3:00 PM - 3:15 PM
[T4-O-16] Reconstruction of paleoenvironmental changes based on the planktic foraminiferal assemblages in the upper Pliocene to lower Pleistocene Tentokuji and Sasaoka Formations distributed in the Masayamazawa area, northern part of Akita Prefecture
Keywords:Late Pliocene, Planktic foraminifera, Northern Hemisphere glaciation, Japan Sea
日本海沿岸に沿って分布する最上部新生界は,石油坑井の層序検討にともなって古くから検討がおこなわれてきた.特に上部鮮新統から最下部更新統の海成堆積岩類は微化石を豊富に含むことから,層序学的検討とともに堆積当時の環境復元に有用である.後期鮮新世はmid-Pliocene warm period (Raymo et al., 1996)と呼ばれる温暖化や,その後の北半球高緯度域における氷床の拡大とそれに伴う汎世界的な寒冷化(Rea et al., 1995)など地球環境変動の仕組みを理解するうえで重要な地質時代である.近年のIODPの成果は当時の日本海の海洋環境変遷の全容を明らかにしつつある.例えば,北半球高緯度海域の氷床拡大に伴い,遷移帯~亜熱帯種の放散虫化石群集が減少し顕著な寒冷化傾向を示すとともに(Matsuzaki et al., 2018),4 Ma以降に注目すると,より湿潤で変化の大きい気候は1.8 Ma以降に認められるようになった(Tada et al., 2020).こうしたなか,当時の日本列島沿岸域での環境変動については,寒冷化や海水準低下の影響を受ける一方で,暖流の流入も指摘される.しかし,寒冷化のタイミングや暖流の流入時期に関してはいくつかの研究で主張が異なる(Itaki, 2016; 北村,2007など).本研究では秋田県北部柾山沢地域の岩相調査,浮遊性有孔虫化石の群集解析と,有孔虫殻の安定酸素同位体比分析の結果に基づいて,鮮新世末から更新世始めの古海洋環境について詳細な検討を行った.
上部鮮新統~下部更新統天徳寺層・笹岡層の露出が良好な柾山沢ルートの調査に基づくと,調査区間中の天徳寺層最下部では塊状で淘汰の良い青灰色シルト岩,同層上部は塊状で淘汰の良い青灰色砂質シルト岩,その上位の笹岡層は塊状で淘汰の良い青灰色極細粒砂岩,その上位の中沢層は塊状で半固結の細粒砂岩から成り,中沢層中にはスウェール状斜交層理が観察された.このことから,本調査区間は上方浅海化傾向を示し,最終的に下部外浜環境まで浅海化したものと推測される.
群集解析では浮遊性有孔虫化石が産出した76試料のうち,100個体以上産出した46試料を用いた.5属13種が同定され,Globigerina bulloidesが最も多産し,次いでGloboconella inflata praeinflata,Neogloboquadrina incomptaが多産する.これらの特徴から,本調査区間は米谷(1978)のGlobigerina pachyderma(dextral)/Globorotalia orientalis Zoneに対比される.これは,本調査地域の天徳寺層・笹岡層境界に石灰質ナンノ化石基準面A(2.75 Ma)が追跡されるという佐藤ほか(2003)の結果と調和的である.G. bulloidesとGlobigerina quinquelobaの相対頻度を足し合わせた低塩分で富栄養な環境を示す指標の極大値が岩相の粗粒化のタイミングと一致したことから,これらの変化は本研究地域における浅海化とそれに伴う河川の影響の増加を示していると推測される.さらに,G. inflata s.l.を温帯性中層水の発達の指標とすると,その産出が断続的であることから,本研究地域において温帯性中層水の発達が断続的に生じたことが推測される.これに加え,温暖種のGlobigerinoides ruberの産出傾向から,鮮新世末から更新世始めにかけて暖流の断続的な流入が示唆される.一方,寒冷な環境を示唆するNeogloboquadrina pachydermaの産出は極めて少なく,2.75 Ma以降も寒冷化傾向はみられない.講演では,有孔虫殼の酸素同位体比分析に基づく海洋環境変動についても議論する.
引用文献 米谷, 1978, 日本の新生代地質, 35–60; Raymo et al., 1996, Mar. Micropaleontol., 27, 313–326; Rea et al., 1995. Sci. Results, 145, 577–596; Matsuzaki etal., 2018, Prog. Earth Planet. Sci., 5:54;Tada et al., 2020, Prog. Earth Planet. Sci., 7:55; Itaki, 2016, Prog. Earth Planet. Sci., 3:11; 北村, 2007, 化石, 82, 82–59; 佐藤ほか, 2003, 地質学雑誌, 109, 280–292.
上部鮮新統~下部更新統天徳寺層・笹岡層の露出が良好な柾山沢ルートの調査に基づくと,調査区間中の天徳寺層最下部では塊状で淘汰の良い青灰色シルト岩,同層上部は塊状で淘汰の良い青灰色砂質シルト岩,その上位の笹岡層は塊状で淘汰の良い青灰色極細粒砂岩,その上位の中沢層は塊状で半固結の細粒砂岩から成り,中沢層中にはスウェール状斜交層理が観察された.このことから,本調査区間は上方浅海化傾向を示し,最終的に下部外浜環境まで浅海化したものと推測される.
群集解析では浮遊性有孔虫化石が産出した76試料のうち,100個体以上産出した46試料を用いた.5属13種が同定され,Globigerina bulloidesが最も多産し,次いでGloboconella inflata praeinflata,Neogloboquadrina incomptaが多産する.これらの特徴から,本調査区間は米谷(1978)のGlobigerina pachyderma(dextral)/Globorotalia orientalis Zoneに対比される.これは,本調査地域の天徳寺層・笹岡層境界に石灰質ナンノ化石基準面A(2.75 Ma)が追跡されるという佐藤ほか(2003)の結果と調和的である.G. bulloidesとGlobigerina quinquelobaの相対頻度を足し合わせた低塩分で富栄養な環境を示す指標の極大値が岩相の粗粒化のタイミングと一致したことから,これらの変化は本研究地域における浅海化とそれに伴う河川の影響の増加を示していると推測される.さらに,G. inflata s.l.を温帯性中層水の発達の指標とすると,その産出が断続的であることから,本研究地域において温帯性中層水の発達が断続的に生じたことが推測される.これに加え,温暖種のGlobigerinoides ruberの産出傾向から,鮮新世末から更新世始めにかけて暖流の断続的な流入が示唆される.一方,寒冷な環境を示唆するNeogloboquadrina pachydermaの産出は極めて少なく,2.75 Ma以降も寒冷化傾向はみられない.講演では,有孔虫殼の酸素同位体比分析に基づく海洋環境変動についても議論する.
引用文献 米谷, 1978, 日本の新生代地質, 35–60; Raymo et al., 1996, Mar. Micropaleontol., 27, 313–326; Rea et al., 1995. Sci. Results, 145, 577–596; Matsuzaki etal., 2018, Prog. Earth Planet. Sci., 5:54;Tada et al., 2020, Prog. Earth Planet. Sci., 7:55; Itaki, 2016, Prog. Earth Planet. Sci., 3:11; 北村, 2007, 化石, 82, 82–59; 佐藤ほか, 2003, 地質学雑誌, 109, 280–292.