09:00 〜 09:30
[S1-O-1] 白亜紀古日本陸弧−海溝系の連続性と前弧堆積盆の地質分布からみた関東地域の位置付け
キーワード:白亜紀、古第三紀、古日本陸弧−海溝系、前弧堆積盆、関東地域
日本海拡大前の日本列島の地質学的背景を理解するには,白亜紀から古第三紀の古日本陸弧−海溝系の地質記録をよく保存する前弧堆積盆の地層を比較し,西南日本,東北日本の連続性と違いを検討することが重要である(安藤,2006). しかし,その境界域にある関東地域は,新第三紀以降のテクトニクスによる改変や厚い被覆層のためその当時の情報が乏しい.
関東地方の古第三紀以前の地質を考えるには,1) 断続的に続く古第三紀以前の地層群の分布とその連続性の評価,2) 日本海拡大に伴う東北日本弧と西南日本弧の相対運動やその横ずれリフト帯である北部フォッサマグナの形成などによって被った,古第三紀以前の基盤岩類の構造変形,3) 関東地域の地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に伴う基盤岩類への影響の,3つの視点が必要であろう.
西南日本から東北日本に散点的ながら断続的帯状に分布する,白亜紀前弧の堆積物は,安藤・高橋(2017)において層序と堆積相,年代層序から広域対比と連続性の評価が試みられている.西南日本では,1) 外帯の秩父帯(関東山地〜九州)に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島—四国の和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群の,2列をなしている.一方,東北日本では福島県南部から岩手県北部にかけて太平洋岸に孤立しながら散点的に分布するが,現在の前弧堆積盆の海底下には厚く南北に連続的に広がっていることが知られている.そして,その北方は北海道中軸部の蝦夷層群に連続する.個々の地域における地層の時代範囲は短く,堆積相も合わせてそれぞれ異なることが多いが,堆積盆レベルで見ると白亜紀前期から末期まで広がっている.白亜紀/古第三紀境界付近の地層は認められないが,暁新統が断続的に確認できる.全体として,明瞭な層序の類似性は見出し難いが,大きな差異や広域不整合も認められない.化石相や古生物地理研究からは大局的に同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.こうした,地質学的背景から,サハリン—北海道まで含めれば,基本的には西南日本から東北日本にかけて2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元されている.
近年,各地の前弧堆積物の砕屑性ジルコンのU-Pb年代スペクトルが明らかにされ,その時間的・地理的変遷が弧—海溝系内での位置や後背地の変化(場合によって背弧側からの異地性岩体)によるもの解釈されるようになった(例えば,中畑ほか,2016,長谷川ほか,2020).特に三河から関東山地にかけての白亜紀後期〜暁新世の孤立した地層群の年代スペクトルから,2列の地層分布が少なくとも関東東部までは連続することが示された.こうした研究動向を把握して,関東対曲構造と呼ばれる,日本海拡大に続く,伊豆小笠原弧の衝突による,白亜紀古日本陸弧−海溝系の構成要素の変形・移動を考慮して,関東地方の重要性をまとめてみる.
一方,三陸沖から鹿島沖にかけての東北日本の太平洋海底下の白亜系〜古第三系は,基礎物理探査や基礎試錐によって広域に厚く分布することが判明している.公表されたものは多くないが,馬場(2017)では,日高沖〜棚倉構造線南方延長域にいたる前弧域で,白亜系〜古第三系暁新統(Cr),始新統〜漸新統下部(P2),漸新統上部〜中新統下部(P1)の震探層序ユニットが識別され,三陸沖堆積盆ではP2,P1間に大規模傾斜不整合(漸新世不整合)があるのに対し,常磐沖堆積盆には認められずP1+P2が一連で,新第三系に不整合で接する.常磐沖では,最大層厚2,000mを越えるCrが認められており,棚倉構造線東側までは潜在する.場所によっては下部白亜系以下の堆積層と思われる構造も見られるので,3D探査を含めた最新の探査記録解析の公表が待たれる.いずれにしても,東西幅数十〜百数十km規模の前弧域が広がっていることは,西南日本への前弧域の延長を考慮する際に重要である.
関東平野では地下地震探査が行われ地下深部構造が調べられており,さらに,関東平野地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に関する研究も盛んであり (例えばWada and He, 2017),こうした成果が,地表における古第三系以下の地層群の分布や構造にどんな制約を与えてくれるかも興味深い.
文 献:安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2東北地方,427-478,朝倉書店/長谷川ほか,2020, 地学雑誌,129, 397-421/中畑ほか, 2016,地学雑誌,125, 717-745/Wada and He, 2017, GRL, 44, 7194-7202.
関東地方の古第三紀以前の地質を考えるには,1) 断続的に続く古第三紀以前の地層群の分布とその連続性の評価,2) 日本海拡大に伴う東北日本弧と西南日本弧の相対運動やその横ずれリフト帯である北部フォッサマグナの形成などによって被った,古第三紀以前の基盤岩類の構造変形,3) 関東地域の地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に伴う基盤岩類への影響の,3つの視点が必要であろう.
西南日本から東北日本に散点的ながら断続的帯状に分布する,白亜紀前弧の堆積物は,安藤・高橋(2017)において層序と堆積相,年代層序から広域対比と連続性の評価が試みられている.西南日本では,1) 外帯の秩父帯(関東山地〜九州)に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島—四国の和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群の,2列をなしている.一方,東北日本では福島県南部から岩手県北部にかけて太平洋岸に孤立しながら散点的に分布するが,現在の前弧堆積盆の海底下には厚く南北に連続的に広がっていることが知られている.そして,その北方は北海道中軸部の蝦夷層群に連続する.個々の地域における地層の時代範囲は短く,堆積相も合わせてそれぞれ異なることが多いが,堆積盆レベルで見ると白亜紀前期から末期まで広がっている.白亜紀/古第三紀境界付近の地層は認められないが,暁新統が断続的に確認できる.全体として,明瞭な層序の類似性は見出し難いが,大きな差異や広域不整合も認められない.化石相や古生物地理研究からは大局的に同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.こうした,地質学的背景から,サハリン—北海道まで含めれば,基本的には西南日本から東北日本にかけて2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元されている.
近年,各地の前弧堆積物の砕屑性ジルコンのU-Pb年代スペクトルが明らかにされ,その時間的・地理的変遷が弧—海溝系内での位置や後背地の変化(場合によって背弧側からの異地性岩体)によるもの解釈されるようになった(例えば,中畑ほか,2016,長谷川ほか,2020).特に三河から関東山地にかけての白亜紀後期〜暁新世の孤立した地層群の年代スペクトルから,2列の地層分布が少なくとも関東東部までは連続することが示された.こうした研究動向を把握して,関東対曲構造と呼ばれる,日本海拡大に続く,伊豆小笠原弧の衝突による,白亜紀古日本陸弧−海溝系の構成要素の変形・移動を考慮して,関東地方の重要性をまとめてみる.
一方,三陸沖から鹿島沖にかけての東北日本の太平洋海底下の白亜系〜古第三系は,基礎物理探査や基礎試錐によって広域に厚く分布することが判明している.公表されたものは多くないが,馬場(2017)では,日高沖〜棚倉構造線南方延長域にいたる前弧域で,白亜系〜古第三系暁新統(Cr),始新統〜漸新統下部(P2),漸新統上部〜中新統下部(P1)の震探層序ユニットが識別され,三陸沖堆積盆ではP2,P1間に大規模傾斜不整合(漸新世不整合)があるのに対し,常磐沖堆積盆には認められずP1+P2が一連で,新第三系に不整合で接する.常磐沖では,最大層厚2,000mを越えるCrが認められており,棚倉構造線東側までは潜在する.場所によっては下部白亜系以下の堆積層と思われる構造も見られるので,3D探査を含めた最新の探査記録解析の公表が待たれる.いずれにしても,東西幅数十〜百数十km規模の前弧域が広がっていることは,西南日本への前弧域の延長を考慮する際に重要である.
関東平野では地下地震探査が行われ地下深部構造が調べられており,さらに,関東平野地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に関する研究も盛んであり (例えばWada and He, 2017),こうした成果が,地表における古第三系以下の地層群の分布や構造にどんな制約を与えてくれるかも興味深い.
文 献:安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2東北地方,427-478,朝倉書店/長谷川ほか,2020, 地学雑誌,129, 397-421/中畑ほか, 2016,地学雑誌,125, 717-745/Wada and He, 2017, GRL, 44, 7194-7202.