2:45 PM - 3:00 PM
[T4-O-15] Spatangoida fossils from middle Miocene Tanabe Group in the Wakayama Prefecture, Japan.
Keywords:Spatangoida, middle Miocene, Tanabe Group
ブンブク目はウニ類の中でも最大の種数を誇るグループであり,その生息場所は多岐に富む.また,岩礁域ではなく砂泥底に生息する種が多いことから,正形ウニと比較すると化石として保存されやすく,年代や生息環境ごとの優占種の変遷といった研究が可能である.しかしながら,その同定には生殖孔の数や殻表面の各種帯線を確認する必要があり,圧縮変形や母岩の固結度の上昇(殻表面の観察が困難になる)の影響が強くなる前~中期中新世の化石では詳しい報告例は多いとは言えない.複数地域にまたがって,もしくは多数の個体の産出が報告された例としては,Moria obesa (田野沢層,多里層),Cagaster reticanalis (犀川層,余川層群),Brissopsis makiyamai (網尻層,備北層群等),Brissopsis sp.(師崎層群),Eupatagus nipponicus (砂子坂層,田野沢層等)が挙げられる(引用文献[1],[4],[5]ほか)が,今回これらとは異なるグループに属するブンブク目化石が複数個体得られたのでここに報告する.ブンブク目化石は,和歌山県白浜町庄川,内の川,上富田町生馬など複数地点において,シルト岩もしくは細粒砂岩中から散在して産出し,40個体以上を確認した.[8]によれば,これらの地点には田辺層群朝来層郷地谷部層と同層群白浜層S1部層が分布する.年代については,朝来層から産出した浮遊性有孔虫化石からBlowのN8後期,すなわち中期中新世初頭の16~15Ma頃と解釈されている([6]).なお,朝来層上部については,N8後期に日本各地で起こった海進の影響で堆積した外洋に面した沖合の堆積物とされ,その上位にある白浜層は比較的浅い大陸棚上の堆積物と考えられている([7]).化石は基本的に上下方向に圧縮変形を受けた上に殻が溶脱しており特徴が読み取りづらいものもあるが,反口側において「正面歩帯が深い溝になり,前端部が浅く凹む.」,「前方花弁は直線状ではなくわずかにカーブし,周縁部まで到達しない.」,「前方および後方花弁は浅く凹む.」「前方花弁は後方花弁の1.5倍以上の長さがある.」,「頂上系は中央よりやや後方に位置する.」といった特徴が多くの個体において共通して認められ,すべて同一種である可能性が高い.これに加えて保存の良い標本において,「生殖孔の数が2であること」と「周花紋帯線と側・肛帯線の存在」を確認できた.以上の特徴は,現在の日本近海に生息するブンブクチャガマ(Shizaster lacunosus )のそれにかなり一致するが,前方花弁に比する後方花弁の長さがS. lacunosusに比べてより長いという点が異なる.種レベルの同定にはさらなる検討が必要であるが,ここでは本種をShizaster sp.としておく.国内の下~中部中新統においては,[3]が岐阜県の瑞浪層群生俵層から,[2]が富山県の朝ヶ屋層から,それぞれShizaster sp.を報告しているが,標本の保存が悪かったり記載や図示がされていない等の理由で本種との比較ができない.しかしながら,本種がこれらと同種である可能性は残されており,もしそうだとすればかなり広範囲に分布していたことになる.少なくとも本調査地域においては複数地点・層準にまたがって多数の個体が発見されていることから,紀伊半島南部の浅海域においては本種が優占種であったことは確実で,他地域の浅海堆積物からも本種が発見される可能性は大いにある.下~中部中新統のブンブク目化石は同定が不十分なまま報告されていない標本がまだ多数存在すると思われるので,今後はそういった標本の検討もしつつShizaster sp.の分布域を探りたい.引用文献:[1]水野(1992)中新統師崎層群から産出したウニ類.瑞浪化石博研報,19,337-346.[2]森下(1950)石川・富山県の新第三紀海胆.地質学雑誌,55,254-259.[3]森下(1953)岐阜県新第三紀の化石海胆類.Trans.Proc.Palaeont.Soc.Japan,N.S.,11,61-64. [4]Nishiyama,(1968) The echinoid£auna from Japan and adjacent regions. Part II. Palaeont. Soc. Japan, Sp.13,,1-491. [5]岡本ほか(1990)庄原市宮内町貝石谷の中新世備北層群の貝化石群集.瑞浪化石博研報,17,35-50. [6]田辺団研(1984)紀伊半島田辺層群の層序と構造.地球科学,38(4),249-263.[7]田辺団研(1985)紀伊半島田辺層群の研究.和大教育学部紀要,34,3-24..[8]田辺団研(1992)朝来累層の堆積相と層序.地球科学,46(6),369-383.