10:00 AM - 10:15 AM
[G1-O-5] Geological constraints on dynamic changes of fluid pressure in seismic cycles
Keywords:Accretionary complex, Extensional vein, Fluid pressure, Seismic cycles
流体は断層挙動に重要な影響を与えている。沈み込みプレート境界地震発生帯の流体圧の変動には2つのモデルがある。一つはFault valve behaviorで、イベント発生時に流体圧力が低下するものである(Sibson, 1992)。もう一つは、摩擦熱により流体圧力が上昇するThermal pressurization (TP)である(e.g., Sibson, 1973)。この2つのモデルは時間スケールが異なるため、あるイベントにおいて共存する可能性がある。両者の流体圧変動を一つの断層帯から定量的に制約することはこれまでなされていない。そこで本研究では、牟岐メランジュに見られる伸長鉱物脈を伴う底付け断層帯を対象とし、断層帯から地震サイクルに伴う流体圧変動を定量的に制約することを目的とする。
牟岐メランジュは、底付け付加体である。本研究で対象とした断層帯は、東北東方向に走向を持ち、南または北に急傾斜する。玄武岩を主体としており、底付け付加に関連していると考えられる(Ikesawa et al., 2005)。断層帯直上の陸原性堆積物からなるメランジュでは、メランジュ構造を切断する伸長鉱物脈がネットワーク状に発達している。この鉱物脈は断層帯近傍で観察されることから、底付け断層帯に関連した鉱物脈であると解釈される。また、ネットワーク状鉱物脈は互いに切断していることから、鉱物脈が複数のステージで繰り返し発達したことが示唆される。
本研究では、鉱物脈に対して混合ビンガム分布法を適用し、古応力と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji and Sato, 2011, Yamaji, 2016)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧(ΔPo)を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。P*を推定するためにDriving pressure index (DPI)を用いた。DPIは、鉱物脈形成時の正規化した法線応力の確立分布を示す関数の95パーセンタイル点を近似することで、P*の代表値とするものである(Faye et al., 2018)。 その結果、3つの応力(応力1,2,3)とそれに対応するP*を得ることができた。鉱脈形成時の応力場を復元するために、断層帯の面構造を水平に回転させた。回転後の応力1は、正断層応力場 (P*= 0.30) 、応力2は、アンダーソン的ではない応力場 (P*= 0.15) 、応力3は、逆断層応力場 (P*= 0.24) を示している。逆断層と正断層応力場が記録されており、露頭の観察から鉱物脈が複数の応力ステージの繰り返しを示すことから、この鉱物脈は、地震サイクル間での応力変化を記録している可能性がある。P*とMatsumura et al. (2003)による流体包有物からの流体圧の最大値と最小値を用いて、引張強度 (Ts) と深度をそれぞれ約6.94-9.38MPa と約5.14-5.33 kmと制約した。岩石破壊理論(Secor, 1965)より、深度とTsから鉱脈形成時の最小流体圧(Pfmin)を計算できる。P*が0より大きい場合、ΔPoも0より大きく、このΔPoとPfminの和は、鉱物脈形成時の最大流体圧(Pfmax)を示す。推定したP*とTsを用いて最大のΔPoは逆断層応力場で約6.7-9.0MPa、正断層応力場で約8.3-11.3MPaと制約した。 逆断層応力場で推定されたΔPoは静岩圧を超える流体圧上昇を示し、TPなどの動的な流体圧上昇である可能性がある。また、正断層応力場での鉱物脈形成時の流体圧は、逆断層応力場で形成される鉱物脈より小さくなることが示され、地震後の流体圧減少を示している可能性がある。そのため、流体包有物から推定される流体圧の幅は、Fault valve behaviorで想定される流体圧の最小減少量の最大見積りを示している。
本研究で制約された流体圧変動は、伸長鉱物脈形成領域下のものである。地震サイクル間での流体圧変動を捉えるためには、剪断モード領域において流体圧変動を制約する必要があるため、今後検討を行っていく。
引用文献 Sibson, 1992, Tectonophysics; Sibson, 1973, Nature Physical Science; Ikesawa et al., 2005, Tectonophysics; Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology; Yamaji, 2016, Island Arc; Otsubo et al., 2020, Scientific reports; Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology; Matsumura et al., 2003, Geology; Secor, 1965, American Journal of Science
牟岐メランジュは、底付け付加体である。本研究で対象とした断層帯は、東北東方向に走向を持ち、南または北に急傾斜する。玄武岩を主体としており、底付け付加に関連していると考えられる(Ikesawa et al., 2005)。断層帯直上の陸原性堆積物からなるメランジュでは、メランジュ構造を切断する伸長鉱物脈がネットワーク状に発達している。この鉱物脈は断層帯近傍で観察されることから、底付け断層帯に関連した鉱物脈であると解釈される。また、ネットワーク状鉱物脈は互いに切断していることから、鉱物脈が複数のステージで繰り返し発達したことが示唆される。
本研究では、鉱物脈に対して混合ビンガム分布法を適用し、古応力と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji and Sato, 2011, Yamaji, 2016)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧(ΔPo)を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。P*を推定するためにDriving pressure index (DPI)を用いた。DPIは、鉱物脈形成時の正規化した法線応力の確立分布を示す関数の95パーセンタイル点を近似することで、P*の代表値とするものである(Faye et al., 2018)。 その結果、3つの応力(応力1,2,3)とそれに対応するP*を得ることができた。鉱脈形成時の応力場を復元するために、断層帯の面構造を水平に回転させた。回転後の応力1は、正断層応力場 (P*= 0.30) 、応力2は、アンダーソン的ではない応力場 (P*= 0.15) 、応力3は、逆断層応力場 (P*= 0.24) を示している。逆断層と正断層応力場が記録されており、露頭の観察から鉱物脈が複数の応力ステージの繰り返しを示すことから、この鉱物脈は、地震サイクル間での応力変化を記録している可能性がある。P*とMatsumura et al. (2003)による流体包有物からの流体圧の最大値と最小値を用いて、引張強度 (Ts) と深度をそれぞれ約6.94-9.38MPa と約5.14-5.33 kmと制約した。岩石破壊理論(Secor, 1965)より、深度とTsから鉱脈形成時の最小流体圧(Pfmin)を計算できる。P*が0より大きい場合、ΔPoも0より大きく、このΔPoとPfminの和は、鉱物脈形成時の最大流体圧(Pfmax)を示す。推定したP*とTsを用いて最大のΔPoは逆断層応力場で約6.7-9.0MPa、正断層応力場で約8.3-11.3MPaと制約した。 逆断層応力場で推定されたΔPoは静岩圧を超える流体圧上昇を示し、TPなどの動的な流体圧上昇である可能性がある。また、正断層応力場での鉱物脈形成時の流体圧は、逆断層応力場で形成される鉱物脈より小さくなることが示され、地震後の流体圧減少を示している可能性がある。そのため、流体包有物から推定される流体圧の幅は、Fault valve behaviorで想定される流体圧の最小減少量の最大見積りを示している。
本研究で制約された流体圧変動は、伸長鉱物脈形成領域下のものである。地震サイクル間での流体圧変動を捉えるためには、剪断モード領域において流体圧変動を制約する必要があるため、今後検討を行っていく。
引用文献 Sibson, 1992, Tectonophysics; Sibson, 1973, Nature Physical Science; Ikesawa et al., 2005, Tectonophysics; Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology; Yamaji, 2016, Island Arc; Otsubo et al., 2020, Scientific reports; Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology; Matsumura et al., 2003, Geology; Secor, 1965, American Journal of Science