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[T4-O-9] 層状チャートのオスミウム同位体比からみた三畳紀-ジュラ紀境界の環境変動
キーワード:三畳紀-ジュラ紀境界、オスミウム同位体、層状チャート、中央大西洋火成岩岩石区
三畳紀-ジュラ紀(TJ)境界(およそ201.4 Ma)には顕生代の5大絶滅のひとつが起きたことが知られており、その直前の後期三畳紀においても段階的な絶滅イベントが指摘されている(Rigo et al., 2020)。三畳紀末の大量絶滅を引き起こした原因の一つとして,分裂を始めたパンゲア大陸で形成したCentral Atlantic Magmatic Province (CAMP)の火成活動が有力視されている。CAMPは巨大火成岩岩石区の1つであり、玄武岩を主体とした噴出岩と貫入岩からなる (Marzoli et al., 2018)。CAMP が引き起こした環境変動と三畳紀末の大量絶滅のメカニズムとの関連は十分には解明されておらず、この問題の解明には三畳紀後期における環境変動を明らかにすることが重要である。
海洋のオスミウム同位体比(187Os/188Os)は主に上部大陸地殻(187Os/188Os =~1.3)、地球外物質(~0.13)、上部マントル(~0.13)の3つの供給源からの寄与率を反映して変動する。後期三畳紀における全球的な海洋のOs同位体比の復元は、まだ発展途上にある。本研究ではニュージーランドおよび西南日本に分布するTJ境界層状チャートのOs同位体比の変動を検討し、それらを対比することで全球的な Os同位体比変動を推定し、その古環境学的意義を考察した。これらの層状チャートはパンサラッサ海の遠洋性堆積物であり、大陸源砕屑物による地域的な影響を受けにくいため、全球的なOs同位体比変動を記録していると考えられる。
本研究ではニュージーランド北部、パキヒ島のPakVセクション(岡田ほか2015)のチャート層、および愛媛県西予市、明浜のAYセクション(吉田卒論、2017)のチャート層についてOs濃度、レニウム(Re)濃度、Os同位体比を測定し、堆積年代を200 Maとして年代補正を行い堆積時のOs同位体比(187Os/188Osi)を求めた。
先行研究による生層序学的情報に基づいて、本研究で得られたPakVおよびAYセクションのOs同位体比の変動を、愛知県犬山地域の栗栖セクション(Kuroda et al., 2010)およびイタリア南部のSasso di Castaldaセクション(Sato et al., 2021)のOs同位体比の記録と比較した。その結果、Norian-Rhaetian境界、Lower-Upper Rhaetian境界、三畳紀―ジュラ紀境界付近では複数のセクションOs同位体比の低下が見られ、これらは全球的なOs同位体比変動であることが示唆された。また、これらの変動は層序対比におけるタイポイント(Tie Point)として有効であることが示された。本研究ではTJ境界において白金族元素であるOs濃度の顕著な上昇が認められず、天体衝突を支持する証拠は得られなかった。また、大陸風化速度の急激な変化が起こったことを示す証拠も得られていない。これらのことから、本研究で見られるOs同位体比の低下は火成活動などによって上部マントル起源のOsが海洋に供給されたことを示唆している。パンゲア大陸で形成されたCAMPの火成岩類が風化して河川を通じて海洋に流入するとOs同位体比の低下が起きることが予想されたが、CAMPの主要な形成期間(201.635 ± 0.029 Ma – 200.916 ± 0.064 Ma; Blackburn et al., 2013; Davies et al., 2017)の大部分ではOs同位体比の低下が見られなかった。このことから、CAMPからパンサラッサ海へのOs流入フラックスは小さかったことが示唆される。
引用文献
Blackburn et al. (2013) Science 340, 941-945
Davies et al. (2017) Nat. Commun. 8, 15596
Kuroda et al. (2010) Geology 38, 1095-1098
Marzoli et al. (2018) Chapter 4 in The Late Triassic World. Top. Geobiol. 46, 91-125
岡田有希,堀利栄,池田昌之,池原実(2015)大阪微化石研究会誌 15, 219-232.
Rigo et al. (2020) Earth Sci. Rev. 204, 103180
Sato et al. (2021) Chem. Geol. 586, 120506
吉田夏子 (2017) 愛媛大学卒業論文.
海洋のオスミウム同位体比(187Os/188Os)は主に上部大陸地殻(187Os/188Os =~1.3)、地球外物質(~0.13)、上部マントル(~0.13)の3つの供給源からの寄与率を反映して変動する。後期三畳紀における全球的な海洋のOs同位体比の復元は、まだ発展途上にある。本研究ではニュージーランドおよび西南日本に分布するTJ境界層状チャートのOs同位体比の変動を検討し、それらを対比することで全球的な Os同位体比変動を推定し、その古環境学的意義を考察した。これらの層状チャートはパンサラッサ海の遠洋性堆積物であり、大陸源砕屑物による地域的な影響を受けにくいため、全球的なOs同位体比変動を記録していると考えられる。
本研究ではニュージーランド北部、パキヒ島のPakVセクション(岡田ほか2015)のチャート層、および愛媛県西予市、明浜のAYセクション(吉田卒論、2017)のチャート層についてOs濃度、レニウム(Re)濃度、Os同位体比を測定し、堆積年代を200 Maとして年代補正を行い堆積時のOs同位体比(187Os/188Osi)を求めた。
先行研究による生層序学的情報に基づいて、本研究で得られたPakVおよびAYセクションのOs同位体比の変動を、愛知県犬山地域の栗栖セクション(Kuroda et al., 2010)およびイタリア南部のSasso di Castaldaセクション(Sato et al., 2021)のOs同位体比の記録と比較した。その結果、Norian-Rhaetian境界、Lower-Upper Rhaetian境界、三畳紀―ジュラ紀境界付近では複数のセクションOs同位体比の低下が見られ、これらは全球的なOs同位体比変動であることが示唆された。また、これらの変動は層序対比におけるタイポイント(Tie Point)として有効であることが示された。本研究ではTJ境界において白金族元素であるOs濃度の顕著な上昇が認められず、天体衝突を支持する証拠は得られなかった。また、大陸風化速度の急激な変化が起こったことを示す証拠も得られていない。これらのことから、本研究で見られるOs同位体比の低下は火成活動などによって上部マントル起源のOsが海洋に供給されたことを示唆している。パンゲア大陸で形成されたCAMPの火成岩類が風化して河川を通じて海洋に流入するとOs同位体比の低下が起きることが予想されたが、CAMPの主要な形成期間(201.635 ± 0.029 Ma – 200.916 ± 0.064 Ma; Blackburn et al., 2013; Davies et al., 2017)の大部分ではOs同位体比の低下が見られなかった。このことから、CAMPからパンサラッサ海へのOs流入フラックスは小さかったことが示唆される。
引用文献
Blackburn et al. (2013) Science 340, 941-945
Davies et al. (2017) Nat. Commun. 8, 15596
Kuroda et al. (2010) Geology 38, 1095-1098
Marzoli et al. (2018) Chapter 4 in The Late Triassic World. Top. Geobiol. 46, 91-125
岡田有希,堀利栄,池田昌之,池原実(2015)大阪微化石研究会誌 15, 219-232.
Rigo et al. (2020) Earth Sci. Rev. 204, 103180
Sato et al. (2021) Chem. Geol. 586, 120506
吉田夏子 (2017) 愛媛大学卒業論文.