129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T4.[Topic Session]History of the Earth

[1oral101-10] T4.[Topic Session]History of the Earth

Sun. Sep 4, 2022 9:00 AM - 12:00 PM oral room 2 (Build. 14, 101)

Chiar:Yuki Tomimatsu, Honami Sato, Shun Muto

9:30 AM - 9:45 AM

[T4-O-3] Chemotaxonomic studies on acritarchs in sedimentary rocks of the Mesoproterozoic Qaanaaq Formation in northwestern Greenland.

*Takuto Ando1, Yuki Hara2, Yoshikazu Sampei3, Ken Sawada2 (1. Estuary Research Center, Shimane University, 2. Faculty of Science, Hokkaido University, 3. Interdisciplinary Faculty of Science and Engineering, Shimane University)

Keywords:Mesoproterozoic, acritarch, FT-IR, Chemotaxonomy

中原生代は,原生生物のスーパーグループが分岐した真核生物進化の黎明期であり,多くの地層からアクリタークが産出している。これまで,アクリタークの起源は形態学的に推定されており,渦鞭毛藻のシストやプラシノ藻のファイコーマなどの難分解性(抵抗性)高分子で構成された殻もしくは膜組織に由来すると考えられてきた。一方で,Leiosphaeridiaをはじめとする中原生代アクリタークは,新原生代~古生代における種と比べて形態的特徴に乏しく,むしろ現世~近過去の堆積物からしか産出されない比較的分解されやすいセルロースやキチンを主成分とした有機質殻・膜組織と酷似している。セルロースなどの多糖類や糖タンパクの多くは,堆積物極表層や水塊中での初期続成過程において,セルラーゼやキチナーゼを持つバクテリアなどによって生物分解される。一方,セルロースやキチンは堆積岩中の熱熟成では失われにくい。細胞壁としてセルロースを多く合成する維管束植物が陸上で繁茂するデボン紀以前の表層堆積物中には,セルラーゼを持つバクテリアは少なかったと予想される。したがって,原生代の表層堆積物中では初期続成変化が起きにくかった可能性があり,現在では易分解性高分子も維持されている可能性がある。原生代アクリタークの分光学分析は,主にFT-IRが用いられてきた。高分子組成を用いて化学的に分類する手法を化学分類とよび,特に形態的特徴に乏しい微化石には有効である。化学分類を行なうためには,現生種パリノモルフから得られたスペクトルを含めた解釈と続成過程における高分子構造の変化を理解する必要がある。近年,ATR(全反射測定)法を用いた分析により,膜構造の極表面の高分子分析が可能になった。原生界試料中のアクリタークは圧密により扁平になっているため,ATR分析のような接触分析には最適な試料である。本研究では,中原生界堆積岩から産出するアクリタークについて,顕微ATR-FTIR分析と統計学的な解析を行なうことによって化学分類を試みた。
試料は,2018年および2019年の7~8月に調査・採取されたグリーンランド北西部に分布する中原生界Qaanaaq層の暗灰色頁岩を用いた。酸処理によって分離したケロジェン中から単離したパリノモルフを顕微ATR-FTIRで分析した。また,セルロース,キチン,グルテンの標準試薬を真空熱分解することによって,生体抵抗性高分子の続成過程について検討した。
本試料は,熟成続成指標(Tmax,MPI)から130~180℃の熱熟成を受けたと推定されるが,実際にアクリタークの赤外スペクトルも1600cm-1付近のC=C結合のピークが特徴的であり,熱熟成が進んでいることが示唆される。赤外スペクトルの950-1800cm-1の指紋領域についてクラスター解析を行なった結果,測定したアクリタークを4つのグループに分類できた。特に,試料中に多産するSynsphaeridium Leiosphaeridiaは異なるグループに分けられた。Group Iは糖鎖のC-O-C結合のピークが明瞭でSynsphaeridiumが多く含まれた。この赤外スペクトルの傾向は現生種のシアノバクテリア Lyngbya遺骸や窒素固定型シアノバクテリアのアキネートのスペクトルと類似していた。一方で,Group IIはC-H結合およびC=O結合のピークが相対的に高く,現生種ではアルジナン骨格からなる緑藻Pediastrumの遺骸と共通点がみられた。これらの結果は,SynsphaeridiumLeiosphaeridiaがそれぞれシアノバクテリアと緑藻に由来するとする形態的な分類とも合致する。また,Group III/IVのアクリタークはフラン環のC-O-C結合が顕著であり,他のグループより続成作用を受けた可能性が高い。標準試薬の熱分解実験(30時間程度の真空下での低温加熱)では,400℃以上の熱を受けると芳香族化が進み,セルロース,キチン,グルテンは全てC=C結合のピークが顕著になった。また,グルテンに比べて糖鎖が多いセルロースとキチンはC=O結合とフラン環のC-O-C結合が多く,セルロースでは特に顕著であった。Group IVのスペクトルは400℃以上の高温で熱熟成させたセルロースのスペクトルと最も類似していた。セルロース様の成分が残っていることから,中原生代は現代よりセルラーゼによる生物分解が乏しい可能性が高い。そのように,生物遺骸の保存性が高い環境であったとすれば,アクリターク中の高分子も化学分類に重要な情報を保持しているかもしれない。今後,同手法を用いてより多くのアクリタークの高分子データを得ることで,アクリタークの起源生物の理解が深まると期待される。