14:00 〜 14:15
[T4-O-12] 白亜系海洋無酸素事変層準堆積岩の菌類パリノモルフ分析による菌類フロラの変遷復元
キーワード:パリノモルフ、菌類、海洋無酸素事変、白亜紀
[はじめに] 現代において最も多様なグループの一つである菌類は,陸上生態系において分解者または共生者として重要な位置を占めている。地球史においても,大量絶滅期の陸上荒廃に際して分解者として菌類の一時的な増加が報告されており(Vajda & McLoughlin, 2004; Rampino & Eshet, 2018),また,平常時においても分解や大陸風化の促進によって炭素循環に大きな影響を与えた可能性が示唆されている(Pieńkowski et al., 2016; Taylor et al., 2009, 2011)。本研究では,中期白亜紀に複数回発生した大きな環境擾乱イベントとして知られている海洋無酸素事変(OAE)を記録した堆積岩から有機質微化石(パリノモルフ)を分離し,特に菌類フロラの変遷に注目した蛍光顕微鏡観察の結果を報告する。
[試料と方法] 南東フランス・ボコンティアン堆積盆から採集したOAE1a(Goguel),OAE1b(Jacob,Kilian,Paquier),OAE1d(Breistroffer),OAE2(Thomel)層準,ブラジル・Araripe堆積盆 Santana層(Estivaセクション)のOAE1b層準,北海道・蝦夷層群(白金沢,朱鞠内川,大曲沢セクション)のOAE2層準,北米カリフォルニア州・Great Valley Sequence(North Fork Cottonwood Creekセクション)のOAE2層準試料を用いてパリノモルフ分析を行った。ケロジェンはSawada et al.(2012)に従って分離し,透過・蛍光顕微鏡を用いて観察した。菌類の同定には落射微分干渉観察と蛍光顕微鏡観察を組み合わせて行った。
[結果と考察] 南東フランス・ボコンティアン堆積盆において菌類パリノモルフはOAE1a期(Goguel層準)からはほとんど観察されず,OAE1b期(Kilian, Paquier層準),OAE1d期(Breistroffer)やOAE2期(Thomel)では菌糸や菌胞子といった菌類パリノモルフが多く観察された。特に陸源の寄与が高かったとされるOAE1dの黒色頁岩層では,菌胞子やCallimothallus属に似た子実体も産出し,菌類パリノモルフの多様性も高い結果となった。これは,南東フランスのセクションよりも陸に近い堆積場であったブラジルのOAE1b期(Estivaセクション)においても同様の傾向がみられたことから,菌類パリノモルフの増減は陸源有機物の流入量に大きく起因していることが強く示唆された。一方で,同じ南東フランス・ボコンティアン堆積盆においても観察される菌類パリノモルフの傾向が大きく異なっており,OAE1bまでは担子菌類や子嚢菌類に特徴的な隔壁を持つ菌糸が大半を占め,OAE1d以降はより原始的な隔壁を持たない菌糸のみが産出した。同時期に被子花粉が出現していることや,OAE2期に後背地が草本優勢の植生であったThomelに対して森林植生だったと考えられる蝦夷層群では隔壁を持つ菌糸が顕著であることから,菌類パリノモルフにみられる菌類フロラの変化は植生の変化を反映していると考えられる。本講演では,さらに北米カリフォルニアのOAE2(North Fork Cottonwood Creekセクション)の結果についても議論し,菌類パリノモルフを用いた白亜紀海洋無酸素事変における陸域生態系を,特に菌類フロラの変遷に着目して発表する。
[引用文献]
Pieńkowski, G. et al., 2016. Scientific Reports, 6, 31930.
Rampino, M.R. & Eshet, Y. 2018. Geoscience Frontiers, 9, 147-154.
Sawada, K. et al., 2012. Journal of Asian Earth Sciences, 54, 78-90.
Taylor, L. et al., 2009, Geobiology, 7, 171-191.
Taylor, L. et al., 2011. American Journal of Science, 311, 369-403.
Vajda, V. & McLoughlin, S. 2004, Science, 303, 1489.
[試料と方法] 南東フランス・ボコンティアン堆積盆から採集したOAE1a(Goguel),OAE1b(Jacob,Kilian,Paquier),OAE1d(Breistroffer),OAE2(Thomel)層準,ブラジル・Araripe堆積盆 Santana層(Estivaセクション)のOAE1b層準,北海道・蝦夷層群(白金沢,朱鞠内川,大曲沢セクション)のOAE2層準,北米カリフォルニア州・Great Valley Sequence(North Fork Cottonwood Creekセクション)のOAE2層準試料を用いてパリノモルフ分析を行った。ケロジェンはSawada et al.(2012)に従って分離し,透過・蛍光顕微鏡を用いて観察した。菌類の同定には落射微分干渉観察と蛍光顕微鏡観察を組み合わせて行った。
[結果と考察] 南東フランス・ボコンティアン堆積盆において菌類パリノモルフはOAE1a期(Goguel層準)からはほとんど観察されず,OAE1b期(Kilian, Paquier層準),OAE1d期(Breistroffer)やOAE2期(Thomel)では菌糸や菌胞子といった菌類パリノモルフが多く観察された。特に陸源の寄与が高かったとされるOAE1dの黒色頁岩層では,菌胞子やCallimothallus属に似た子実体も産出し,菌類パリノモルフの多様性も高い結果となった。これは,南東フランスのセクションよりも陸に近い堆積場であったブラジルのOAE1b期(Estivaセクション)においても同様の傾向がみられたことから,菌類パリノモルフの増減は陸源有機物の流入量に大きく起因していることが強く示唆された。一方で,同じ南東フランス・ボコンティアン堆積盆においても観察される菌類パリノモルフの傾向が大きく異なっており,OAE1bまでは担子菌類や子嚢菌類に特徴的な隔壁を持つ菌糸が大半を占め,OAE1d以降はより原始的な隔壁を持たない菌糸のみが産出した。同時期に被子花粉が出現していることや,OAE2期に後背地が草本優勢の植生であったThomelに対して森林植生だったと考えられる蝦夷層群では隔壁を持つ菌糸が顕著であることから,菌類パリノモルフにみられる菌類フロラの変化は植生の変化を反映していると考えられる。本講演では,さらに北米カリフォルニアのOAE2(North Fork Cottonwood Creekセクション)の結果についても議論し,菌類パリノモルフを用いた白亜紀海洋無酸素事変における陸域生態系を,特に菌類フロラの変遷に着目して発表する。
[引用文献]
Pieńkowski, G. et al., 2016. Scientific Reports, 6, 31930.
Rampino, M.R. & Eshet, Y. 2018. Geoscience Frontiers, 9, 147-154.
Sawada, K. et al., 2012. Journal of Asian Earth Sciences, 54, 78-90.
Taylor, L. et al., 2009, Geobiology, 7, 171-191.
Taylor, L. et al., 2011. American Journal of Science, 311, 369-403.
Vajda, V. & McLoughlin, S. 2004, Science, 303, 1489.