日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

[1oral213-20] G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:神谷 奈々(同志社大学)、高下 裕章(産業技術総合研究所)

15:15 〜 15:30

[G1-O-20] 小断層方位から複数の応力と摩擦係数を自動検出する逆解析法

*佐藤 活志1 (1. 京都大学)

キーワード:小断層解析、応力逆解析、摩擦係数、情報量規準

断層群の方位解析により地殻応力を知るため,構造地質学と地震学の分野で応力逆解析法が広く用いられている.近年,応力だけでなく断層の摩擦係数を推定する手法が開発されてきた.しかし,多数の断層データから,複数の応力や複数の摩擦係数を検出する手法は確立していない.特に構造地質学分野では,地質時代の複数の変形を記録した断層群のデータが得られる場合が多いので,複数の応力と摩擦係数を検出できる手法が求められる.
複数の応力を検出する手法は,2000年代以降にいくつか提案されてきた.岩脈や方解石双晶を用いた応力逆解析では,情報量規準を用いた応力数の決定ができるようになっている.しかしながら,断層データを用いた解析では,情報量規準による応力数の決定ができていない.これは,断層データの頻度分布を表現する確率分布モデルが存在していないためである.
本研究は,逆解析の目的関数を断層ごとに算出し,目的関数値の頻度分布を表現する確率分布モデルを考案した.目的関数は,従来の応力逆解析で最小化されるミスフィット角(観測された滑り方向と剪断応力がなす角)と,摩擦係数の決定において最大化される断層不安定度(滑りやすさ)の両方から構成される.複数の確率分布を重ね合わせた混合分布モデルを用いることで,最尤法の手順によって複数の応力と摩擦係数を決定できる.また,混合する分布の数を変えて解析結果を比較すれば,情報量規準によって最適な解の数を決定できる.
模擬データの解析により,新手法の性能を検証した.模擬データは,南北圧縮と東北東圧縮の2つの逆断層型応力に適合する断層を50条ずつ混ぜ合わせたデータである.前者の応力に適合する断層は,内部摩擦角を30°と想定し,断層不安定度の大きい方位に集中している.後者の応力に適合する断層面の方位はランダムである.解析の結果,情報量規準によって応力数2が正しく選択された.主応力軸はほぼ正しく決定されたが,摩擦係数の確度は低かった.
新手法を,別府-島原地溝の第四系碩南層群を切る小断層群に適用した.結果として応力数2が選択され,南北引張と東北東-西南西引張の2種類の正断層型応力が検出された.上位層準との比較により,およそ100万年前に応力転換があったことが示唆された.