日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

[1oral213-20] G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:神谷 奈々(同志社大学)、高下 裕章(産業技術総合研究所)

13:45 〜 14:00

[G1-O-14] 塩ノ平―車断層帯から読み取られた複合面構造と応力逆解析による運動履歴の推定

*酒井 亨1,2、亀高 正男1、青木 和弘3、島田 耕史3、高木 秀雄2 (1. 株式会社ダイヤコンサルタント、2. 早稲田大学、3. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:活断層、塩ノ平断層、車断層、断層破砕帯、複合面構造、応力逆解析

断層破砕帯に形成される断層岩類には,内部に複合面構造などの微細構造が発達することが知られており,それらを詳細に観察することで構造形成時の運動方向を推定することが可能である(例えば,Rutter et al.,1986;高木・小林,1996).一方,過去の断層活動時の応力場の復元には,断層スリップデータを用いた多重逆解法(Yamaji,2000)が広く用いられているが,この手法は基本的には広域に分布する小断層を対象としており,単一の断層破砕帯中軸部に適用された事例は少ない.本研究では,2011年福島県浜通りの地震で活動した塩ノ平断層と,その南方延長部に位置するが活動しなかった車断層を対象に,断層岩の複合面構造解析を実施した.露頭観察,研磨片および薄片による構造観察に加え,破砕帯中軸部で断層スリップデータを密に計測し,多重逆解法による応力逆解析を試みた.観察・解析の概要と結果,考察を下記に記す.
【構造観察】
 塩ノ平断層の塩ノ平地点および別当地点の断層露頭を詳細に記載した.また,各露頭から採取したブロック試料,塩ノ平断層塩ノ平地区のSSH-1孔,別当地区のSBT-1孔,車断層水上北地区のKMK-2孔のボーリングコア試料から,最新活動面に直交する鉛直断面で研磨片および薄片を作製し,上下方向の運動成分を推定した.その結果,両断層とも破砕帯の外側から最新活動面にかけて,やや固結して粗粒な断層角礫から未固結で細粒な断層ガウジが分布し,正断層成分,逆断層成分,正断層成分の順に変形組織が確認された.断層破砕帯の幅は隆起に伴い薄化するとされ(例えば,Scholz,2002),破砕帯の外側から中軸部にかけて,古い組織から新しい組織が形成されることが示唆される.したがって,塩ノ平断層および車断層の最新活動面付近の運動として,正断層成分,逆断層成分,正断層成分の順に変遷が生じていると考えられる.他方,塩ノ平地区では上盤の古第三系~新第三系には逆断層成分の組織のみ確認され,別当地区では逆断層成分の組織を切る方解石脈が認められた.
【応力逆解析】
 最新活動面を含む破砕帯中軸部を重点的に観察し,塩ノ平断層塩ノ平地区SFS-2孔の深度16.00~19.00 mから42データ,車断層水上北地区MFS-1孔の深度20.00~24.00 mから55データの断層スリップデータを取得した.これらの断層スリップデータをもとに多重逆解法を用いて応力逆解析を実施したところ,塩ノ平断層および車断層でそれぞれ4つの応力状態が検出された.各応力状態において低ミスフィット角(≦30°)を示す剪断面は,ある深度区間に集中する傾向がみられた.破砕帯の薄化現象によって,外側から最新活動面にかけて新しい組織が形成されていると仮定し,ステージ分けを行った.その結果,塩ノ平断層で6ステージが推定され,Stage S-Ⅰの正断層,Stage S-Ⅱの逆断層,Stage S-Ⅲの正断層,古第三系~新第三系堆積後にStage S-Ⅳの逆断層,Stage S-Ⅴの逆断層成分を伴う右横ずれ断層,方解石晶出後に浜通りの地震を含むStage S-Ⅵの正断層の順に活動が生じたと考えられる.車断層では4ステージが推定され,古第三系堆積後にStage K-Ⅰの逆断層,Stage K-Ⅱの右横ずれ成分を伴う正断層,Stage K-Ⅲの左横ずれ成分を伴う逆断層,Stage K-Ⅳの右横ずれ成分を伴う正断層の順に履歴が復元された.構造観察で判読した鉛直成分は,塩ノ平断層はStage S-Ⅲ~Stage S-Ⅵ,車断層はStage K-Ⅱ~Stage K-Ⅳに該当すると考えられ,矛盾しない.以上より,塩ノ平断層と車断層の破砕帯中軸部の複合面構造解析を実施した結果,両断層は異なる運動方向と応力場の変遷を経験していることが明らかとなった.
【引用文献】
Rutter et al.,1986,PAGEOPH,124,3-30.
Scholz, C. H.,2002,The mechanics of earthquakes and faulting,2nd ed.,Cambridge University Press,471p.
高木秀雄・小林健太,1996,地質学雑誌,102,170-179.
Yamaji, A.,2000,J. Struct. Geol.,22,441‒452.