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[T4-O-2] 西オーストラリア・タンビアナ累層(27億年前)のストロマトライトの堆積環境と後期太古代表層水のリン濃度
キーワード:太古代、ストロマトライト、タンビアナ累層、リン
リンは生命必須元素であり、地質学的な時間スケールで第一次生産を律速している。太古の海洋におけるリン濃度はBIFの化学組成やモデル計算に基づく研究1から推定がなされており、多くの研究はリンの枯渇を支持する。しかしながら以上の研究で前提となる鉄によるリンのスキャベンジの度合いは、Si,Mg,Caといった海洋の主成分溶存イオンによる影響を強く受けるため、そうした推定には大きな不確定性が残る。 西オーストラリア、ピルバラ地塊には太古代の堆積岩が比較的低変成度で保存されており、なかでもフォーテスキュー層群タンビアナ累層には27億年前に形成されたとされるストロマトライトが産出する。タンビアナ累層の堆積場はいまだ議論が存在し、堆積層序の観点から干潟~浅海であったことや2、ストロマトライトのREEパターンが平滑であることなどから外洋から隔離された湖であったことが3示唆されている。 そこで本研究では、タンビアナ累層のストロマトライトを用いて堆積環境を決定し、太古代の表層水におけるリン濃度を推定することを目的とする。一般に周囲と平衡を保って晶出した炭酸塩鉱物は水圏の化学組成を保持している。ストロマトライトのように砕屑性粒子を多く含む炭酸塩岩を対象とする場合、全岩分析では砕屑性粒子やセメントの影響を除去し炭酸塩鉱物のみの化学組成を得ることは難しい。そこで本研究は炭酸塩鉱物の局所化学分析を行った。初生的な堆積構造を保持したストロマトライト試料を肉眼鑑定や顕微鏡観察によって選別し、作成した薄片4枚と厚片2枚を用いてEPMA、LA-ICP-MS/MSによって炭酸塩鉱物の微量元素を測定した。 PAASで規格化した炭酸塩鉱物のREEパターンは層序を通じてLaの正異常を示し、全岩分析による先行研究3とは異なる結果が得られた。また、Meentheena部層の最下部では酸化的な指標であるCeの小さい負異常(平均~0.90)、海水の指標である高いY/Ho比(34~44)がみられた。Mn濃度は層序を通じて高く(1~2wt%),特に最下部のCeの負異常がみられた層序で高い傾向にあった。以上のことから、タンビアナ累層は少なくともMeentheena部層の基底の層序堆積時には外洋と接する環境であったことが示唆され、Mnが溶存しながらも,Ceの沈殿が起きる酸化還元状態であることが分かった。 タンビアナ累層のストロマトライトの炭酸塩鉱物中のリン濃度は平均して30ppm程度であり、先行研究4から得られているカンブリア紀の浅海性ウーイドの値と一致する。そのような高いリン濃度は従来提唱されてきた太古代の海洋におけるリンの枯渇とは異なり、タンビアナ累層堆積時に栄養塩の供給が十分にあったことを示唆する。 1. Reinhard, C. T. et al. Nature 541, 386–389 (2017). 2. Sakurai, R. et al. Precambrian Research 138, 255–273 (2005). 3. Bolhar, R. & van Kranendonk, M. J. Precambrian Research 155, 229–250 (2007). 4. Shimura, T. et al. Gondwana Research 25, 1090–1107 (2014).