物で最小の値となった。この時代の海洋中の硫酸のδ34S値は約+20‰なので、およそ40‰の同位体分別が存在する。また、δ34S値とMoやNi含有量の間には負の相関がみられた。
硫化鉱物は硫酸還元バクテリアによって硫酸から形成されたものとされる。そして、硫化鉱物中のイオウ同位体値は、硫酸と硫化鉱物の間での硫酸濃度に依存したイオウ同位体分別によって決まり、硫化鉱物中の微量金属元素は硫化鉱物と水塊との間の分配係数に依存して含有量が決まる。そこで、硫化鉱物が、初期には海水に対して開放系で、その後閉鎖した間隙水中で形成され、硫化鉱物のδ34S値とMoやNi含有量が、形成した硫化鉱物が系から除去されるとしたレイリー分別によって制御されていると仮定して、硫化鉱物のイオウ同位体とMo・Ni含有量の組成の変化を計算した。そして、その計算結果をイオウ同位体値とMoやNi含有量との間で見られる負の相関と対比し、海水中の硫酸、Mo、Ni含有量を計算した。 海水と平衡に形成した硫化物のイオウ同位体値が本研究で得られた最小のイオウ同位体値をもつフランボイダル硫化物のイオウ同位体、-20‰であると仮定すると、海水の硫酸濃度は現在の300分の1程度、MoやNi濃度はそれぞれ現在の1/2と現在程度であったと推定される。得られた硫酸濃度は従来の研究に比べると低く、MoやNi濃度は高かった。この手法で海洋中のMoやNi濃度を推定した場合、現在値の半分程度の違いでも大きく、イオウ同位体値とMoやNi濃度の相関からずれるため、非常に厳密に海洋中の微量元素濃度を定量できることが分かった。