日本地質学会第129年学術大会

講演情報

シンポジウム

S1.[シンポ]関東の地質:露頭から大深度地下まで(一般公募なし)

[1oral301-06] S1.[シンポ]関東の地質:露頭から大深度地下まで(一般公募なし)

2022年9月4日(日) 09:00 〜 12:00 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:加藤 潔(駒澤大学)、笠間 友博(箱根ジオパーク推進協議会)

09:30 〜 10:00

[S1-O-2] 関東平野地下における中央構造線の東方延長

*高木 秀雄1 (1. 早稲田大学)

キーワード:中央構造線、関東平野、領家帯、三波川帯

関東山地の中央構造線(以下MTL)は,三波川変成岩や御荷鉾緑色岩と,その北に広く分布する中新統との境界として認識され,下仁田の大北野−岩山断層露頭では50−70°北傾斜,その東部の牛伏山断層(鏑川団体研究グループ,1985)では20−40°北傾斜をなす.領家変成岩は約60Maの黒雲母K-Ar年代を示す花崗岩類に伴って比企丘陵のみに露出し(高木・長濱,1987),そのほか70MaのジルコンU-Pb年代(佐藤ほか,2018)をもつ平滑花崗岩が下仁田に露出する.比企丘陵東部の吉見丘陵に露出する吉見変成岩は,一部に輝石を含む角閃岩〜ざくろ石角閃岩を主体とし,結晶片岩が含まれる.それらのK-ArおよびジルコンU-Pb年代(変成年代で70−60Ma)より,吉見変成岩は三波川帯に帰属するものと考えられている(高木ほか,1989;足立ほか,2007).比企丘陵の領家帯と吉見丘陵の三波川帯から想定される中央構造線の地表トレースは不自然にカーブを描くが,地震反射断面(嵐山側線:小澤ほか,2003)により,比企丘陵の領家帯は低角度に傾斜するMTLが押しかぶさって正断層で落ち込んだ構造的クリッペであることで,説明できる. 吉見丘陵より東部では,基盤岩の露出がないため,ボーリングコアやカッティングスの帰属が検討されている(林ほか,2006;高木・高橋,2006;高木ほか,2006a, b,2010,2015).それらのうち,領家帯に帰属を求められたものが防災科学技術研究所による岩槻観測井,つくば南観測井(茎崎コア)および石油資源開発(株)による松伏の基盤コアと,温泉開発のための野田市花井のカッティングスであり,筑波変成岩に帰属を求められたものがつくば市下原のカッティングスである.特に岩槻,松伏,茎崎のコアと野田市のカッティングスはいずれもマイロナイト化しており,MTLから近接している可能性が高い.一方,三波川変成岩に帰属を求められるものは林ほか(2006)による総括に従う. 関東山地の跡倉ナップを構成する前期白亜紀変成岩(寄居変成岩)や,その上位の金勝山ナップを構成するペルム紀石英閃緑岩とホルンフェルスの起源として,それぞれ阿武隈帯(肥後帯)および南部北上帯に求められた.従って,東北日本の構成要素がかつて領家帯と三波川帯の間に挟まれており,それが九州の肥後帯まで続いていたと考えられ,MTLと棚倉構造線は本来連続するものであると考えられた(高木・柴田,2000).それに対し,高橋(2006)は,西南日本の地体構造はフォッサマグナの東縁断層として位置づけられる利根川構造線によって切断され,右にずらされていることから,それらは延長しても太平洋の中にあると述べた.その根拠として,前期中新世の火山前線の約230 kmの右ずれを挙げている. 上述した岩槻コア基底部については,マイロナイトの上位3,346–2,864 m深度に鉛直方向の長さ482 mの花崗斑岩が存在し,その黒雲母K-Ar年代は17.7Maという前期中新世の年代を示す(高木ほか,2006a).従って,前期中新世の火山前線は岩槻観測井の南を通っている可能性がある.つまり,前期中新世の火山前線の右ずれは,フォッサマグナ全体で賄っており,利根川構造線のみで大きくずれる必要はないものと考えられる.
文献
足立達朗・岩崎一郎,Dunkley, D. J.・外田智千,2007,日本地質学会第 114 年学術大会演旨, P15.
林 広樹・笠原敬司・木村尚紀,2006,地質雑,112, 2-13. 鏑川団体研究グループ,1985,地質雑,91,375-377.
小澤岳史, 川崎慎治, 川中 卓, 井川 猛, 伊藤谷生, 笠原敬司, 佐藤比呂志, 2003,  日本地震学会講演予稿集.
佐藤興平・竹内 誠・鈴木和博・南 雅代・柴田 賢,2018,群馬県立自然史博 物館研報,no.22,79-94.
高木秀雄・林 広樹・高橋雅紀・岩崎一郎,2006b,地質雑,112,口絵i.
高木秀雄・柴田 賢,2000,地質学論集,no.56, 1-12.
高木秀雄・柴田 賢・内海 茂,1989,岩鉱,84,15-31. 高木秀雄・鈴木宏芳・高橋雅紀・濱本拓志・林 広樹,2006a,地質雑,112, 53-64.
高木秀雄・高橋雅紀,2006,地質雑,112,65-71.
高木秀雄・高橋雅紀・林 広樹・笠原敬司・堀江憲路・麻原良浩・岩野英樹・山本俊也・関口渉次(2015)地質雑,121, 325-337.
高木秀雄・武田佳明・石井 徹,2010,地質雑,116, 453-457.
高木秀雄・長濱裕幸,1987,地質雑,93,201-215.
高橋雅紀,2006,地質雑,112, 14-32.