11:15 〜 11:30
[T4-O-8] イタリア南部の後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界における強親鉄性元素およびオスミウム同位体比変動
キーワード:ノーリアン/レーティアン境界、強親鉄性元素、生物絶滅
後期三畳紀は,三畳紀末の生物大量絶滅に先行して段階的に生物絶滅が起こったことが知られている(Hallam, 2002, Lethaia, 35, 147-157).特に後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界では,放散虫やコノドント,アンモナイトなどの遠洋性生物の絶滅が報告されている(e.g., Lucas and Tanner, 2018, The Late Triassic World, 721-785; Rigo et al., 2020, Earth-Sci. Rev., 204, 103180).後期三畳紀に活動したAngayucham洪水玄武岩の大規模噴火イベントや,Rochechouartクレーター(現在の直径23 km,形成時の直径40–50 km; Lambert, 2010, Geol. Soc. Am. Spec. Pap., 465, 509541)を形成した天体衝突イベントなどが,遠洋性生物の絶滅を誘発した可能性が指摘されているものの,各イベントの前後関係を示す地球化学データは未だ乏しい.
イタリア南部ブリエンツァ地域に分布するSasso di Castaldaセクションは,コノドント化石群集の検討からMockina serrulata帯〜Misikella posthernsteini帯に対比されており(Rigo et al., 2018, The Late Triassic World, 189-235),ノーリアン後期に堆積した石灰岩から構成される下部層から,ノーリアン最後期〜レーティアン前期の放散虫チャート層からなる上部層に至るまで,テチス海西部の半遠洋性堆積物が連続的に露出している.そこで本研究では,Sasso di Castaldaセクション全体を通して採取された頁岩の主要・微量・強親鉄性元素濃度およびオスミウム同位体比(187Os/188Os)分析により,テチス海西部におけるノーリアン/レーティアン境界の海洋環境変動を高時間解像度で復元し,その変動要因を明らかにすることを目的とした.
分析結果は,下部層から上部層にかけて砕屑成分の供給源となる後背地の化学組成に大きな変動がないことを示しているが,ノーリアン/レーティアン境界より約4 m下位の層準にオスミウム,イリジウム,白金の異常濃集が認められた(前後層準のおよそ100倍).また,クロムおよびイリジウム濃度に着目すると,セクション全体ではCr/Ir比は大陸地殻やマントル物質のCr/Ir比と同程度の高い値(~106)をとるのに対し,白金族元素濃集層ではCr/Ir比は ~2×105と1桁低い値を示すことが明らかとなった.
白金族元素濃集層の低いCr/Ir比は,後期三畳紀に形成されたManicouaganクレーター起源のイジェクタ層およびRochechouartクレーター内のインパクトメルト岩と同程度の値を示し(Sato et al., 2016, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 442, 36-47; Tagle et al., 2009, Geochim. Cosmochim. Acta, 73, 4891-4906),地球外物質の混入を示唆している.特異層の堆積年代は,ノーリアン/レーティアン境界(205.7 Ma; Maron et al., 2019, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 517, 52-73)より下部のノーリアン最後期に相当することから,Rochechouartクレーター(206.92 ± 0.32 Ma; Cohen et al., 2017, Meteorit. Planet. Sci., 52, 1600-1611)起源のインパクトメルトに由来する可能性が高い.したがって本研究は,Rochechouartクレーターを形成した天体衝突がノーリアン/レーティアン境界直前に生じたイベントであったことを支持するが,境界における生物絶滅との因果関係については今後さらなる検討が必要である.
イタリア南部ブリエンツァ地域に分布するSasso di Castaldaセクションは,コノドント化石群集の検討からMockina serrulata帯〜Misikella posthernsteini帯に対比されており(Rigo et al., 2018, The Late Triassic World, 189-235),ノーリアン後期に堆積した石灰岩から構成される下部層から,ノーリアン最後期〜レーティアン前期の放散虫チャート層からなる上部層に至るまで,テチス海西部の半遠洋性堆積物が連続的に露出している.そこで本研究では,Sasso di Castaldaセクション全体を通して採取された頁岩の主要・微量・強親鉄性元素濃度およびオスミウム同位体比(187Os/188Os)分析により,テチス海西部におけるノーリアン/レーティアン境界の海洋環境変動を高時間解像度で復元し,その変動要因を明らかにすることを目的とした.
分析結果は,下部層から上部層にかけて砕屑成分の供給源となる後背地の化学組成に大きな変動がないことを示しているが,ノーリアン/レーティアン境界より約4 m下位の層準にオスミウム,イリジウム,白金の異常濃集が認められた(前後層準のおよそ100倍).また,クロムおよびイリジウム濃度に着目すると,セクション全体ではCr/Ir比は大陸地殻やマントル物質のCr/Ir比と同程度の高い値(~106)をとるのに対し,白金族元素濃集層ではCr/Ir比は ~2×105と1桁低い値を示すことが明らかとなった.
白金族元素濃集層の低いCr/Ir比は,後期三畳紀に形成されたManicouaganクレーター起源のイジェクタ層およびRochechouartクレーター内のインパクトメルト岩と同程度の値を示し(Sato et al., 2016, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 442, 36-47; Tagle et al., 2009, Geochim. Cosmochim. Acta, 73, 4891-4906),地球外物質の混入を示唆している.特異層の堆積年代は,ノーリアン/レーティアン境界(205.7 Ma; Maron et al., 2019, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 517, 52-73)より下部のノーリアン最後期に相当することから,Rochechouartクレーター(206.92 ± 0.32 Ma; Cohen et al., 2017, Meteorit. Planet. Sci., 52, 1600-1611)起源のインパクトメルトに由来する可能性が高い.したがって本研究は,Rochechouartクレーターを形成した天体衝突がノーリアン/レーティアン境界直前に生じたイベントであったことを支持するが,境界における生物絶滅との因果関係については今後さらなる検討が必要である.