日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T4.[トピック]地球史

[1oral101-10] T4.[トピック]地球史

2022年9月4日(日) 09:00 〜 12:00 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:冨松 由希(九州大学)、佐藤 峰南(九州大学)、武藤 俊(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

09:45 〜 10:00

[T4-O-4] 東北日本ジュラ紀付加体中の遠洋深海堆積岩層における石炭紀-ペルム紀境界

*武藤 俊1、高橋 聡2、村山 雅史3,4 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、2. 名古屋大学環境学研究科地球環境科学専攻、3. 高知大学農林海洋科学部、4. 高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:北部北上帯、コノドント、国際標準模式層断面および地点、パンサラッサ

石炭紀-ペルム紀境界はカザフスタンのアクトベ地方に国際標準模式層断面および地点(GSSP)が定められており,コノドントStreptognathodus isolatusの初産出により定義されている[1].隣接するウラル地域や,北米[2],南中国[3]などからS. isolatusを含むコノドントの進化的系統が再現され,イラン[4],北極圏[5],南米[6]などでも境界の層序が研究されている.日本列島では石炭紀-ペルム紀境界を含む地層として,秋吉帯の石灰岩,南部北上帯の堆積岩類,ジュラ紀付加体中に含まれる遠洋深海堆積岩がある.このうちジュラ紀付加体中の遠洋深海堆積岩は研究の空白域であるパンサラッサ遠洋域で堆積したものであり,この地質年代境界の広域的な対比を確立する上で重要である.
石炭紀-ペルム紀境界を含む遠洋深海堆積岩層として,丹波帯[7]および北部北上帯[8]のチャートを主体とする珪質岩セクションが報告されている.後者では,後期石炭紀Moscovianから前期ペルム紀SakmarianまたはArtinskianに至る年代を示すコノドント化石が報告されているが,化石の図示はわずかである.本研究では,永広ほか(2008)[8]の検討セクションからより詳細なコノドント生層序のデータを提供し,石炭紀-ペルム紀境界の位置を検討する.コノドントを得る方法としてフッ化水素酸処理に加え,岩石剥離面の観察とマイクロフォーカスX線CTによる撮影[9]を行なった.
検討した大越沢セクションは岩手県岩泉町大越沢沿いの林道に位置する.また,大越沢セクションの側方延長にあたる,岩泉町大鳥付近の層序も比較として検討した(大鳥セクション).大越沢セクションでは,下位から順に緑灰色チャートと苦灰岩の互層,緑色珪質粘土岩,赤色珪質粘土岩およびチャート,灰色層状チャートの順に累重する.最下位の緑灰色チャートからは後期石炭紀Moscovianを示すMesogondolella clarkiなどが,緑色珪質粘土岩からは後期石炭紀Gzhelian前期を示すStreptognathodus vitaliなど産した.その上位の赤色珪質粘土岩からはGzhelian末期を示すStreptognathodus bellusなどが得られた.最上位の灰色層状チャートからは前期ペルム紀Artinskianを示すMesogondolella intermediaなどが得られた.これらのコノドントは永広ほか (2008)[8]では図示されなかった種を含むが,年代の解釈は一致しており,大越沢セクションの石炭紀-ペルム紀境界は赤色珪質粘土岩およびチャートからなる層序区間に位置することが示された.
大鳥セクションは大越沢セクションとはスラストシートの異なる側方延長に相当し,ほぼ同じ組み合わせと累重関係の岩相からなる.大鳥セクションでは石炭紀-ペルム紀境界付近のコノドントの産出が悪いが,最下部の緑灰色チャートからGzhelianのコノドントが産し,赤色珪質粘土岩からは前期ペルム紀のSakmarian後期からKungurian後期を示すコノドントを得た.すなわち,赤色珪質粘土岩の上限が大越沢セクションよりも若く,岩相が側方変化している.さらに,大越沢と大鳥の両セクションで見られる緑色および赤色珪質粘土岩は,丹波帯のセクションでは存在せず[7],石炭紀-ペルム紀境界付近の遠洋深海堆積岩の岩相変化についてはさらなる検討が必要である.
[1] Davydov, V.I. et al. (1998). Episodes, 21, 11-18.
[2] Boardman, D.R. et al. (2009). Kansas Geol. Surv. Bull., 255.
[3] Wang, Z. and Qi, Y. (2003). Riv. Ita. Paleontol. Strat., 109, 379–397.
[4] Leven, E.J. & Gorgij, M.N. (2011) Stratigraph. Geolog.l Corr., 19, 687–776.
[5] Anisimov, R.M. et al. (1998) Permophiles, 32 32–37.
[6] Suárez-Riglos, M. (1987) In: Austin, R. L. (Eds) Conodonts: Investigative Techniques and Applications, 317–325.
[7] 楠利夫 ほか (2004) 地球科学, 58, 37–54.
[8] 永広昌之 ほか (2008) 地雑114補遺,121–139.
[9] Muto, S. et al. (2021) Lethaia, 54, 687–699.