日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T4.[トピック]地球史

[1oral111-17] T4.[トピック]地球史

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:安藤 卓人(島根大学・エスチュアリー研究センター)、桑野 太輔(千葉大学)

14:30 〜 14:45

[T4-O-14] ルテチウム-ハフニウム放射年代を用いた遠洋性褐色粘土の年代決定手法の開発

*大田 隼一郎1,2,3、木村 純一3、常 青3、宮崎隆3、Vaglarov Bogdan Stefanov3、加藤 泰浩1,2,3 (1. 東京大学、2. 千葉工業大学、3. 海洋研究開発機構)

キーワード:遠洋性粘土、放射年代、イクチオリス、レアアース泥

遠洋性褐色粘土とは、大陸から遠く離れた遠洋域で堆積する堆積物種であり、海洋底全体の30%以上の領域を覆っている[1]。遠洋性褐色粘土は、生物活動が不活発で、大陸からの風成塵などの物質供給量も少ない海域で堆積するため、堆積速度が小さいという特徴をもつ。そのため、魚類の骨の破片、海水起源の鉄マンガン酸化物、宇宙塵などといった、堆積フラックスの非常に小さな物質が、他の堆積物種と比較して多く含まれている。この特徴を利用することで、堆積速度の小さな物質に記録された地球環境変動と物質循環の記録を読み解くことができる。近年の特に顕著な研究成果としては、南鳥島沖で発見されたレアアースを極めて高濃度で含む「超高濃度レアアース泥」の発見とその成因の解明が挙げられる[2,3]。超高濃度レアアース泥は、地球寒冷化の開始時に魚類が増えたことで魚類の骨の破片が大量に堆積し、それがレアアースを濃集したことで生成したと考えられている[3]。さらに、こうした魚類の骨の破片が大量に堆積してレアアースを濃集するというイベントは、新生代において複数回生じたこともわかっている[4]。 遠洋性褐色粘土を用いた遠洋域研究を精力的に展開していくにあたって最も重要となるのは、堆積年代の決定である。従来、遠洋性褐色粘土には年代指標となる炭酸塩・珪酸塩からなる微化石や古地磁気層序が保存されていないことから、年代決定が難しいとされてきたが、堆積物に記録された海水のオスミウム同位体比を用いた年代を決定するオスミウム同位体比層序年代と、魚類の歯(イクチオリス)の形態的分類に基づいた生物層序年代を組み合わせた手法により、体系的な年代決定が可能となってきている[3]。実際に、この手法を用いて、上述した超高濃度レアアース泥の堆積年代を、およそ3,440万年前と高精度に決定することに成功している[3]。そして、このオスミウム同位体比層序年代とイクチオリス層序年代を遠洋性褐色粘土コアに広く適用し、遠洋域研究をさらに進展させていくにあたって鍵となってくるのが、「年代マーカー」である。オスミウム同位体比層序年代のような層序学的な年代決定手法は、上下の層準との相対的な関係性から年代を決定する相対的な年代決定手法であるため、年代を絶対的に固定できる層準となる「年代マーカー」がなければ、年代が一意に定まらない恐れがある。この「年代マーカー」は、多ければ多いほど年代の正確性と信頼性を高めることができるが、遠洋性褐色粘土に適用できうる年代マーカーは、現状では6,600万年前の白亜紀/古第三紀境界や堆積物最表層(0万年前)にほぼ限られており、極めて少ないのが現状である。 ここで、遠洋性褐色粘土の単独の層準から絶対的な年代値を得ることができるようになれば、それを年代マーカーとして扱うことで、上述した相対的年代決定手法との組み合わせにより、強力な年代決定ツールとなる。そこで本研究では、遠洋性褐色粘土に多く含まれている魚類の骨の破片が、レアアースのひとつであるルテチウム(Lu)を濃集することに着目し、それがハフニウム(Hf)に放射改変することを利用したLu-Hf放射年代を適用することを試みた。まず予察的分析を行うために、年代がおよそ3,400万年前のレアアース泥試料を用い、ふるい分けと重液分離を用いて魚類の骨の破片を分離した。さらに化学的洗浄を行ってマンガン酸化物などの付着物を除去したうえで、イオンクロマトグラフィーによってLu-Hfを分離した。Lu-Hf同位体分析は、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターに設置されているマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて実施した。本発表においては、試料の分離から同位体分析までの手順の詳細と分析結果、およびさらなる高確度・高精度・高効率分析に向けた検討結果について述べる。
参考文献:[1] Dutkiewicz et al., Geology 43, 795–798, 2015. [2] Iijima et al., Geochem. J. 50, 557–573, 2016. [3] Ohta et al., Sci. Rep. 10, 9896, 2020. [4] Tanaka et al., Ore Geol. Rev. 119, 103392, 2020.