129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T7.[Topic Session]From magma source to magma plumbing system

[1oral401-07] T7.[Topic Session]From magma source to magma plumbing system

Sun. Sep 4, 2022 9:00 AM - 11:00 AM oral room 4 (Build. 14, 401)

Chiar:Keisuke ESHIMA, Kazuya Shimooka

10:30 AM - 10:45 AM

[T7-O-6] Feldspar compositional distribution of Toya pyroclastic flow deposits

*Hiroya Iijima1, Minoru Sasaki1 (1. Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University)

Keywords:Toya caldera, large–scale pyroclastic eruption, feldspar compositional distribution, magma process

洞爺カルデラは北海道南西部に位置する日本有数の陥没カルデラである.洞爺カルデラは約11万年前の洞爺火砕流の噴出により形成されたと考えられている.洞爺火砕流の噴出量は80–160 km³ と推定され,これに洞爺火山灰(Toya)の噴出量150 km³ を加えると,見かけの総噴出量は230–310 km³ と考えられ、火山爆発指数(VEI)は7に相当する(宝田,2019).洞爺カルデラ形成噴火については多数の先行研究がある(例えば,池田・勝井,1986; Lee, 1996; Goto et al. 2018など).Goto et al. (2018) は洞爺火砕流堆積物の層序から複数の火砕流ユニットに区分し,洞爺カルデラ形成噴火における噴火過程について検討した.洞爺カルデラ形成噴火はその噴火過程において複数のマグマの関与が示唆されているが,詳細なマグマプロセスは不明な点が存在する.
火山噴出物について粉砕した岩石試料から鉱物を分離してその平均組成分布を測定することで,その分布が噴出物の識別・対比およびマグマプロセスの解明に有効である可能性が示されている(佐々木, 2012; 佐々木, 2016).マグマプロセスの解明は大規模火砕噴火における噴火予測にも有用であると考えられ,防災の観点からも重要である.本研究では洞爺火砕流堆積物について斜長石試料を用いて平均組成分布を測定し,その結果について考察を行う.
試料は,Goto et al. (2018) に基づき長流川東岸の3地点で採取した. Unit 1から6各噴出ユニットの基質試料,および一部のユニットの軽石試料を測定に用いた.測定用試料は全岩試料から均一に取り出しており,その鉱物組成分布は岩石試料全体の鉱物組成分布を示している.本研究ではEPMAを用いて斜長石斑晶の組成分析を行った.
洞爺火砕流堆積物の長石組成分布には,噴火の全期間を通して見られる分布と噴火期間の一部で見られる分布が存在する.全期間でAn8に最大のピークを持ちAn6–10の組成領域に集中した分布を示す.火砕流ユニットのうちUnit 1,2,4の基質試料では,その他にAn30–46の組成領域に緩やかな分布が見られ,Unit 3aの基質試料やUnit 5bの軽石試料には全試料に共通するAn6–10の組成領域に集中した分布のみを示す.最上位の火砕流ユニットであるUnit 6 の基質試料には,An20–32の組成領域にやや鋭いピ–クを持つ分布が存在する.基質試料の一部にはAn4以下の領域に分布が認められるが,これらの組成はAb–Or間の広い領域に分布していることから,マグマ由来の斜長石ではなく変質した岩石片に対応すると推測される.
全期間でみられる斜長石の起源はカルデラ形成噴火における主要なマグマに由来し,ピークの位置や分布の形状については噴火の経過による変化が認められないことから,一連の噴火は一貫してほぼ同一組成のマグマが噴出したと推定される.一部の期間でみられる斜長石の起源については,2通りの可能性が考えられる.1つは,主要なマグマと同時により苦鉄質なマグマが噴出した可能性である.Goto et al.(2018)ではUnit 5,6で白色軽石の他に縞状軽石や灰色軽石が含まれていることを報告していることから,Unit 6に見られる斜長石はこのマグマに由来する可能性が高い.Unit 5bの白色軽石試料にはそれらの組成の斜長石はほとんど含まれないため,Unit 5bの噴出ステ–ジではこの苦鉄質なマグマは主要なマグマとはほとんど混合せずに別個に噴出したと推定される.次に,Unit 1,2に見られる斜長石は,Unit 3aの基質試料ではその分布が明瞭でなくなり,さらに上位のユニットでは不明瞭であるがわずかに分布する.これは同時に噴出した苦鉄質なマグマというよりも,主要なマグマの噴出時に巻き込まれるようにして同時に噴出した類質または異質物質に由来する可能性があり,その含有量は噴火の経過とともに減少する傾向が見られる.
以上のことから,洞爺カルデラ形成噴火の初期は主要なマグマが類質ないし異質物質を巻き込みながら噴出し,火道が確立するとその混入が少なくなり,ほとんど主要なマグマのみが噴出するようになった.そして噴火の後期になると主要なマグマの他により苦鉄質なマグマが同時に噴出するようになったと考えられる.さらに詳細なマグマプロセスの解明には全岩試料やガラス試料の化学組成との比較や,長石以外の鉱物組成分布についても検討する必要がある.

文献
Goto et al.(2018)地学雑, 127, 191–227; 池田・勝井(1986)日本火山学会予稿集, 1; Lee(1996)火山, 41, 31–34; 佐々木(2012)日本火山学会予稿集, 80; 佐々木(2016)日本火山学会予稿集, 85; 宝田(2019)日本火山学会予稿集, 46.