日本地質学会第129年学術大会

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セッション口頭発表

T12.[トピック]火山噴出物から読み解く火山現象と防災への応用

[1oral408-10] T12.[トピック]火山噴出物から読み解く火山現象と防災への応用

2022年9月4日(日) 11:15 〜 12:00 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:辻 智大(山口大学)、古川 邦之(愛知大学)

11:30 〜 11:45

[T12-O-2] 阿蘇カルデラから170 km離れた山口市徳地におけるAso-4火砕流堆積物の発見

*辻 智大1、太田 岳洋1、藤原 尚起1、中田 英二2、潮田 雅司3、中村 千怜4 (1. 山口大学、2. 電力中央研究所、3. 四国総合研究所、4. ナイバ)

キーワード:Aso-4火砕流、低アスペクト比火砕流、長距離移動、堆積過程、降下軽石層

【はじめに】Aso-4火砕流は,約9万年前の阿蘇4噴火によって放出された大規模火砕流の一つであり,国内の活火山から発生した火砕流としては,国内で最も遠くまで到達した火砕流である.Aso-4火砕流のような拡散型の大規模火砕流の移動には内的・外的な要因が複雑に関係することから,その運搬能力や堆積過程は解明されていない.特に,火砕流の末端部に関して産状の記載例が不足していることから,詳細について不明な点が多い.今回,山口県山口市徳地での県の道路改良工事現場にてAso-4火砕流堆積物(以下,Aso-4と呼称する)の最遠部の露頭を発見したので報告し,その堆積過程とその意義について論じる.
【産状】本Aso-4露頭は,佐波川上流の徳地柚野中学校跡地であり,従来報告されていたAso-4分布域より20 kmほど北東であり(図1),これまで報告されていない地域での発見である.また,本地点は阿蘇カルデラ中心から170 km離れており,Aso-4として最遠方相である.露頭では,下位から,基盤岩を覆う中位段丘礫層,灰白色粘土,Aso-4,白色シルト,砂礫層,褐色土壌,AT,褐色土壌,黒色土壌,K-Ah,黒色土壌が累重する.AT,K-Ahが一つの露頭で観察されるのは本州では非常に希である.露頭西側ではAso-4は侵食されており,露出しない.Aso-4は,下位の灰白色粘土を覆うようにして,層厚20~50 cmで堆積する.本堆積物は,デューンもしくはアンチデューン,斜交葉理、平行葉理の発達した火砕サージ堆積物である.橙色の層と優黒色の層が層厚4~10 cm程度で互層ないしレンズ状に混在して堆積している.各層の内部には葉理が認められる.上位の層が下位の層を侵食する侵食基底面がいずれの層にも認められ,下位の層をレンズ状ブロックとして含んでいることがある.橙色の層は軽石由来の風化粒子に富み,優黒色の層は鉱物に富む.砂サイズの粒子を主体としており,軽石の最大粒径は1 cmである.Aso-4の最下部には層厚2~3 cmで連続性の良い層が認められる.この層はマントルベッドしていること,明瞭な級化構造を示すこと,クラストサポートであること,軽石が円摩されていないことから,降下軽石層と解釈される.
【考察】堆積学的特徴から,Aso-4は,火砕物密度流の下部にて砂~細礫サイズの粒子が比較的濃密な流れとして移動・堆積したトラクション(掃流)堆積物と考えられる.Aso-4中の堆積ユニットはそれぞれ下位の降下軽石や下位のユニットを侵食していることから,侵食と堆積を何度も繰り返して形成されたと解釈される.Aso-4の発見地点は佐波川の上流域であるにもかかわらず,佐波川の下流域にはAso-4火砕流堆積物は報告されていないことから,輸送経路として谷に沿って椹野川を遡上して佐波川上流に達した可能性がある.Aso-4のような拡散型の大規模火砕流であっても,火砕流の遠方域では,その輸送過程に地形が影響していたと考えられる.これは,Aso-4の層厚分布から地形条件による制約について論じた長田ほか(2018)とも調和的ある.Aso-4のまた,Aso-4の基底部に降下軽石層が存在することは,これまで星住ほか(2022)によってAso-4X降下軽石の報告があるのみであり,非常に重要である.本降下軽石層に関する詳細分析を今後行っていく予定である.
引用文献:星住ほか(2022)火山,67,91-112.
図1.九州中部~山口県におけるAso-4の分布.